Episode04-20 クラスチェンジ


 俊也しゅんやが言ってきた「七曜会しちようかい」への加入の件は、ひとまずは「考えておく」と返事を保留しているが、彩音の意見も聴いた俺は前向きに考えている。


 デメリットは「警察への協力義務」が生じる事、になるが、これは俊也の言い分を信じるなら「月に2回程度」との事。それ程重い負担にはならなさそうに思える。


 他には、いて言うなら「俊也が持ってきた話」という点くらいだろう。ただ、俺が「視た」限り、俊也は別に嘘を吐いていたり、騙そうとしている訳ではない。でも――


(アイツにそのつもり・・・・・が無くても、「結果的に」ってのが多かったからなぁ)


 そんな警戒感は少し残る。


 ただ、こうやってマイナス面ばかり考えていても仕方がない。現に、俊也の申し出はメリットが多い。それは彩音の言葉を借りる間でもなく、明らかだ。


 先ずは外見上「団体職員」という肩書を得られる。これで無職やフリーターのような社会的に弱い立場に起因するトラブルは防げるだろう。


 それに、団体職員としての「共済組合」があるのも大きなメリットだ。アプリユーザーこの仕事を続けて行けば、将来どんな不測の事態に陥るか分かったものではない。身体が資本の仕事でもあるので、自分が動けなくなった場合の備えは必要だ。


 更に言えば、身分がしっかりとして将来の「万が一」にも備えが出来れば、別の事を考える余裕も出来る。それは


(彩音……大学へ行けるよな)


 というもの。


 今のところ、本人彩音は高卒で学歴を終える気満々のように見える。しかし、それは彼女の境遇が最初から「大学進学の選択肢は無い」というモノだったから(かもしれない)。だから、十分に実現可能な将来の選択として「進学」はアリだと思う。


(自称保護者としては……提案くらいはしないとな)


 勿論、提案だけではなく、「そうなったら」協力もするつもりだ。


 そんな事を考えつつ、俺は車を走らせて目指す目的地へ向かう。その目的地は……当然「穢界」だ。


*******************


 「七曜会」への加入は一旦棚上げにして、俺は「朝の穢界」として八等穢界に入った。そして、いつもの如くスキルの習熟度を上げるために「単結界」を使いつつ、書き溜めていた「呪符」の効果確認も行う。


 自作の「呪符」については、劇的に上達するという事は無いが、徐々に効果は上がっていると思う。欠かさず近所の書道教室に通っている成果だろう。


 一方、なかなか習熟度が上昇しない「単結界」だが、今回の穢界でようやく


――単結界★★★――


 となった。


 ちなみに、★3つで覚えた結界術は「塞縄さいのなわ」というもの。効果は


――怪異の侵入を阻む――


 というもので、他の「榊垣さかきかき」や「柊垣ひいらぎかき」同様、無地の呪符3枚と法力10を消費する。


 試しに使ってみたところ、目の前に差し渡し3メートル程の縄が腰の高さに出現した。ちなみにその効果は、突っ込んで来た八等の小餓鬼を


――バチンッ!


 と弾き飛ばす、というもの。どうやら、3回から4回くらい怪異を弾き飛ばす事が出来る模様。しかも、


「破魔符、行け!」


 こちらから発した法術は、縄の上を難なく通過して怪異に効果を発揮する。


 これ迄の榊や柊の生垣と違い、効果がある間はこちらから一方的に遠距離攻撃が出来る感じだ。


「やっと使いやすいのが出て来たな」


 目に見える範囲で粗方の怪異を斃した俺は、一息吐きつつ感想を(独り言で)述べる。


 耐久性にやや問題を感じるが、初級クラスの「陰陽学生」だとこの程度なのだろう。それよりも、


「これで陰陽学生のクラスが★3つになったな――」


 こっちの方が重要。これで俺は「退魔剣士」にクラスアップする条件の1つをクリアした。


 ちなみにこの「退魔剣士」というクラスは、「E.F.Wアプリ」の公式掲示板にも情報が出ていない「レアクラス」になる。ただ、最初の頃に参照した「スクにゃんAI」がチャットの中で言及していたし、諏訪さんもその道・・・を示唆していた。


