Episode02-22 八等穢界・生成り⑤ 知らぬが仏の快進撃
[翔太・麗香サイド:麗香視点]
斃したハズの「怪異」が別の「怪異」に変身する。そんな経験のない状況に、私は少し混乱し、結果的に怯んでしまった。
そこを山羊の頭を持つ「獣頭の怪異」につけ込まれた。
「ベェェェ!」
小骸穢とは比較にならない速度で突っ込んで来る「山羊頭」。次の瞬間、鉤爪付きの手が(何故か手は
――ガシッ
私は咄嗟に学生
――ドンッ
という衝撃で背中を車のドアに打ち付けて止まる。
(痛ったぁ――)
身体障壁が無かったら気絶していただろう。そんなレベルの衝撃だった。
ただ、私はここで気持ちを切り替えることが出来た。
最近は余り意識しなくなったが、「
怯んでいても仕方ない。自分の将来を自分の手に掴むためには、戦うしか選択肢が無い。だから、
「九尾の神狐の威霊を我に、火霊招来怨敵焼払、急急如律令――」
私は「狐火符」の呪言を発しつつ、鞄から取り出した呪符を「山羊頭」に投げつける。空中を飛ぶ呪符は途中で青白い炎を上げると、まるで生き物のように錐揉み回転をしながら「山羊頭」の胸部に着弾。
――ボンッ!
と炎が爆ぜて、「山羊頭」が大きく仰け反る。そこへ、
「ぃっやぁっ!」
一気に詰め寄った私は、両親の形見である「退魔刀」を横なぎに振るう。反りの無い片刃の直刀は、重く扱いにくいが、こうやって勢いを乗せて振り回せば――
――ドスッ
という手応えと共に、「山羊頭」の毛むくじゃらな身体を下から上へ逆袈裟に切り裂くことが出来る。
この一撃がトドメとなり、「山羊頭」の怪異は今度こそ灰になる。しかし、斃したのはようやく1匹。目の前には別の1匹と、先の方に3匹の「牛」やら「山羊」やら「へび」のような頭を持つ「獣頭の怪異」の姿がある。
「麗香、大丈夫か!」
とは、車を挟んで反対側に降りた翔太さんの声。私はそれに、
「はい! 意表を突かれましたが、もう大丈夫です」
答えつつ、再び「狐火符」を発するべく呪符を取り出した。
*******************
[八神迅視点]
あの後、山羊っぽい頭に変身した小骸穢やら、牛っぽい頭に変身した小骸穢を数匹斃し、俺は倉庫建屋の裏口(?)に当たるドアの前に居た。そこで現在、
「へへへっ」
「フヒヒッヒ」
明らかに正気とは思えない、
そんな2人は口から涎が垂れるほど弛み切った表情でも、目だけは血走らせて俺を見ながら、ドアの間に立ちはだかると、
「たかしゅしゃんのじゃまはしゃしぇない」
よく聞き取れない声を発する。そして、2人同時にダボついたズボンのポケットから振り出しナイフを取り出すと、チャキンと刃を展開。
表情の変化は(元が緩み切った顔つきなので)読み取れないが、おそらく「ヤル気」なのだろう。
そもそも、俺はこの2人のヤンキー風を視界に捉えた時から、意識して2人を「視る」ように目を凝らしている。
その結果分かったのは、2人の姿に重なるようにチラチラと映ったり消えたりする
(これが「生成り」か……)
というのが感想。
正直、相対するまで「ヒトの姿をした怪異相手にどれだけやれるか?」不安だったが、こうまで
それに、相手は「生成り」でなくてもヤンキーだ。俺はヤンキーが嫌いだ。
と、そこまで考えたところで2人の「生成りヤンキー」は声を揃えて、
「ぶっころしゅ!」
「しね!」
と飛び掛かって来た。ただ、この展開は想定済み。俺は「
「破魔符!」
言いつつ2枚を同時に投げつける。俺の手を離れた呪符は「ピュゥッ!」という勢いで空中を飛ぶと、「生成りヤンキー」2体にそれぞれぶつかり、
――バンッ、バンッ
と大きな破裂音を発する。
ちなみに俺の呪符術「破魔符」は九等穢界の怪異なら一発KO可能な威力だ。先ほど遭遇した「
「ぐぇ!」
「ぐぼっ!」
今の「生成りヤンキー」にも効果十分。2人とも飛び掛かって来た勢いが
「……」
2人はそのまま動かない。しかし、俺は気を抜かずに「一文字比良坂(偽)」を構えた姿勢を保つ。というのも、俺の直感が「まだ続きがある」と告げているから。
果たして、俺の直感は正しかった。
次の瞬間、2人の「生成りヤンキー」は狂ったように身体を痙攣させると、同時に、
――ボンッ
と破裂音を発して……文字通り破裂。但し血肉が飛び散るよりも濃い赤紫の靄がその身体を包み込み、
「っ!」
「変身する小骸穢」よりもひと回り大きな獣人(?)に変身した。牛頭が1匹に山羊頭が1匹だ。しかしまぁ……この「穢界」ではこんな風に「変身」する怪異を既に何匹も見ている。なので、今更驚く事もない。寧ろ、コイツ等は「赤紫の靄」を纏って変身した直後が一番隙だらけだ。なので、
「やぁ!」
俺は一気に距離を詰めると、大上段から「一文字比良坂(偽)」を振り下ろす。狙いは
結果として、俺の振るった刀身は肩口からバッサリと「山羊頭」を袈裟斬りにする。
「ベゲェぇぇっ!」
変身完了と同時に「山羊頭」が断末魔の絶叫を上げる。
俺はそのまま刀を振り抜いて、隣の「牛頭」への攻撃に移ろうとする。しかし、ゾクッと「嫌な感じ」を覚えて、攻撃を中断。真後ろに飛び退く。
――ブォッ!
間一髪、俺の目の前を黒い物影が掠める。
「っ!」
ギリギリで攻撃を躱した俺は、残る「牛頭」に視線を戻し、そこで少し驚いた。というのも、この「牛頭」、いつの間にか自分の身長程もある巨大な鎌を手に持っていたから。
「……どうする?」
実はこれ迄、俺は武器を持った「怪異」と対峙する経験をしていない。なので、想定外の状況に少し固まる俺。
対して鎌持ちの「牛頭」は
「ぶもおぉぉおぉっ」
咆哮を上げると、調子付いたように鎌を振り回し始めた。
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