神無月のころ
2024年10月末
古来より、旧暦10月は日本国中の神々(一部を除く)が出雲に集まり今後の国の在り方について合議を行うとされていた。
今は暦が変わってしまったが、それでも10月半ばの1週間ほどを掛けて、全国各地から神様達が集まってくる。
もっとも、「国の在り方」を語り合うといっても、
ただ、これは2000年代初頭までの事。
それが近年では「神議」の内容も深刻な色を帯びる事があった。その最たる事例は、3年前の事。「あぷりけーしょん」を受け入れるか否かの「神議」の時だ。あの時ばかりは少しだけ古代の真剣さを取り戻したような雰囲気があった。
ただ、それでも大勢は
しかし今回の「神議」は、3年前とは比べるべくもなく紛糾してしまっている。
ちなみに、紛糾している大きな理由は議題となった案件がどれも「厄介事」だったから。1つは「大結界張り直しの手詰まり」、次いで2つ目は「『あぷりけーしょん』の一般公開」、そして最後の3つ目は「
どれか1つだけでも、紛糾しそうな問題が3つ重なってやって来たのだから、紛糾するのも当然である。
ちなみに、「大結界張り直しの手詰まり」については既に話し合いは終わっている。これについては、
散々に非難の声が上がったが、結局「では他に手はあったのか?」と問い返されると誰も「こうだ」と答えられない。そのため、非難の声が出尽くした後は、
――今後も大結界再構築の努力は続けます――
と言う伊勢様に同情的な声が多くなった。
そして議題は次の「『あぷりけーしょん』一般公開」へ移るが、ここでも意見が割れることになった。
現在「E.F.W」というアプリケーションの運用は、クローズドβ配布から数えて約2年が経過している。その間、人間社会の瘴気が凝り固まって出現する「穢界」の数は増えるには増えたが、それでも多くの神様達は
――今のままで対処出来ている――
と考えていた。
つまり、現状の認識が甘い神様が多かった訳だ。
そのため、
その結果、努力の甲斐が実り時間は掛かったものの
――一般公開の件は伊勢様方に一任――
となった。
ただ、この時点で既に10月下旬に差し掛かってしまい、「
――そのややこしい議題は来年にしよう――
という空気になっていた。ただ、「そうは問屋が卸さない」事態が起きる。
難しい議題を2つ終え、
それは、全国各地で封印されていた「強めの怪異」が暴れ出したり、又は人の世に流出していた「禍魂物」や「忌九十九」といった呪物が目覚めて悪さをしたり、果ては長らく放置されていた「穢界」が「開化」や「深化」してしまったり、というもの。
どれもこれも、人の世に大きな災いを齎す「災厄」だ。それが、10月末の週末に集中して起きた。
お陰で「神議」の場は大混乱。居並ぶ神々は、出雲の神界に持ち込まれたテレビに映るニュースの数々を食い入るように見つめる事になった。
ニュースは「高校の文化祭で大勢を巻き込む事故」であったり「千葉のテーマパークで謎の爆発騒ぎ」であったり「神奈川県で大規模な土砂災害」であったり「渋谷の街中で白昼の通り魔事件」であったり「京都駅で利用客による将棋倒し発生」だったりと、それぞれ別個の事件として報道している。
また、テレビのニュースという性質上、どのニュースも第一報で「怪異」の存在には触れていない。
しかし、
それだけではない、インターネット上の動画サイトには日本のみならず海外各国でも同様の、
そのため、ニュースが駆け巡った翌々日あたりからは「怪異」の存在を匂わせるような報道が日本のテレビでも増えていく。
これは、神々にとって「最も好ましくない状況」だった。
そもそも神々とは、多少のバラつきがあるものの、人間の世界に一定の秩序と安寧を与える替わりに、信仰という対価を得て存在している。「秩序と安寧」の部分が「依存と束縛」であったりするパターンもあるが、とにかく、ある程度の「安定」や「秩序」といった利益を与えなければ、そもそも価値が無い存在だ。
このように、全国的に「怪異」などが引き起こす騒乱が多発するようでは、元々弱まっている信仰心があっという間に離れていくことは容易に想像できた。
ただ、想像はできるが対処のしようがない。
「
――我が名はミカエル、貴殿らがヘブライ神族と呼ぶ者――
という、大天使ミカエルの登場だった。
仰々しく後光を背負って出雲の神界に乗り込んできた大天使は、居並ぶ日本の神々に対して、
――ヘブライ神族、アスラ神族の合意はできている。貴殿らの言う「
と提案したのだった。
この後、「神議り」の場が「上を下への大騒ぎ」になったことは言うまでもない。
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Episode05 ドキドキ? 文化祭パニック!(完)
お読み頂き有難う御座いました。
次回、1話だけ登場人物紹介を挟みまして、それから
Episode06 変わりゆく世界
を開始します。
~~以下、クレクレで申し訳ありません~~
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作者:金時草
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