 だから、俺の中では次のクラスは「退魔剣士」にすることが確定している。ただ、クラスチェンジに必要な能力ポイントは50。これは、所謂いわゆる「和職」で言えば「中級職」に相当するポイントだ。対して、俺が所持しているポイントは現在40。


「能力ポイントが10足りないかぁ~」


 初期の頃に「チュウとリアル」を見た勢いで能力ポイントをステータスアップに使ったのが悔やまれる(スクにゃんも「勿体ないのだ!」とか言っていた)。


 この能力ポイントはレベルが上がると10ポイント付与される。ただ、俺はこの前レベル15に上がったばかり。次にレベルが上がるのは少し先の話になる。まぁ、今まで通りに活動していれば、その内クラスチェンジが出来る訳だ。しかし、


「う~ん、彩音も巫女になったしなぁ」


 ちなみに、彩音の「巫女」は和職の中級職。一方、俺は初級職(2つ目だけど)というのは、ちょっと格好悪い気がする。なので、


「浄化ポイント使うか――」


 という選択肢を思い付く。


 ちなみに、「能力ポイント」は「浄化ポイント」から直接交換する事も出来るし、宝珠ショップでアイテムとして買うことも出来る。ただ、浄化ポイントから交換した場合は


 10浄化ポイント=1能力ポイント


 であるのに対して、宝珠ショップで購入した場合は


 1,000宝珠=1能力ポイント


 となる。


 「1浄化ポイント=10宝珠」だから、宝珠ショップでアイテムとして購入した場合は10倍のコスト高になる。


(これ……作った人の間違いだろ)


 そんな気がするが、とにかく、俺は手持ちの浄化ポイントを100使い、能力ポイント10を手に入れた。「100浄化ポイント=現金10万円」だけど気にしない、気にしない。それよりも今は――


「これで……よしっ」


 「退魔剣士にクラスチェンジしますか_Y/N」のメッセージで「YES」を選択。そして俺は、ようやく「退魔剣士」となった。


*******************


 その後、俺は取り敢えず穢界を浄化することに決めた。新しいクラスの「退魔剣士」については、一旦自宅に帰ってじっくり調べようと思ったからだ。


 というのも、この日の午前の穢界で、俺は思った以上に長い時間、穢界に滞在してしまったから。現世穢界では10倍時間の差があるが、それでも、新しい「単結界:塞縄」を試したり、能力ポイントを得るかどうかでモジモジしていたお陰で2時間以上も穢界の中に籠ってしまう事になった。


 こうなると、現世うつしよ側で路駐状態にしてある車が少し心配になる。盗難されるような高級車ではないが、駐禁を切られる可能性は……


「うわ……」


 可能性ではなく、現実のものになった。


(20分くらい大丈夫かと思ったけど……)


 駐車禁止の黄色いステッカーがフロントガラスの上から現実を主張している。


 ちなみに、こんな場合でも「七曜会」に加入していれば「何とかなる」らしい(俊也談)。


 こういった場合や、先日の俺のように「不法侵入」的な不法行為(世間的には犯罪行為)で逮捕されたような場合でも、目的が「穢界がらみ」ならば「七曜会職員」という立場が融通を利かせてくれるとのこと。これも「七曜会」のメリットの1つだ。


「はぁ……」


 俺は溜息を吐きつつ、フロントガラスに張られた黄色のステッカーを剥がして運転席に乗り込む。そして、


「入ろうかな……」


 こんな切っ掛けで決めてしまってもいいのか? と思うが……10万円分散財した直後の罰金1万数千円はちょっと痛いのだから仕方ない。



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