Episode05-31 ハニ〇君、無双


 俺の場合は「エミの加護」は無くなってしまったが、能力値自体はプラスマイナスゼロで変化なし。彩音の場合は「神威」を除く全能力値が(+10)された。そして、2人とも「神人」「神女」という謎スキルを習得。


 これが、「甘露」を呑んだ結果だ。


 その結果を確認しつつ、階段を上り切って4階に到達。旧校舎側へ続く渡り廊下は右手側にあるが、まずは左手側の新校舎の状況を確認する。


 ちなみに「神鳥」は俺が失神していた間に消えてしまったが、消える直前には4階の状況を確認し終えていた。その時の情報によると、確か4階にいた人たちは教室2か所と音楽室1か所の合計3か所に分散して逃げ込み、立て籠もっていたはず。


 一方、廊下や他の教室には「醜女夜叉しこめやしゃ」や「骸穢むくろえ」に加えて「呪鬼じゅき」なんかが徘徊していた。


 しかし、


「……いないか」


 階段口から校舎側の廊下を覗き込んでも、怪異の姿は無かった。どうやら、先行して4階に向かった「ハニ〇くん」が斃してしまったのだろう。その証拠に、廊下の床には薄い灰が散らばっている。


 ただ、そんな状況よりも俺の目を惹いたのは……逃げ遅れた人(生徒と保護者と思しき4・5人)の無残な遺体だ。それが、廊下のあちらこちらに文字通り「散乱」していた。


(これは……)


 俺としては既に「神鳥」の視界で見た光景だが、やはり実物を見させられるとインパクトは格別に強い。「可哀そうに」や「気の毒に」と思う反面、どうしようもない生理的な嫌悪感を、無残に喰い散らかされた遺体から感じてしまう。


「彩音……」


 俺は込み上げる吐き気をどうにか堪えながら、彩音を見る。


「迅さん……アタシは大丈夫……」


 彼女は真っ青な顔色(たぶん俺もこんな感じなのだろう)になりつつも、「大丈夫」とうなずき返してくる。


 その様子に、かえって俺は


(彩音も頑張っているんだから)


 と、気を強く持つ。しばらく、肉類は食べられそうに無いが……


――ドシャッ!


 と、ここで、廊下の奥の方から物音が響く。そして、唐突に何かが教室のドアを突き破って廊下に転がり出てきたが、それは2匹の


「呪鬼か!」


 だった。


 「呪鬼」は全身に禍々しい文様を刻み付けた鬼型の怪異。「七等穢界」の穢界主として何度も戦った経験のある相手だ。黒い靄を生じさせて、その靄の中を瞬間移動して不意打ち攻撃をしてくる、ちょっとトリッキーな攻撃方法を持つ相手でもある。


 俺の中では「七等穢界の穢界主」としては「狗頭鬼よりも手強い相手」という位置づけになる。


 ただ、そんな(あくまでも七等穢界としては)手強い「呪鬼」2匹を相手にしているのは、「ハニ〇君」こと、埴輪のつわもの。赤茶けた素焼き風のボディーに、(通常時は)少しコミカルでもあり物悲しくもある表情を浮かべた、古墳時代のマスコットキャラだ。


 ただ、教室の奥から「のそり」と姿を現した今の「ハニ〇君」は戦闘モードなので、顔つきは鬼瓦もかくや・・・・・・といった形相に変貌している。その状態で、素焼きボディーとは思えない滑らかな動作と共に、セラミック包丁なみの切れ味の剣を振るう。


(まぁ、呪鬼なんかじゃ、どうにもならない相手だな)


