Episode07-22 のじゃロリかよ!
ひと仕事を終えた俺と爺ちゃんが帰宅したのは午後6時過ぎ。昨日よりも遅くなったのは、途中で雪が降り出したから。この辺は土地柄「寒いだけで雪は余り降らない」と聞いていたが、爺ちゃんに言わせると「今年は多いな」とのこと。
とにかく、途中で道路が真っ白になるほど降ったので(爺ちゃんは嬉々としてアクセルを踏み込もうとしたが)ゆっくり安全運転で帰る事になった。
お陰で家に着いた頃には、夕食の支度が出来上がっていた。
ちなみに、今晩のメニューは……「鱈の西京焼き」「厚揚げと野菜の炊き合わせ」「油揚げとほうれん草のお浸し」「油揚げと大根の味噌汁」。
昨晩は「豚の生姜焼き」「厚揚げの田楽」「茄子と油揚げの煮浸し」「油揚げとジャガイモの味噌汁」だったが、昨日今日と妙に「油揚げ」や「厚揚げ」が多い。主菜以外には何かしら紛れ込んでいる感じだ。
流石に、ここまで食材が偏ると少し不思議に感じてしまう。なので、
「なぁ爺ちゃん、油揚げが好物なの?」
ちょっと小声で訊いてみたが、
「いや、嫌いではないが好物という訳でも――」
とのこと。
だったら作り手側の都合かもしれない。丁度冷蔵庫に大量の油揚げが余っていたとか?
(そんな事って……あるか?)
ただ、食卓を囲む俺と爺ちゃん以外の面々、彩音・白絹嬢・婆ちゃん・エミの
(なんだろう?)
ちょっとした違和感を抱いた俺は、食卓の対面にいる爺ちゃんに視線を向ける。すると、爺ちゃんも訝しむような妙な表情。それでお互いに目が合って「??」となるのだが、
「――それでは食べるのじゃ、頂きます、なのじゃ」
そんな声で、全員そろって「頂きます」となり、俺(と多分爺ちゃんも)が感じていた違和感は……霧散してしまった。
******************
油揚げは美味しい食材だ。焼けばパリパリと香ばしく、煮れば出汁の旨味をたっぷり吸ってジューシーに、汁物に具として加えれば油由来の「コク」が出る。
栄養価的にも、たんぱく質と脂分という昔の日本人には不足しがちだった部分を補う要素があるし、なによりそこまで高い品ではないのが良い。
俺はズズッと「油揚げと大根の味噌汁」を啜り、大振りにカットされた油揚げを箸で摘まみ、口の中に放り込みつつ、油揚げの素晴らしさについて考えていた。
この間、食卓の会話は「明日は稲荷寿司にしよう」とか、「〇ちゃんの赤いきつねのお揚げって美味しいですよね」とか「シンプルに甘辛く炊いたのが一番なのじゃ」とか、そんな会話。そんな「油揚げ談義」がひと段落したところで、白絹嬢が
――今日はどんな感じだったんですか?――
と、俺と爺ちゃんの午後の仕事について話題を振った。それで、俺は「お堂の中にマカミ山鼬が居るって爺ちゃんは言うけど、言われるまで気が付かなかった」と、その辺の下りを話す。すると――
「ARグラスとかって、怪異の存在が見えるんでしょ?」
とは彩音の素直な疑問。ちなみに、彩音は俺と同じ「ARグラス装備」を購入しようと検討している。俺としても「是非」と推薦したいところだ。ただ、高額商品のため尻込みしているようなので、俺は密かに「合格祝い」か「卒業祝い」でプレゼントしようと考えている。
と、そういうのはさて置き、彩音は「ARグラス」の有用性を良く理解している。なので、そんな疑問が出るのだが、
「いや、全くなにも映ってなかった」
という答えにならざるを得ない。すると、
「でも、八神さんって『視える』んですよね?」
今度は白絹嬢が俺の「鬼眼スキル」の方を指して疑問を呈する。そして、
