Episode01-23 ギャル娘との出会い①
(八神迅視点)
弊社は散々な状態になっているが、それでも月末までは「市」の仕事が残っている。
しかし、その一方で警備担当社員の相当数が既に会社を辞めるか、出社しない状況になっている。そのため、夜勤シフトは大きく変更になった。
具体的にはこれまで県内に点在していた「派出所」の数を減らし、減ってしまった夜勤組を数カ所にまとめることになった。その一方で、警備対象の施設は
つまり、
「なんで潰れる間際に忙しくなるんだよ!」
と助手席の吉川先輩がボヤくような状況になっていた。
「仕方ないじゃないですか」
「でも、これじゃ派出所に戻ってる暇がないじゃん」
「そうですね」
「派出所のWifi使えないじゃん!」
「それは、そもそも仕事用――」
「今晩中にデータ送らないといけないんだけど! 2ギガもあるんですけど!」
「大変ですね」
はっきりいって「知らんがな」的な話だ。
と、こんな感じでぶつぶつボヤく吉川先輩を助手席に乗せ、俺は慣れない
*******************
3件ほど他所の管轄地域にある巡回警備対象を回り、時刻は既に深夜2時過ぎ。少しタイトなスケジュールだが、次の1件を見回ったら、一度「派出所」に戻らないといけない。
ちなみに今日はこれまで「
「穢界の内職」の方は、始めてから既に4,5日経過しているが、今のところ順調だ。
取り敢えず20万円相当の宝珠やら浄化ポイントやらは手元に確保できた。これなら月初めの母親への仕送りや、家賃の支払い、光熱費の支払いも乗り越えられる。なので、多少「余裕」がある感じになっているのも、今日は「穢界はやめておこうかな」と思っている原因だ。
そんな風な事を考えているうちに、次の巡回警備対象が見えて来た。
場所は市が運営する緑地公園。公園内には小高い丘と小規模な林があり、その直ぐそばにある駐車場とプレハブ1階建ての管理事務所が見回り対象だ。管理事務所には日中は人が居るらしいが、夜間は無人となる。まぁ「事務所荒らし」がターゲットに選ぶような金目の物は無さそうだが、その一方で、夏休みが始まったばっかりのこの時期、この立地には特有の問題がある。それは、
「あ~居るわ~」
いかにも面倒臭そうに言う吉川先輩の視線の先、管理事務所前に設置された自動販売機の近くに停まっている原付バイクが2台。そして、いかにも頭の悪そうな格好をした男女3人の若者の姿。
「ヤンキー、うぜぇ~」
という吉川先輩だが、俺も同意見。
大体、夏休みの時期は週に2,3回は彼等と遭遇する。そして、月に2、3回は警察に通報する事になる。本当に面倒な相手なのだ。
それに今回のヤンキー達は、遠目に見える時点で既に、何だか仲間内で揉めている雰囲気を醸している。とても、自販機を前に「仲良くダベッている」感じには見えない。
「じゃ、行ってきて」
「たまには先輩がいってください」
「なんで? オレ忙しいんだけど」
そりゃ、内職だろうが! と言いたいが我慢する。ここで吉川先輩を説得して行かせる労力を考えたら、自分で行った方が(喩え相手がヤンキーでも)何倍もマシな気がしてしまう。
「……はい」
精一杯不機嫌な雰囲気を出して、俺はそう言うと車を降りた。
*******************
駐車場の敷地外に止めた車から出た俺は、そのまま管理事務所の前の自販機目指して歩く。
歩きつつ、最近はほぼ習慣と化した「穢界チェック」のためにアプリを立ち上げてマップを確認。
(あ~、向こうの林の中に八等穢界があるんだな)
と分かったが、まぁ今日は気分が乗らないのでやめておく。それに、俺は初めての穢界こそ「八等穢界(開)」という特殊な八等穢界だったが、それ以後の「内職」は全部「九等穢界」を専門にやっている。
「八等穢界」の方が稼ぎは良さそうだが、その分、中に居る怪異は強いだろう。そのリスクを取ってまで収入を増やしたい訳ではない。今の状態でも生活に困らない程度は稼げる。だから、「八等穢界」への挑戦は
(そのうち気が向いたらだな)
と思っている。
そう思って歩いている内に、俺は3人の若者(男2人に女1人)に随分と近づいていた。しかし、若者の方は俺に気付かないようで、口論のような言い合いを続けている。
「――だから、先に帰るって言って、どっか行ったんだよ!」
「は? 意味わかんないんですけど?」
「いいから、コージ、もう帰ろう!」
「ちょ、待てよタカシ。アヤネちゃんはどうするんだよ?」
「だから、先に帰ったっていってるだろ」
聞こえてくる話の内容はこんな感じ。どうやらもう1人居た
(う~ん、良く分からんけど……とりあえず)
「こんばんわ」
俺は彼等の背後からそうやって声を掛ける。すると、
「きゃ!」
「わ!」
「え?」
そんなに驚かなくてもいいのに、と思うほど3人の若者は驚いて俺を見た。そして、
「げ、警察?」
今にも原付バイクにまたがろうとしていた1人(多分タカシとかいう名前だろう)が、殊更に驚いた表情で俺を見て言う。
「いや、警察じゃないよ。ガードマン」
対して俺はそう答える。まぁ、警備員の制服は警察官との違いをハッキリとさせなければいけない決まりがあるが、どうしてもデザインが警官の制服に引っ張られている。それに、今は真夜中の駐車場だ。明かりは自動販売機の照明が1つキリなので、俺も対面の3人の人相は良く分からない。一見すると勘違いしてしまうのはしょうがないだろう。
「な、なんだよ、だったら話し掛けてくんなよ!」
一方、俺を警官だと勘違いした男(タカシ)は、ガードマンと聞いた途端に「ホッ」とした表情を浮かべるが、直ぐに語気を荒くして凄んで来た。
(なんか、忙しい奴だな)
そう思いつつ、俺は反射的にその少年(タカシという名前のよう)のシルエット(顔が良く分からない)を見返す。そこで、
(ん……なんだ?)
妙な違和感を受けた。
「な、なんだよ――」
「君、なにをしてたの?」
「え?」
「だから、なにをしてたの?」
俺の質問にキョドったように動揺するタカシ。すると今度は、
「あたし達ぃ、肝試ししてたんです。それでぇ――」
3人の内の1人、頭頂部が黒髪になっている金髪(俗に言うプリン頭)の少女が言う。間延びした喋り方だが一生懸命説明しようとするその話の内容によると、どうやら、このタカシともう1人「アヤネ」という少女が一緒に肝試しに奥の林へ入ったが、直ぐにタカシが1人で出て来た、と言う事らしい。
「だから、アヤネは1人で先に帰ったんだって!」
一方、タカシの方はプリン頭少女(名前をシオン? というらしい)が説明している間もそんな風に怒鳴って、それでもう1人の男(コウジ?)と言い合いになっている。
コウジが「お前、何やったんだよ」と訊き、タカシが「うるせ~、何もやってねぇよ!」と答える。そんなやり取りを何度か繰り返して、遂に
「メンドクセ、オレ帰るわ!」
タカシはそう言うとコウジの制止を振り切って原付バイクで走り去っていった。
「……あいつぜってぇやべぇだろ!」
コウジがそう言う一方、シオンは、
「ガードマンさん、ちょっと見てきてください」
と言う。それで思わず、
「え? なんで俺が?」
俺は真顔で訊き返したものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます