Episode07-20 絶対、やってるだろ?
エハミ様については、なんだか「モノのついで」のように思い出す恰好になって恐縮だが、不在というのは意外だった。そのため、俺は何とも言えない「肩透かし感」を覚えたもの。
やっぱり、心の何処かで
(夏の修行の再来……アレを意識して構えてたんだな)
ということだ。
別に望んでいた訳ではないが、アレから現実世界で4カ月程経過した今の俺の状態を確認したかったし、なんなら諏訪さん辺りに確かめて欲しかった。
――このままだと、近い将来死ぬわよ――
という言葉は、やはり心の中で妙な引っ掛かりになっている。
とにかく俺は、ちょっとした「消化不良感」を覚えつつ、それでも、
(まだ、しばらくは実家に居るんだから)
また明日にでも来ればいいと考えて、エハミ様の
******************
爺ちゃんの家に戻ってみると、まさに夕食の準備が整いつつあるところだった。
食卓替わりの居間のテーブル(少し古い家具調
どうやら、台所の方面は婆ちゃんと彩音が料理の仕上げ的な作業をしているらしく、出来上がったお皿を食卓に運ぶのはエミと白絹嬢。そんな役割分担になっている模様。
「お客さんにこんな事をさせてしまって、スマナイな」
とは爺ちゃんの言葉だが、それに対して白絹嬢は「いえ、これくらいさせてください」との事。少しの笑顔で奥ゆかしくもサッパリと言う感じは、まさに「
一方、それを聴いていたエミの方は
「じゃぁ代わ――」
と、多分「代わって」的な事を言おうとしたのだが、途中で言いよどんだ後に、
「やっぱり、いい。権蔵は座ってて」
となった。それで、半ば腰を浮かしかけていた爺ちゃんが、「は、はい」となる。孫(というより、ひ孫か?)程歳が離れている少女とのやり取りとしては可笑しいものだが、オカシさの本質はそこじゃない。
(何があった? エミ……)
俺が知っているエミなら、早々に手伝いを交代して炬燵に潜り込んだだろう。しかし、実際のエミは(渋々というか、不満タラタラな感じではあるものの)文句も言わずに手伝っている。その様子に、
(何があったんだ?)
何とも言えない疑問を感じた俺だが、結局、この疑問は解消されないまま夕食の時間になった。
夕食の場は昨日のようについつい話し込んでしまう深刻な話題ではなく、主に午後に「爺ちゃんの手伝い」をしていた俺に「何をしていたの?」的な話題になった。
それで、俺がその辺の話をすると、婆ちゃんが「そんな事をさせて――」と爺ちゃんを詰める場面があったりした。一方で、白絹嬢は
――独鈷杵ですか……確かに理に適っていますね――
とのこと。何がどうして「理に適っている」のか、俺にはサッパリ分からないが、彼女の持つ知識と照らしても爺ちゃんのやり方は「理に適っている」らしい。
――そうじゃなぁ、物事の形に囚われ仕来りをなぞるだけが法術ではない。形や仕来りの奥にある理を自由に操ってこそ、それが本来の法術というものじゃ――
という声も。
それで、「そうだろ、そうだろ」と得意気になった爺ちゃんに、「何、鼻の下を伸ばしてるんだい」と婆ちゃんがツッコミを入れたりする。
一方、彩音は
――そういえば、お母さんは明後日に来るって――
とのこと。なんでもスマホに連絡があったらしい。しかし、なんで実の息子ではなく彩音の方に連絡を入れるのだろう?
――え? お母さんとの連絡? 結構やり取りしてるよ――
そんな俺の疑問に答えた彩音はスマホのメッセージアプリを見せてくれたが、確かに一日平均で3~5回ほどメッセージのやり取りをしている。
ちなみに、俺の場合は月に1度の安否確認的なメッセージのやり取りだけ。これじゃもう
(どっちが実の子供か分かんないな)
と思うが、まぁ、彩音と母さんの仲が良いなら「ヨシ」としよう。
この後、話題は大晦日と元日の話に移り、彩音と白絹嬢が「お婆ちゃんからお節料理の作り方を教えてもらう」と言い、婆ちゃんも「今年は賑やかだから、ちゃんと作る」と宣言。その後は女子4人(注:婆ちゃん含む)が、その辺の話題で盛り上がっていた。
俺は時折向けられる彩音の言葉に「うん」とか「そうだな」とか相槌を打ちつつ、その様子を眺める。そして、
(彩音と白絹嬢、なんだかますます仲が良くなったな)
と思った。前から仲は良かったが、それでも少しは「他人の遠慮」のようなものを感じる事が出来た。しかし、今は何と言うか
(姉妹というか双子というか……ソウルメイト? なんだそりゃ?)
妙な単語が思い浮かんでしまうほど、距離感の近い仲の良さを感じる。まるで、長年苦楽を供にしたような……本当に姉妹のように見えてくるから不思議なものだ。
(一体、何があったんだ?)
とにかくこの日の夕食は、エミの素振りといい、彩音と白鳥嬢の変化といい、妙に疑問が残るものだった。
そして、これらの疑問に対する答えのヒントを、俺は翌日の午前に見出す事になる。それは、
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午前中は昨日通り、爺ちゃんによる「呪符術等々」の法術に関する講義(?)だ。その場で、昨日同様に実際の呪符を書いてみるのだが――
「みてみて、迅さん!」
そう言いながら、彩音は自分で書いた呪符を「じゃ~ん」とか言いながら俺に見せる。
ちなみに、昨日の彩音は「かなり独創的なタッチ」で呪符には見えない「何か」を半紙の上に描き出していた。しかし今日は――
「なん……だと……?」
思わず絶句してしまうような、流麗な筆筋で見事な呪符を書き上げている。
「凄いでしょ?」
「……」
屈託なく自慢する彩音に対して、直ぐに言葉が出ない俺。そう、この時点で俺は手書きの呪符という面で完全に彩音に負けていた。しかしなぜ、始めて2日目の彩音に、4カ月間シコシコと書道教室に通い続けている俺が負けるのだ?
「ん? これは一体」
と、ここで爺ちゃんが疑問の声を上げる。
この時、爺ちゃんは白絹嬢に「霊力を操る手法」について実践的な手ほどきをしていた。まぁ、白絹嬢は「呪符作り」はほぼ完ぺきだったので、教える内容を分けていたのだが、とにかく、爺ちゃんはその過程で彼女の異変に気が付いた。それは、
「霊力が……増えている?」
「そうですか! 本当ですか!」
爺ちゃんの呟きに嬉しそうな白絹嬢の声が重なる。
つまり、彩音は急に「呪符」作りが出来るようになり、白絹嬢は悩みの種だった「霊力」が急に増えた。それも1日……いや半日で。これはもう――
(2人とも……絶対にやってるだろ?)
ということ。勿論、「神界での修行」の話だ。
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