Episode07-21 やっぱり神界だった


 突然上達した彩音の「呪符作り」。そして、これまた突然成長した白絹嬢の「霊力」。


 どちらを取っても不自然極まりないが、流石の俺でも気が付くくらいの変化だ。当然ながら、爺ちゃんも気が付いている。それで、


「2人とも、一体何があったのだ?」


 となる。


 対して、彩音と白絹嬢は顔を見合わせると「言っても良いのよね?」「でも……う~んどうなんでしょう?」とやり合う。


 どうやら「秘密」にしたいようだが、この2人……というか、少なくとも彩音の性格からいって「隠し事」をするようなタイプではない。だから、この「不自然な成長」を仕向けた存在から「秘密にしておいて、後で驚かせましょう」的な事を吹き込まれたのだろう。


 なんというか、益々「らしいな」と思ってしまう。


 ただ、これだけ不自然な違いを作っておいて「内緒」もへったくれもないだろう。それに、俺はともかく爺ちゃんは多分、今「真相」を聴いたって十分に驚くハズ。だから俺は、マゴマゴしている2人に向かって、


「なぁ、エハミ様だろ?」


 どストレートに首謀者の名前を挙げる。それで爺ちゃんは「え!?」となり、彩音は、


「やっぱり、分かっちゃうよね」


 となった。


******************


 事の真相はこう。


 昨日の午後、2人に割り当てられた和室で受験勉強に取り掛かった彩音と白絹嬢は、誰かがふすま戸をノックする音を聞いた。それで「エミちゃんか、お婆ちゃんだと思った」という彩音が戸を開けると、そこには、


――来ちゃった――


 と言うエハミ様の姿があったとのこと。


 ちなみに白絹嬢は最初、誰か分からなった(そりゃ当然か)そうだが、直ぐに尋常ならざる気配を感じ取ったという。まぁ、神様だし……当然だろう。


 とにかく、2人の部屋に突然現れたエハミ様は、2人を「もっと勉強に適した場所がある」と誘い出し、神界に連れ出したとのこと。


――確かに勉強ははかどったわ――

――はい、何と言いますか、こう頭が冴えて集中力が湧き出ると言いますか――

――結局、7日間寝なくても全然平気だったよね――


 と言い合う2人は、結局神界で7日間を過ごしたとのこと。


 ちなみに、2人が連れていかれた神界は、俺が経験したような「裏の林」に似た環境ではなく、何処かのお寺の中のような板張りの広い部屋だったとのこと。


 その話に俺は「へ~」と思ったが、彩音が言うには


――エハミ様の神界とは違う、別の神様の神界だって――


 とのこと。ただ、その神様のお名前は、


――う~ん……内緒……なのかな?――


 とのこと。なんだか煮え切らないが、とにかく、


――呪符の書き方とか、麗ちゃんの霊力を引き上げたのは、その神様なんだよ――


 とも。どうやら、謎の神様とエハミ様は「古くからのお友達」らしく、エハミ様がその神様に頼んだ結果、そうなったらしい。


 つまり、2人はエハミ様と謎の神様の二柱の仕込み・・・によって、受験勉強の合間に「法術の基礎」や「霊力の修養」を得たという事。


 ちなみにエハミ様は


――その神様の神界にしばらく居るって言ってたよ――


 という事なので、昨日俺が尋ねた際に不在だった理由はコレなんだろう。


 一方、彩音と白絹嬢による「真相」話を聴いている間の爺ちゃんはと言うと……ずっと目が点状態だった。


 そんな爺ちゃんは2人の話が終わると、「信じられんな」と呟き、ついで


――なんというか、神様から教えを受けている2人に儂から教えるのも……――


 「気が引ける」と言う。ただ、それについては、白絹嬢がフォローを入れた。


――お爺様が教えて下さる事は「理に適っている」と仰っていました。それに――


 神様だから「いろいろすっ飛ばしてしまう」ので、「人が使う法術は人から教わるのが一番」だという。


 何と言うか、分かったような分からないような話だが、とにかく爺ちゃんが2人(まぁ、俺も入れると3人だけど)に教えている事は無駄ではなく、寧ろ「基本として重要」なのだとか。


 そのように白絹嬢に懐柔された爺ちゃんは、その後


――それでも、やり難いわい――


 とボソボソ文句を言いながらも、続きを始めるのだった。


 ちなみに、彩音と白絹嬢は今日の午後も、


――今日も神界に行くのか?――


 という俺の問いに、


――え? どうだろう――

――特に聞いてないです――

――行くに決まっておるじゃろ――


 とのこと。どうやら、今日も行くらしい。


******************


 午後は昨日と同じく、「マカミ山鼬さんゆう」の朽ち果てた御堂の周辺に「独鈷杵」を打ち込む作業。


 「マカミ山鼬」の力は順調に削ぎ落されているらしく、「これならば明日仕掛けても良いかもしれない」という爺ちゃんだったが、


――いや、急ぐ理由も無いか……やはり、予定どおりに――


 という事。結局「マカミ山鼬」を呼び出して斃すという最後の仕上げは12月30日となった。


 ちなみに呼び出す方法はというと、


――そりゃ、お堂を壊そうとすれば出てくるだろ――


 なかなかワイルドな方法だった。ちなみに、


――マカミ山鼬め、今も儂等に憎悪の念を向けているぞ。独鈷杵による結界があるから手を出せない事を歯噛みしながらこちらを睨んでいる――


 急にコワイ事を言われてゾッとした。だが、そう言われると、朽ち果てた御堂の奥から妙に視線のようなものを感じる……。しかし「鬼眼」はおろか「ARグラス」にも怪異の存在を示すような反応はない。ただただ、イヤな雰囲気とネチッこい視線のようなものを感じるだけだ。


 その辺の事を爺ちゃんに言うと、


――その辺の「勘働き」だけは、神様でも教えられんて――


 たぶん、午前の話をずっと根に持っていたのか、ここでようやく「得意気」な顔をするのだった。



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