Episode02-19 八等穢界・生成り② 侵入
[翔太・麗香サイド:麗香視点]
「翔太さん、彼をひとりで行かせて大丈夫なんですか?」
私は車の窓から遠ざかる彼 ――
「大丈夫か? と言われると『分からない』としか言いようがないな。しかし、一緒に行動すれば間違いなく……邪魔になる」
対して翔太さんはそんな答え。まぁ、言いたい事は分かる。なんといってもこれから入る穢界は「生成り」だ。私だって過去に1度しか経験が無い。そして、その時の経験に照らして考えると、
「たしかに」
としか言えなくなる。
さっき翔太さんが説明していた通り「生成り」は厄介な怪異だ。まず、外見がそのまま「普通の人」に見える。勿論、霊感が高ければ「生成り」の身体に纏わりついた黒い霊体が見えるので「普通の人」ではないと直感するはず。それでも、見た目が「普通の人」なので、こちらから何かを仕掛けるには精神的な抵抗感を乗り越えなければならない。
私の場合は、その精神的な抵抗感を乗り越えるのに結構な時間を必要とした。最終的には「やらなければヤラれる」という状況にまで追い込まれてしまい、何とか乗り越えることが出来たが、今思えば、その間の「もたもた」している時間は、ずっと翔太さんが援護してくれていた。
つまり、慣れていない人間を連れている限り、周囲に迷惑が掛かる。そういう事を翔太さんは言いたいのだろう。
それに、「生成り」の厄介な点は他にもあり、それは――
「彼は友達が連れ去られたと言っていたが、多分連れ去られたのは女性だろう。どうしてわかるか? 同じ男だ、必死さで分かる。多分、特別な存在なんだろう。そんな人間がもしも『生成り』を
ということ。
低等級の「生成り」の正体は往々にして「怨霊」だという。それよりも力が強い「悪霊」や「
ヤツらは人の心の隙に入り込み、まるで癌細胞のように増殖する。増殖する速さは「宿主」となった人に依存するけど、一旦「生成り」になってしまうと、今度は周囲の人々に積極的に「魔」を差し込んでいく。その時 ――病気で言えば2次感染―― の増殖速度は、最初の比ではない。
「……」
彼の「大切な人」が「生成り」になってしまうかどうかは、最早「運」でしかないだろう。よほど霊力が高いか神威が高いなら別だけど、一般人なら抵抗することは難しい。
そして、事態が最悪な状況を迎えてしまえば、私や翔太さんはソレを払わなければならない。おそらく、理由を理解できない彼は抵抗するだろう。そうなると、
「彼が言うことが本当なら、アプリを始めて1か月足らずでレベル12――」
そんな人間を相手にしつつ「怪異」と立ち回らなければならない。
ちなみに、私は「
そう考えると、
「彼……やっぱりレベル12っておかしくないですか? それにスキル経由だとしても『神鳥』が使える霊力をもっているもおかしいです」
と思う。
まぁ、霊力については「生まれつきの素養」というものが大きく関わって来るので仕方ないかもしれないが、彼のレベルはハッキリ言って異常だ。
そもそも、「穢界」や「怪異」に関わると必ず「穢れ」が溜まる。「穢れ」は自身の力を弱めるので、「
しかし、1カ月足らずでレベル12というのが事実だとすると、あの人は「穢れを払い落す時間」を全く考慮せずに毎日何度も「穢界」に入っていたことになる。理論上、「宝珠アイテム」を駆使したり、格の高い神社に通って「お祓い」をしてもらえば可能かもしれないが、式者やその郎党でもない「一般人」がそこまでする必要はないし、そんな発想すらないだろう。
そもそも、クローズドβよりも後に「
「やっぱり、おかしいです」
言っても仕方ないが、そう言ってしまう私。一方翔太さんは別の部分に注目していた。それは、
「それもそうだが、彼の怪我……いつの間にか治っていたな」
というもの。
そう言われて私もハッとした。
そうだ、彼はバイクで私たちの乗る車と衝突事故を起こしたんだ。事故直後からケロッとして普通に話していたから意識しなかったが、言われてみればおかしい。
「たしか、左肘の辺りに大きな擦り傷があったはずなのだが、さっき見たら傷が消えていた」
翔太さんはそう言うと考え込むような表情になる。
勿論、彼が車内で、例えば「癒しのお札」なんかを使っていれば傷が治っても当然なのだけど、そんな素振りは無かった。だから「自然に治った」という状況なのだが、それは本当に不自然な事だ。
「……考えていても仕方ない。そろそろ行くぞ」
結局、こうなってしまう。
この辺の疑問は、事が済んでから(彼が友好的に話せる状況だったら)直接訊けばいい。
私は翔太さんの言葉に「はい」と頷くと装備品を「
ちなみに、翔太さんの装備は「
一方、私は……「
「正面から突っ込む!」
「は、はい!」
横道に逸れ掛けた思考が翔太さんの声で元に戻る。
「中に入ったらいつも通り、『
「はい!」
「その上に私が『
「はい、いつも通りですね!」
「そうだ、掴まって!」
――ゴオォ!
翔太さんがアクセルを踏み込み、型落ちの国産SUVのエンジンが唸り声を上げる。グッと加速した車は一直線に「
――ドンッ!
という衝撃と
――ガシャンッ!
という金属が
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