Episode02-20 八等穢界・生成り③ 四神相応陣と九字護身陣
引き続き[翔太・麗香サイド:麗香視点]
車が「八等穢界・生成り」の領域に突入。それと同時に、私は予め準備しておいた
「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武、以てこの地を払魔安寧の地と定めん。四方立神、四神相応。急急如律令――」
それと同時に周囲の空気が(車内を含めて)フッと軽くなるのを感じる。
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私が行ったのは陰陽師や神職が行う「結界術」のひとつ「
ちなみに、この「四神相応陣」を私は「
この辺が私の泣き所 ――霊力の低さ―― に関連しているのだが、まぁ、それを嘆いても仕方ない。
私はこの「四神相応陣」に限らず、中位以上(一部は下位も含む)の法術を殆ど全て、「古式ゆかしい従来の技法」で発動しようとしている。「
そのため、私の日常は「古式ゆかしい従来の技法」の研鑽と、実践を兼ねた蒼紫家の仕事の手伝い(一応「郎党」ではなく「客人」扱いになる)、そして「霊力上昇の鍛錬」という三本柱で成り立っている。実に年頃の女の子らしくない「灰色の日々」だ。
他の「
まぁ、それでも翔太さんのお父さん(修平さん)なんかに言わせると、
――麗香、腐ってはいけない。苦労と努力は絶対に身を助ける。
だそうだから、本当にそうであって欲しいと思っている。
何もせず無為に日々を過ごせば高校卒業とともに「普通の人生」を選ばなければならない。それでは、父さんや母さんを殺した怪異を自らの手で葬るという願いはかなわない。それが嫌だから必死に努力しているのだが、結果として私の日々は灰色一色。一応私は18歳の女子高生のはずなのだけど、私の青春って何処へ行ったのだろう?
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この状況で余計な事を考えるのは良くない。
翔太さんが八神迅の攫われた友達というのを「女性だろう」なんて言うから、ちょっとだけ、思考が
それで、私に変な話(でもないか)を語った翔太さんは、というと、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前――」
目まぐるしく両手で印を組み替えつつ「九字護身法」を発動。これは翔太さんの生家「青田丸家」が得意としている修験道の法術だ。その効果は身体機能全般の強化。ハッキリと「強化された」と私でも分かる効果がある。
私の「四神相応陣」で周囲の瘴気を祓い「怪異」の弱体化を図る。そして、翔太さんの「九字護身法」で身体機能を強化して戦う。これが私と翔太さんがコンビを組んだ時の基礎的な戦術。
その戦術が完成した結果、
「いくぞ!」
言いつつ翔太さんは車から降りると、同時にスマホから「
一方、私の武器は両親の形見である「
これはアプリ由来の武器ではないので、携行する必要がある。だからちょっと使いづらいのだけど、それでも、両親(多分お父さんの方)が使っていた形見だから使える時には積極的に使っている。これと「呪符術」「結界術」を織り交ぜて戦うのが私のやり方だ。
「っ、先ずは
車の運転席側に降りた翔太さんの声が「怪異」と接敵したことを告げる。
助手席側に降りた私も、殆ど同時にまるで子供のミイラのような姿をした「小骸穢」を視認。私の方には2匹同時にやって来たが、その動きは明らかに緩慢だ。元々「小骸穢」は素早く動くタイプの怪異ではない。それが私の「四神相応陣」の影響を受けてより一層鈍重な動きになっている。これなら、翔太さんの「九字護身法」が無くても大した問題にはならないだろう。
私はセーラー服とセット装備の学生
「我、帝の勅令により怨霊を調伏せん。怨敵退散、悪霊調伏、急急如律令!」
呪符術「破魔符」の
――ボンッ、ボンッ
2枚の呪符は、それぞれが別々の小骸穢の上半身に当たり、そこで小さな爆発を起こす。それで、2匹の小骸穢は腰から下だけが残り、地面に崩れ落ちる。
(まず2匹!)
私は斃したばかりの2匹に目もくれず、周囲の状況を確認。
左手側は建築資材(足場の材料や鋼材等々)が私の伸長くらいの高さ積み上げられていて壁のようになっている。一方、正面5メートル先には黒いワゴン車の姿がある。後部のスライドドアが開きっぱなしになっていることから、おそらく攫われた女性は……
(右側の倉庫の中ね!)
ということが分かる。
と、ここで新手の「小骸穢」が3体、正面のワゴン車の陰から姿を現す。距離は10メートル弱。相変わらず「のそのそ」とした足取りで私の方へ歩いて来るが、それを待っているつもりはない。
今度は3枚の自家製呪符を取り出して、同じく「破魔符」の呪言を発声。同時に投げつける。結果は先ほどと同じ事の繰り返し。それにしても、今日は少し調子が良い。たぶん、翔太さんの「九字護身法」のお陰だろう。もしかしたら、努力の甲斐があって自力の霊力が成長したのかもしれない。
と、そんな事を思った瞬間だった。
「――麗香、気を付けろ! 何かおかしい!」
車を挟んで反対側からそんな声を上げるのは翔太さん。私は思わず「何がですか!」と声を返すが、
「よく見ろ、斃した怪異が消えていない!」
「え?」と思う。それで、私は自分が斃した手前側の2匹の小骸穢を見るが……確かに、「破魔符」の直撃を受けて千切れ残った下半身だけが地面に倒れた状態で残っている。
これは「おかしな事」だ。「怪異」は斃されると少量の灰を残して掻き消える。それが常識。なのに――
「怪異が消えない?」
経験したことのない状況に、私は思わず声を上げる。
そんな私の声を合図にしたように、更なる異変が起きた。それは、
――ズズッ……ゴソゴソ……ズズッ
斃したハズの「小骸穢」の下半身が動き出したのだ。それは、尺取虫のように尻を持ち上げて膝立ちになろうと藻掻き、そして、膝立ちになった瞬間――
――ボンッ!
破裂音と共に毒々しい赤紫色の煙(?)を発する。煙は直ぐに宙に溶けるように掻き消えた。そして、
「なに……」
思わず息を飲む私の目の前には、ボロ布を巻きつけた小骸穢の下半身の
「なんだ、コイツは!」
車の反対側で、翔太さんが私の気持ちを代弁するような声を上げた。翔太さんでも経験したことのない異変と、見た事もない「怪異」。それが目の前にいる。
ただ、私(と翔太さん)には呆然とする時間は無かった。
変身を遂げた「獣頭の怪異」は、次の瞬間には驚くほどの素早さで襲い掛かって来たからだ。
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