Episode07-25 既知との邂逅
のじゃロリ狐耳幼女こと「來美穂御前」(通称:クミホ様)が神様パワーの一種である「認識阻害」を使い食卓に紛れ込んでいた。
どうやらエハミ様とクミホ様の間で「バレる、バレない、いつまでバレない」という賭けが行われていた模様。賭けの中身「一体、何を賭けたのか?」という点は不明だが、流れとしては、偶然「鬼眼スキル」を試した俺がクミホ様の認識阻害を見破る格好で決着。偶々だが、エハミ様の勝利に貢献する事になった。
と、そんな出来事があった日の翌日、これまで午前中にやっていた「爺ちゃんの法術講義」はキャンセルとなった。その理由は、
――來美穂御前の教えを受けられるならば、それに越したことは無い。儂から教えを受ける時間があるなら、來美穂御前の元で研鑽を積む方が良い――
とのこと。「あれ、爺ちゃん拗ねた?」と思ったものだが、そういう感じではなく、心からそう思っての提案の模様。寧ろ、「どういう事を教えられたか、後で儂にも教えてくれないか?」という感じだったので、恐縮した感じになった彩音は白絹嬢も「そう言う事なら」と受け入れていた。
とにかく、彩音と白絹嬢の午前の講義はキャンセル。結局、俺1人が爺ちゃんから「もうちょっと難しい呪符」の書き方を習う事になった。
それで、午前の時間が過ぎ、午後は爺ちゃんが、
――儂はちょっと、町内会の寄り合いがある――
と言って、そそくさと軽トラで出掛けて行った。
ちなみに、「マカミ
それで家に残された俺は、婆ちゃんとエミから「家事の邪魔」にされて暇を持て余した挙句、
――そんなに暇なら買い出しに行って来ておくれ――
と婆ちゃんから頼まれ、
(あ、だったら諏訪さんの所に行こう)
となり、愛車「ヴィッツ」で諏訪市の方へ向かった。
******************
「諏訪さん」の所に顔を出すとなると、当然ながら俺は過去の「神界での修行」を思い出して緊張の度合いが高まるのを感じた。
いつ、どこから、不意にあの「大きなお爺さん」が現れて「修行の続きだ」とか「腕が鈍っていないか」とか言いながら白羅鬼なんかを嗾けて来るかもしれない。
そんな状況を思い浮かべると「警戒するな」と言う方が無理というもの。しかし、実際は――
「あれ? 結局、何もなかったなぁ」
という感じ。
普通に参拝者用の駐車場に車を停め、疎らにいる参拝者の流れに従って参道を歩き、大きな鳥居を潜り、広大な敷地を歩き、拝殿(でいいのかな?)の前でお賽銭を出しつつ拝礼をし、帰りに
実に普通。何の波風も無ければ特筆すべき出来事も――
(ああ、でも「おみくじ」だけ中身が変だったな)
というくらいで済んでしまった。
ちなみに、俺がひいた「おみくじ」の中身は、他の普通のおみくじのような印刷された文面ではなく、明らかに手書きの文字で、
――よろず事 はげむと良い――
とだけ書かれていた。俺はこれまで神社仏閣を意図的に避ける人生を送ってきたが、流石に「おみくじ」というものには「大吉」とか「吉」とか、そういう幸運のグレード的なモノが書かれているという事くらい知っている。
しかし、俺が手にしたおみくじには、そう言った類の言葉は無く、代わりにどシンプルな文節があるだけ。
ただ、
(諏訪さんがそう言っているんだろう)
と受け取る事にする。
それで考えてみると「励むと良い」という言い付けは、確かに「そう」なのかもしれない。自分では日々「穢界」へ足を運ぶ傍らで、それなりに努力していたつもりだったが、何処かで「自分が出来る限度内の努力」に留めていた。それでも「
(これで良いと満足してた、って事かな)
ここは、言い付けに従い心を改めるべきだろう。
俺はそう思い車に乗り込むのを一度止めると、本殿の方へ向かって頭を下げるのだった。
******************
とにかく、新な思いを胸に「諏訪さん詣で」を終えた俺は、帰り道で婆ちゃんの言い付けである「買い出し」を実施。ただ、土地勘が全くないので婆ちゃんの「買い出しメモ」に書いてあるショッピングモールの場所が分からず、少し道に迷う事になった。
また、メモには結構な量の食材が書かれていたので、それらを全部買って帰り道に就く頃には時刻は午後の4時過ぎ。家に着くころにはすっかり夕暮れ時になっていた。
それで家の前に差し掛かると、駐車場代わりにしていた庭先のスペースに爺ちゃんの軽トラと、あと1台、見覚えのある軽自動車が停まっていた。
「母さん? ……ああ、そうか今日来るっていってたんだ」
俺は独り言を言いつつ、隣に車を駐車させて、重たい買い物袋を両手に提げて玄関戸を(お行儀は悪いが)足で開ける。ふと見ると、玄関には見慣れない革靴が一足。サイズ的にもデザイン的にも紳士モノだ。
(誰かお客さんかな?)
俺はそんな風に思いつつ、
「ただいま~」
来客の邪魔にならない程度の声でそう言う。奥の方から、
「おかえりなさい。帰ってきたのね」
と彩音の声。台所の方から聞こえて来たので、まずは買い物袋の中身を整理するため、俺は台所の方へ向かう。
台所には彩音と白絹嬢、そして婆ちゃんとエミが居て、夕食の準備をしている。
「おかえりなさい迅さん、ちゃんと買ってきた?」と彩音。
「うん」と俺。
「諏訪さん……行ってきた?」とエミ。
「ああ、でも会えなかったよ」と俺。
そんなやり取りの後で、婆ちゃんに「払っておいたから」と渡されたお金を返す。そして、
「誰か来てるの?」
玄関の紳士靴を思い浮かべて問う俺に、
「そうそう、居間にいるから――」
婆ちゃんはそう答えつつ、何か思い付いた風に、
「ちょっと、お茶を淹れるから持って行ってくれるかい?」
との事。
別に断るような話でもないので、俺は「いいよ」と答えて婆ちゃんがお茶を淹れるのを待つ。そして、湯飲みを乗せたお盆を持って居間に向かうと、丁度廊下に出てきた母さんと鉢合わせ。
「あら、久しぶり。元気だった」
「うん、そっちは?」
「元気よ……お茶? 気が利くわね」
「婆ちゃんが持ってけって」
「そう……あんたも中に来なさい」
そんな立ち話の後、お盆を母さんに奪われた俺は、そのお盆で背中をつつかれるようにして居間の中に足を踏み入れる。するとそこには爺ちゃんの他に来客と思しき中年の男が居て、
「……久しぶりだな、迅」
妙に見覚えのある顔で、妙に聞き覚えのある声を発する。
勿論、それが誰だか分からないハズもなく、俺は、
「おやじ……なんで?」
と、呟くのだった。
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