Episode08-14 八王子駅ビル事件③ 七曜会会員
俊也との無駄話(でもないか?)を経て、7階のフロアに到達。
この時、ふと、目の前に白い燐光を放つインコサイズの小鳥が舞い降りた。ソレは、俺と俊也の周りを飛び回ると、止まったエレベーターの手摺にチョンと止り、ガラス玉のような黒い瞳でじっと俺を見る。
「……これって?」
というのは俊也の疑問だが、流石に俺はこの小鳥の正体に気が付いた。それは、
「神鳥……だな」
という事。
誰かが放った神鳥。それが、俺の元にやって来てじっとこちらを見ている。その神鳥と目が合った瞬間、俺の脳裏に明確なイメージが浮かんだ。
もしかしたら「鬼眼」の恩恵かもしれないが、詳細は不明。とにかく、この時俺は小鳥のビーズ玉のような瞳越しに、これを召喚したものの存在 ――つやのある黒髪ロングの美少女―― を視た。それは、
「白絹嬢……だな」
ということ。
どうやら、白絹嬢が放った神鳥と出会ったらしい。一瞬だけ「なんで、白絹嬢が神鳥を?」と疑問が浮かんだが、まぁ、彼女の事だから11階の安全を確保しつつ、周辺警戒をしていたのだろう。
「お前も出したら?」
「お、おう」
俊也の指摘に頷く俺。
一方、目の前で手摺に止まっていた白絹嬢の神鳥は、小首を傾げるような仕草をした後、パッと飛び立ち、フロアの左手側へ向かう。そして、通路の上を飛ぶ途中でフッと姿が掻き消えた。どうやら、召喚の時間切れになったらしい。
ただ、消える間際のその素振りが「コッチに」と誘導しているように感じられたので、俺と俊也は無言で頷き合うと、そちらの方へ足を向けた。
ちなみに、2歩ほど踏み出したところで思い出して、「使鬼召喚:神鳥」を発動した事を付け加えておきたい。
******************
フロアの通路を先行する俺の神鳥。ソレが送ってくる視界の中に、俺は早速異変を見つけた。少し先の100円均一店のテナントの角を曲がった先で、2人の男が3匹のホブ・ゴブリンを相手に劣勢な立ち回りを演じている。
そんな光景を神鳥の視界で捉えた。
「人がいる」
「分かった」
短いやり取りで走り出す俺と俊也。通路の先の角を曲がると、そこには神鳥の視界で見たのと同じ光景があった。
2人の男は20代後半と30代前半くらいに見える。顔付が似ているので、おそらく兄弟なのだろう。
その2人は駅ビルの客と思しき50代後半の女性客と、30代半ばの男性店員を背後に庇いつつ、ホブ・ゴブリン3匹相手に不利な戦いを演じていた。
ちなみにこの時、ホブ・ゴブリン3匹はいずれも俺に背を向けた状態。どうやら俺と俊也という「新手」の出現に気が付いていない様子。なので、
(一気に終わらせる)
と決めた俺は、極力足音を鳴らさないように近付ながら、無言で「無地の呪符」を取り出し、小さく「破魔符」と呟きつつ、それを投げつける。
果たして、
――ドンッ!
という衝撃音と共に、「破魔符」背中に着弾した1匹の上半身が吹き飛ぶ(ちょっとグロい)。
流石にこうなれば、残り2匹は俺と俊也の存在に気が付くが、時すでに遅し。
俺と俊也はほぼ同時に、それぞれの武器を構えつつ、その間合いに無防備な振り向き状態のホブ・ゴブリンを捉えていた。
******************
サクッと戦闘を終わらせた後、助けた格好になった2人の男に確認すると、2人とも「七曜会の会員」で
まぁ、スマホ片手に戦っていたので「そうだろう」とは思っていた。そんな2人のレベルは揃って「14」で、実家は密教系の二等式家だそうだが、兄弟が幼い頃に父親が死に、実家の秘伝やら
と、それはさて置き、彼等2人が庇っていた一般人については、
――このフロアで見つけたんだ――
――たぶん、もうこのフロアには他に居ないと思う――
との事。
念のため、俺は「神鳥」を使ってざっと7階のフロアを確認。確かにこの兄弟が言うように、他に逃げ遅れた一般人の生存者は無く(死体なら結構転がっていた)、代わりにフロアをうろついているホブ・ゴブリンを数匹見つけた。
神鳥の視界で見つけた数匹のホブ・ゴブリンについては、離れた場所をうろついていたので放置する事にする。
俺と俊也は下のフロア(6階)の怪異は粗方片づけてあることを2人に告げ、このまま駅ビルの外まで一般人を誘導するように言って、その2人の兄弟と別れた。
そして、第8層……もとい、8階に至る。
8階からは「六等穢界・開」の「現場」となる。
そのため、空気感は瘴気で穢れて重苦しく不快だ。その不愉快な空気に鉄サビを連想させるムカッとするような独特の臭気が混じる。臭気の正体はおそらく……いや、確実に「血」だろう。というのも、
「ひどいな……迅、大丈夫か?」
と俊也が言うように、エスカレーターを登って8階のフロアに出たところ(広いスペースになっている)に、逃げ遅れた人々の死体が散乱していたから。老若男女が入り混じった死体は、どれもひどい損傷を受けている。
おそらく、穢界が発生した直後に逃げようとした人々がエスカレーター手前に集まり、団子状態になっていた処をホブ・ゴブリンを始めとした怪異に襲われたのだろう。
俺は、その時に起こった惨劇の状況を想像しつつ「血の海」と化してネバっと濡れた床に足元を掬われないよう注意しつつ、俊也には「大丈夫だ」と答える。そして内心では、
(やっぱり、急いだ方がいいな)
という思いを新たにしていた。
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