Episode02-21 八等穢界・生成り④ 変な敵
[八神迅視点]
「宝珠ショップ」には一見すると「何に使うんだ?」と疑問を感じるようなアイテムが結構ある。そんな不思議アイテムの一つが「
ちなみにその効果は、
「案山子の田吾作」
怪異からは「田吾作」に見える案山子、身体障壁200のタフガイ。
「唸り石・騒ぎ石・泣き石」
不気味な声で唸る石。大声で騒ぐ石。大袈裟に泣く石。各効果時間5分。
お得な3点セットです。
というもの(田吾作って誰だ?)。
あまりにも微妙な効果(と、その割は強気な価格設定)のお陰で、俺は「ジョークグッズの類だろう」と思い込んでいたが、今、この場においては便利そうなアイテムに見える。
勿論、中に入る際の「
俺は、河川敷の草地を突き進みつつ、「八等穢界・生成り」が出現した建築資材倉庫の敷地の外周を回る。そして敷地の一角に到達。先ほどの「神鳥」の視界では、この辺に数匹の「怪異」が固まって居ることが分かっている。だから先ずはこの場所に囮を仕掛けようと、「案山子の田吾作」をスマホから取り出す。
「あれ?」
出て来たのは手のひらサイズの
(まぁ、こんなもんか)
と深く考えないようにする。俺はその小さな案山子を敷地の外から中へ投げ込む。ついでに「微妙な石3点セット」の中から「唸り石」をチョイスして一緒に投げ込んだ。
――ガコンッ、ガンッ、コン……
投げ込んだ場所はH鋼材やら何やらが積み上がった資材置き場の一角(隅っこ)。そのため、唸り石は鉄材に当たって盛大な音を立てる。一方、手のひらサイズの案山子はH鋼材の上の方に引っ掛かって止まっていた。そして、
「うぉ!」
思わず声が出てしまった。というのも、次の瞬間、案山子が人間サイズに大きくなったから。そして、
「ううぅ、うぇぇぇぇ、うげぇぇえぇ」
こちらは多分「唸り石」の発した音。随分と気分が悪そうな……二日酔いの朝のようなリアル系の声だ。
(こんなんで囮になるのか?)
ちょっとだけ自信が無くなるが、効果は直ぐに現れた。
――カンカン、ゴンゴン、カンカン
響いて来るのは鉄材の鳴る音だが、どうやら足音のよう。恐らく怪異がH鋼の山の上に「田吾作さん」を見つけて襲い掛かろうと登って来たのだろう。
「……よし」
ということで、俺は移動を開始。
この後、俺は別の場所に「騒ぎ石」を投げ込むと、賑やかな
「よし、入るか!」
気合を入れた俺は、一気に外壁替わりのフェンスをよじ登った。
*******************
「八等穢界・生成り」の中に入った第一印象は、以前「廃ショッピングセンター」に出来ていた「八等穢界・開」と同じ様な印象。重く暑苦しい空気が身体に圧し掛かって来るような感覚だ。しかも、「廃ショッピングセンター」に比べると、空気の密度が高いような気がする。
俺は、そんな空気の中を進む。慎重に進まなければならないのは良く分かっているが、どうしても気持ちが「急いて」しまう。
(ワゴン車が敷地に入ってから10分と少し……)
ここまでの道中、翔太さんや白絹嬢とのやり取りが有ったり、「宝珠ショップ」でアイテムを調達したり、といった出来事はあったものの、別に時間を浪費した訳ではない。実際は可能な限り急いでこの場にたどり着いている。
それでも10分だ。この10分で彩音が「どうなるのか?」そんな事にばかり気が行ってしまう。
「――ギっ……」
「っ!」
一瞬、ハッとなってしまうのは、相手が子供に見えたから。脳裏には「生成り」に関する翔太さんの情報がある。だからちょっと見間違えた。しかし、実際は「小骸穢」。しかも、幸いな事に相手は1匹のみ。
ちなみに「小骸穢」という怪異は見たまんま子供のミイラな格好をしている。動きは遅い部類に入るだろう。しかし、力が結構強く、以前「オサキの短刀」を武器にしていた頃は、斃すために接近する必要があり、時々「痛い一発」を貰っていた。ただ、それも武器を「
ということで、次の瞬間には抜き身の刀を振り下ろす俺。切っ先は狙い通りに小骸穢の肩口をザックリと断ち切ってしまう。その勢いで小骸穢は地面にひっくり返った。
ただ、この後、おかしな事が起こった。
「……?」
通常、怪異は斃されると数秒から10秒以内に「灰」に変わって消えてしまう。しかし、目の前でひっくり返っている小骸穢は一向に「灰」に変わる気配がない。
「斃せてないのか――」
考えてみれば、この場は「八等」の穢界だ。出てくる「小骸穢」も少し強くなっているのだろう。俺はそう考えて、再び「一文字比良坂(偽)」を構える。ちなみに、刀の構え方は良く分からない。だから「小者剣術」らしく、俺は野球のバットを持つようにして刀を持つ。
と、その時だ。
――ボフッ!
突然、小骸穢の死体(?)が破裂音を発して赤紫の靄のような物を吐き出した。
「なんだ?」
一層警戒する俺の目の前で、赤紫の靄が急速に掻き消える。そして姿を現したのは……
「へび?」
なんとも形用しがたい怪異の姿だった。腰から下は短足の小骸穢のままだが、上半身は全身に鱗を纏った蛇……いや、頭部が蛇で残りは鱗を持つ「ヒト」の上半身に見える。
「シャァァァ!」
それ ――仮に「へび頭」としておく―― は如何にも蛇らしく、細い舌をチロチロと出して威嚇するような音を出す。
ただ、もうその瞬間には、俺は振りかぶった「一文字比良坂(偽)」を思いっきり振り抜いていた。しかし、
――ガシッ
と硬い手応え。見ると、俺の振った刀は「へび頭」の首にめり込むようにして止まっている。傷口からは血の代わりに赤紫の煙が噴き出しているが、どうやら「へび頭」の持つ鱗によって上手く斬れなかったようだ。
「ギャシャァァ!」
その状態で、「へび頭」は反撃に転じる。鉤爪付きの手を振り回して、俺の腹を切り裂こうという魂胆だろう。しかし、流石に態勢が悪い。
「うおっとぉ!」
俺は踏み込んだ右足を軸に左足を引く形で迫る鉤爪を躱しつつ、「へび頭」の首(蛇だから何処が首か良く分からないけど)に食い込んだ「一文字比良坂(偽)」を思いっきり引き斬りに振り払う。
結果、「一文字比良坂(偽)」は蛇頭の首を幅の半分まで切り裂く。それで「へび頭」は前のめりに地面に倒れ込み、今度こそ灰になって消えた。
「……八等に出てくる小骸穢って変わってるな」
というのが、この時の俺の素直な感想だったりする。
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