 その強さは、俺自身が体感済み。現に今も、


「ハニャー!」


 気合一閃(でいいのか?)、呪鬼の首が宙を舞い、


「フニャァッ!」


 返す刀で、もう1匹の胴体が真横に両断される。


 はっきり言うと、あんなの・・・・6体を相手に修行していたなんで、ちょっと自分が信じられない。それくらいの強さだった。


「アレって……迅さんのお友達、だよね?」


 同じ光景を見ていた彩音が、ちょっと怖い声で言う。


「そ、そうだよ」


 対して俺の返事は、どうしても声が上擦ってしまう。


 そんな俺と彩音に、この時「ハニ〇君」は気が付いたようで、表情をサッと「普通モード」に変えると、「やぁ!」といった具合に左手を上げて合図を送ってきた。


******************


 基本的に無口な「ハニ〇君」の案内で、俺と彩音は人が居る教室を訪ねて回った。普通教室2か所と音楽室の合計3つだ。


 どの教室も入口を固く閉ざして、たぶん中から机なんかで簡単なバリケードを作っている感じだ。それでも、俺と彩音が声を掛けながら扉を叩くと「助けが来た」となって扉が開く。


 そして、一様に


「ぎゃぁ!」


 となるのは、まぁ「ハニ〇君」を見た人たちの反応。ただ、「ハニ〇君」の見た目はこれでもかなりマシな方。2階はクモと百足と猿の化け物だし、3階は大蛇と得体の知れない獣の化け物だ。それらに比べれば人型で「コミカルさ」があるだけ大分マシだろう(いや、かえって不気味かもしれない)。


 とにかく、俺と彩音(とハニ〇君)は、そんな人たちを取り敢えず1か所に集めるべく、誘導する。ちなみに、集める場所は音楽室。なんだかんだと、4階で逃げていた人は80人前後いるから、十分な広さが必要。それに音楽室は階段から近いので、後の移動が楽になる。


 それで、音楽室に誘導する途中に色々と状況を確認した。


 俺や彩音が声を掛けると、当然ながら避難していた人達からも色々と反応がある。中には状況が状況だけに、やり場のない憤りが混じった声もあった。特に、数人のおっさん、おばさん(たぶん生徒の保護者)からは感情的な発言が投げかけられたもの。


「警備はどうなっているんだ」

「どう責任を取ってくる」

「警察は何をしているの」


 と、こんな感じ。ただ、俺にも彩音にも関係のない、責任もない話だ。だから、


「こういう状況なんで、静かにしてください」


 俺は敢えて、廊下の片隅に散乱している犠牲者の遺体を指差して言う。更にダメ押しで、ちょっと強めに睨んだら、それでうるさい声は静かになった。


 一方、その間、彩音は女子生徒たちから話を聴いていたようで、俺の所へやってくると、


「迅さん、女子が何人か連れ去られたみたい――」


 深刻な顔で、そんな事を言った。


「何人かの子が、旧校舎の方に連れ去られるのを見たって……3年の女子だって言ってた」


 という状況らしいが、俺は「なんで?」と思った。


 というのも、怪異が人を襲うのは分かるが「連れ去る」というのは意味が無いように感じるから。しかし、


「もしかして上にいるって、エミちゃんが言ってた――」


 彩音が推測を口にすると、俺も何となく意図が分かった。それはつまり、


「神とかいう何か、か?」

「うん」


 つまり、旧校舎側の屋上にいるであろう「神」とやらが、怪異に指示して女子生徒を数人連れ去った、ということ。


 勿論、目的なんて碌なモノじゃないだろう。


「迅さん――」

「わかった、やっぱり急いだ方が良さそうだな」


 となる。


 4階に到達して、逃げていた人たちを音楽室に集めた時点で、おそらく校舎内に残っていた無事な人達はあらかた確保した事になる。だから、俺は「エミや俊也達が追い付いて来てからでも」と考えていたのだが、連れ去られた生徒が居るとなると話は違ってくる。


「よし、行こう」


 この後、俺は音楽室の守りを「ハニ〇君」に任せ、一部の人達の「待って」とか「何処へ行く」といった声を無視して、旧校舎へ向かった。



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