Episode01-24 ギャル娘との出会い②
「ったく、何で俺が……」
あの後、何故か車から降りて来た吉川先輩が、
――迅、ちょっと見てきてやれよ――
と余計な事を言ったせいで、俺は管理事務所の奥にある林に入ることになってしまった。
――すんなり帰って貰うには、ちょっと見てきて何もありませんでしたって言うのが一番だろ――
というのは腹黒い吉川先輩らしい耳打ちだったが、確かにそうなのかもしれない。でも、だったら
「自分で行けよ」
と思う。まぁ、言っても梃子でも動かない人だけど……
ということで、俺はLEDライトを片手に暗い林の中を歩くのだが、林に入って少し歩いた所で変なモノを見つけた。それは、
「サンダル……とズボン?」
どちらも女物に見える。ズボンの方はピンク色に白いストライプが入ったジャージだ。よく見ると表面に落ち葉や泥がベタっと付着している。
「これだけ脱いで置いて行くって……どういう状況だよ」
と思うが、何となく変な感じがするのは確かだ。それにズボンに触ってみると、まだ「温かい」気もする。もしかしたら「アヤネ」という少女が着ていたものかもしれない。
「どんな服を着ていたか、一応聞いてみるか」
俺はそう思い吉川先輩に電話をしようとスマホを取り出す。そして画面を見て固まった。というのも、立ち上げた画面は「
――穢界に侵入しますか? はい/いいえ――
のメッセージが出た状態だったから。
「マジか……」
よく見るとすぐ目の前の大きな木の根元に「穢界」への入口を示す「黒い渦」がある。ここに「穢界」が在るのは確かだ。
(まさか穢界に迷い込んだ? いや、そんな事って……)
思わず自問する。例えばこれが「開いた穢界」だった場合、穢界と現実世界が同化しているので入口に当たる「黒い渦」はないはず。だったら、
(アヤネって子はアプリのユーザー? いや、もしかしたら――)
もしかしたら、俺の時のようにいつの間にか「
(確かに、穢界の近くに居ると「はい」をタップするだけで中に入れるからな)
確率的にはものすごく低い話だが、無いとは言えない。
(仕方ない……ちょっと見てくるか)
俺はそう決めると、画面の「はい」をタップした。
*******************
強い眩暈を何とか堪えて目を開ける。
周囲は現実世界の林を模したような空間だが、現実世界が真夜中だったのに対して、こちらは「黄昏時」といった感じの明るさ。ただ、この「一見して視界に問題ない感じ」にこの前の「駐車場の穢界」では騙された。なので、俺はスマホをタップして「
パッと広がる青白い光で周囲を確認。取り敢えず怪異の気配は――
「きゃぁ! こないで! こないでぇぇ!」
あった。というか女性の悲鳴がモロに聞こえてきた。それも、かなり切羽詰まった感じだ。
「やばっ!」
言うと同時に俺は走り出していた。
勿論、走りながらスマホから装備類を取り出すことを忘れない。そして、茂みの中に出来た獣道のような道を辿って駆けつけた先には、
「餓鬼か!」
九等穢界で見るよりも少し大きな体格の餓鬼の後ろ姿が4匹分。そして、奴らの足元には、地面に組み敷かれた状態でボロボロに傷ついた半裸の少女の姿があった。
少女は何とか逃れようと素足をばたつかせているが、その抵抗はとても弱い。
一方、餓鬼のほうは数匹で奪い合うように少女の上着を引き裂き、下着も破り取る。そして、鋭い爪を白い肌に突き刺しては痛がる少女の反応に仲間同士で笑い声を上げている。そうかと思えば、他の数匹は少女の両足を掴んでまた裂きのように無理やりこじ開けようとし始める。その意図は多分――
(あいつら、食欲だけじゃないのかよ!)
というもの。
勿論、俺はその光景を黙って見ていた訳ではない。全力で駆け寄りながら、短刀を右手に構える。そして、
「うりゃぁ!」
駆け寄りざまに短刀を一閃。「オサキの短刀」の刃筋は真っ直ぐに餓鬼の首筋を切り裂く。
「ギョエェ!」
それで、餓鬼は断末魔を上げながら灰へ変わる。この段階で、他の餓鬼どもは俺の存在に気が付く訳だが、今回は不意と先手の両方を取っている。
俺はそのまま少女の傍らへ駆け寄ると、先ず1匹に蹴りを見舞う。スキルの「ケンカキック」が発動したのか、蹴られた餓鬼はバコッと音を立てて吹っ飛んだ。
そして蹴り足をそのまま踏み出して少女の顔の傍で踏ん張ると、「あ?」と間抜けな顔でこちらを見る2匹に対して短刀を無茶苦茶に振り回した。そのまんまスキルの「無茶苦茶斬り」だが、結果として2匹の餓鬼は数カ所の斬り傷を負って仰け反り、地面に倒れ込むと同時に灰と化していた。
*******************
「おい、大丈夫か!」
地面にぐったりと仰向けに倒れた少女からの反応はない。
呼吸をしているので死んだ訳ではない。ただ、正気に戻って来られないのだろう。恐怖で見開いた目は焦点の合っていない瞳がフルフルと小刻みに左右に揺れている状態だ。とても「意識が有る」とは言えない。
それで俺は一旦少女の正気を取り戻させるのを止めて怪我の状態を確認する。
「酷いな……」
と思わず洩れるほど、彼女の身体は傷だらけだった。お陰で、目の前の少女がほぼ全裸な状態であることも思わず意識から飛んでしまった。
全身に無数に擦り傷や引っ掻き傷が出来て血が滲んでいる。傷は新しい物もあれば、少し時間が経ったものもある。恐らく、この穢界に迷い込んで、かなり長時間にわたって餓鬼どもに追われ、嬲られ、逃げては追われ、を繰り返していたのだろう。
「よし」
俺は一言区切ると、スマホを操作してアイテムから「癒しのお札(小)」を取り出す。そして、それを彼女の小ぶりな乳房の間に置く。するとお札からパァっと柔らかい光が出て、彼女の傷は幾分ふさがった。しかし、
「1枚じゃ足りないか」
という状態。
その後、俺はストックの「癒しのお札(小)」を使い切り、更に宝珠ショップから追加で仕入れて、合計3枚を使った。その結果、
「傷は……ふさがったな。良かった……」
見た感じ傷痕が残っている風には見えない。年頃の少女だから身体に傷が残るのは辛いだろうと心配だったが、取り敢えず大丈夫そうだ。
と、ここで一安心した俺は、ふと我に返った。
「……」
目の前にはグッタリと横たわる
そして、一度視界に入って意識してしまうと、もうダメだ。今度は目を離せなくなってしまう。それほど、少女の容姿は均整の取れた美しさを持っていた。この白くて柔らかそうな肌に触れたら、どれだけ気持ちが良いのだろうか……
気が付くと、俺は少女に触れようと手を伸ばし掛けていた。
「ああ、ダメだダメだ!」
そんな自分に驚き、俺は喚くように言うと彼女に背を向ける。そして、
「着るもの、着るもの……」
宝珠ショップのラインナップを漁る事で何とか正気を保とうとしていた。
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