Episode08-15 八王子駅ビル事件④
「開いた穢界」と化した駅ビルの8階を踏破し、俺と俊也は現在9階フロアの中ほどに居る。
ちなみに、この駅ビルの5階から上のフロアに設置されているエレベーターは、上りと下りは2列セットで設置されているが、次のフロアへ行くためのエレベーターは離れたところに設置されている。丁度、フロアの端から端といった感じだ。恐らく、買い物客の動線を引き伸ばし、より多くの入居テナントの店先を巡るように工夫したものだろう。
お陰で俺と俊也は只上の階に移動するだけなのに、余計な距離を歩くハメになり、おのずと余計な怪異と戦う必要が出てくる。
現に今も、
――ギャンギャンッ!
――ワオォォンッ!
騒がしい吠え声を上げて、カチカチと床に爪を打ち付けながら、犬型の怪異が迫ってくる。通路沿いの左右の売り場から、不意を打った挟み撃ちのように攻撃を仕掛けて来たのは
******************
*グレイ・ウォーグ 6等級
――法術耐性:中
――物理耐性:低
――*中級穢界に出現する一般的な怪異。
俗に言う魔犬種の怪異。5匹から10匹前後の群れを形勢する。知能が高めで集団による連携攻撃を得意とする。また、見かけ通り俊敏であるため、法術や飛び道具による攻撃は回避される可能性がある。近接戦による速攻を推奨。
******************
という、犬型の怪異。それが左右に3匹ずつ、合計で6匹潜んでいて、俺と俊也が通りかかった瞬間を目掛けて通路に飛び出して来た。勢い、通路の前後を塞がれる恰好になる。
ただ、こっちはコイツ等の存在を「神鳥」で確認していた。それに、十分距離が近くなれば「コンバットスキャナ」が勝手に存在を察知して逆三角形のオレンジ色のアイコンで存在を報せてくれる。
なので、グレイ・ウォーグが企んだ不意打ちは不成立。
「オレは後ろを――」
と言う俊也に後方を任せ、俺は前方を塞ぐ3匹へ向かって一気に間合いを詰る。結果として、不意打ちを仕掛けた側の想像を上回る反応速度で事態に対応し、逆にグレイ・ウォーグの不意を突く事に成功。
――ギャンッ!
という、犬っぽい悲鳴と共に、3体の屍が通路に積み重なる。
ただ、コレで終わりという訳ではなく、俺は背後の俊也へ振り向くと、
「破魔符!」
コンバットスキャナの推奨戦術からは外れるが、呪符術を発動。後方で3匹の怪異を受け持ち、斃すというよりも「食い止める」戦い方をしていた俊也の援護に入る。
――ドンッ
鈍い衝撃音が響き、俺の破魔符は1匹を直撃。具合が良い事に、別の1匹を巻き込み、2匹揃って通路脇の商品ケースに突っ込む。
「助かる!」
これで1対1となった俊也は、相手が怯んだのも相まって、難なく1匹を斃し、次いで破魔符に巻き込まれて吹っ飛んだ残りの1匹にもトドメを刺した。
「ふぅ……他には?」と訊く俊也に
「……少し先の方にあと5匹」と答える俺。
この後、2人で頷き合い、俺と俊也は先を目指して歩を進める。
******************
それにしても俊也が意外と「戦える」事は不幸中の幸い(?)だった。
彼自身「1か月ほど
(一体どうやったんだろう?)
まさか、俺みたいに何処かの神様にお願いして「都合のいい設定の神界」を出してもらったわけではあるまい。あくまで現実世界で「特訓」をしたのだろう。それで、これだけ戦えるようになったのだから、
(俊也に素養というか才能があったんだろうな)
そう思う事にする。
と、そんな事を考えながら、何となく俊也の方を見ていると、
「……なんだよ?」
視線に気が付いた俊也が怪訝な顔で問いかけてくる。
「あ、いや別に……」
何となく、素直に考えていた事を話す気になれなくて、俺はそう言って胡麻化す。そして、胡麻化しついでに、少し気になっていた事を訊いてみる事に。それは、俊也が腰のホルスターに収めている拳銃の事。
「なぁ、それってアプリのユーザーにも解禁されないのか?」
実は……というか何と言うか、俺はソッチ系の装備に結構関心がある。それに、以前マカミ山鼬と戦った際にオヤジが銃を撃って
そういう諸々があって、俺は「銃装備」に興味津々なのだが、
「……お前さぁ、それ以上攻撃手段増やしてどうするんだよ」
俊也の答えは呆れた感じ。
「だいたい、多分コレよりお前の破魔符の方が強いぞ」
とも。
それで、俺は何か反論しようと口をモゴモゴさせるが、
「ロマン枠で持ちたいって事なら、エアガンかモデルガンでも持ってろよ」
「でもまぁ、一部でそう言う話も上がってるみたいだけど――」
と前置きしてから、穢界と
その理由の1つが、単純に使い勝手が悪い事。
銃の場合、攻撃力は弾丸の種類に依存するらしいが、物理攻撃が有効な怪異に対する弾丸と、逆に物理攻撃が全く効かず法術攻撃のみが有効な「怨霊」のような霊体の怪異では求められる弾丸の種類が違うらしい。主に製法の問題らしいが、両方を高いレベルで両立させることは出来ていないらしい。
「オレ達が装備している拳銃弾は一応『対物・対霊両用弾』だけど、七等くらいの怪異からは効果が薄くなるな」
という事。まったく効果が無い訳ではなく、牽制程度には使えるらしいが、あくまで牽制止まり。そう言われれば、確かにオヤジも拳銃は「牽制」として使っていた。
そして次の理由が、
「せっかく銃規制が上手く行っている日本で、その規制を緩めても問題が増えるだけだろ」
という事。
怪異に対処するならば、
怪異による脅威と、一般犯罪に銃が使われる脅威を比較して、後者の脅威の方が問題が大きいと判断したという話だ。
そして、最後の大きな理由が、
「実際に、銃規制が緩い国が今どうなっているか……あんな事例を見せられたら普通はイヤになる」
というもの。実は、昨年の10月に全世界的に起こった怪異による一連の事件を受け、多くの国で「自衛目的での銃の所持」が緩和された。銃砲店に長蛇の列が出来ているのをテレビのニュースで取り上げていたので、俺も覚えている話だ。
それから約半年の時間が流れ、現在それらの国では怪異とは関係のない銃器による犯罪が激増している。
「ただでさえ怪異絡みの事件が増えて警察が
ということ。だから、
「まぁ、銃は諦めろ」
という結論だった。
そうこうしている内に10階へ上がるエスカレーターが見えて来た。
「E.F.W」 ~目付きの悪いオッサン予備軍の俺、謎のスマホアプリを手に入れて人生が変わりました~ 金時草 @Kinjisou
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