「そうそう、迅さんって『鬼眼』でなんでも見えるでしょ?」
彩音も便乗して「なんで視えないの?」と疑問を重ねるが、視えなかったものはしょうがない。だから、
「しょうがないだろ――」
と言い掛けるが、そんな俺の言葉を割って入ったのが爺ちゃんだった。
「鬼眼じゃと?」
爺ちゃんはちょっと驚いたような、少し睨むような顔つきで俺を見ながら、
「それは本当か、迅?」
食卓越しに詰め寄る感じになった。
「え? あ、ああ。アプリの画面で『鬼眼』って出ているから……」
ちょっと気圧される感じで答える俺。
この後、爺ちゃんから具体的に「何がどんな風に視えるのか?」と詰問的な調子の問いかけを受け、俺は、
「怪異の姿が障害物越しでも視える」
や
「ほんの少し先の未来が見える」
や
「呪物の放つオーラっぽいのが見える」
と答え、彩音が
「あと、暗い所も見えるよね」
と補足(たぶん、ある出来事を根に持っている)。
一方、爺ちゃんからは、
「それは、穢界の外でも
と問われ、
「うん、視えるよ。ただ、普段はちょっと困る事もあるから意識しないようにしているけど」
と答える俺。
まぁ、実際に「未来視」なんて普段から視えていたら多分日常生活が儘ならない。車の運転だって逆に危なくて出来た感じじゃない。だから、普段は「鬼眼」を意識せずに生活している訳だ。
「意識するかしないかでオンオフ出来る感じなのですか?」
とは、白絹嬢の感想。それには、「そうだよ」と答えつつ、俺は何となくの思い付きで「鬼眼」スキルを使おうと意識。何となく「視界が切り替わった感」を得た後に、食卓から居間全体を見回しつつ、
「……いま使ってみたけど、特に――」
「特に穢界以外では意味がないから」的な事を言おうとした俺は、そこで変なモノを見つけて固まってしまった。
「……」
「……な、なんじゃ?」
「……ってか、誰?」
そう、食卓を囲む面々の中に1人だけ見知らぬ存在が混じっていたのだ。それは、彩音とエミの間に座り、この瞬間も厚揚げを美味しそうに頬張る、銀髪猫耳の少女……いや、幼女?
その銀髪猫耳幼女は、厚揚げをモグモグ、ごっくんと飲み込んだ後で、
「鬼眼持ちとか、聞いておらんわ!」
何故か膨れっ面の恨みがましい視線と共に、そんな抗議の言葉を発したのだった。
******************
食卓に紛れ込んでいた銀髪猫耳幼女。その外見は小学校の2,3年生。少し前のエミと同じくらいの背格好。それで髪の毛は輝くような銀髪で頭に三角の耳(猫耳ではなく狐耳)を乗せて、背中の方には三つ又のモフモフとした尻尾がある。
その外見で、一人称は「
(のじゃロリだ……のじゃロリ様だ……)
と思った訳だが、それを口に出す前に「のじゃロリ様」に睨まれてしまった。どうやら、エハミ様同様に言語化する直前の思考は読めるらしい。
(厄介だな)
と思うが、
「厄介なのは貴様じゃ」
と返される。
「エハミの奴め、鬼眼持ちだなどと一言も言っておらなんだぞ」
どうやら、この場に至るまでにエハミ様とやり取りがあった模様。
「それは、ちゃんと聞かない
突っ込みを入れるエミに、不満そうな視線を返すのじゃロリ様。
ちなみに、このやり取りを彩音と白絹嬢は何とも言えない表情を浮かべて見守っている。
「もしかして、彩音は知っていた?」
という俺の問いに彩音は「……うん、まぁ」と答える。そして、
「いつまで存在を見破られないか? でエハミ様と掛けをなさっていたのです」
白絹嬢が端的に状況を説明してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます