Episode05-29 小鬼奮戦!


一条俊也いちじょう・しゅんや視点]


 オレと翔太さんと白絹さんの3人は、迅が電話で言っていた「出入口」へ向かった。


 「出入口」の場所は校舎の裏側、運動場側にあるという話だったので、オレ達3人は校舎の建物沿いに進むと、体育館へ繋がる渡り廊下を横切り、躑躅つつじの植え込みを飛び越える。そして、


「あそこか?」


 翔太さんが言うように、校舎の一画 ――丁度「学食スペース」に隣接する場所 ―― に開けっ放しの窓を発見。


「そうみたいですね」


 迅から聞いた通りだったので、俺はそう相槌を打つ。そして、


「入りますよね?」


 誰とはなし・・・・・に問い掛けてみるが、答えは翔太さんも白絹さんも「当然」とのこと。


 なので、早速、順番に中へ入る。


 入った先は「厨房」のようなスペース。流し台に簡単な調理器具や大型の冷蔵庫が並んでいる。ただ、この時点で、先の学食スペースから少し大きめの物音が聞こえて来ていた。キャーキャーと女性が叫ぶ声も聞こえる。


「麗華、一条さん――」


 翔太さんは緊迫感の籠った声で呼びかけた後、厨房スペースを一気に突っ切り、先へ続くドアを開ける。


 オレは立ち位置的に白絹さんの後に続いて、最後に「学食スペース」に出る事になった。そして、見渡した先に「奇妙な光景」を目にした。


「なんだ?」


 初めて見る光景に、思わず疑問が浮かぶ。


 状況は、学食スペースの入り口付近で2匹の「骸穢むくろえ」と1匹の――


「鬼? 小鬼か?」


 小さいサイズの「鬼」が戦っている、というもの。更に、小鬼の側には2人の男子生徒が学食の椅子を振り回して加勢している。


(どういう状況?)


 疑問を感じつつ、更に周囲を見渡すと、手前側(つまり学食スペースの奥側)には男女3人の学生が居て、反対側(つまり学食スペースの入り口側)の廊下の先には数十人の集団が居る。


 数十人の集団は、たぶん厨房スペースにある出入口を目指して逃げてきた集団だろう。ただ、目の前で「小鬼(+学生2人)vs骸穢2匹」の戦いが勃発しているため、先へ進めない感じだ。


「あの小鬼、あれは使鬼です」


 とここで白絹さんの声が上がる。白絹さんが言うには、あの小鬼は「使鬼」。つまり、誰かが召喚した存在だ。そして、この場合は


「じゃぁ、迅が?」

「たぶん、そうでしょう」


 という結論になる。


 ただ、どんな結論になろうとも、状況としては


「とにかく、避難の邪魔だ」


 というもの。それで、翔太さんは(いつの間にか手に握っていた)長巻ながまきを肩に担ぐように構えて骸穢2匹に向かって走り寄って行った。


******************


 戦いは、翔太さんが加勢に加わった直後に終了。


 翔太さんは、長巻(長大な柄を持った大太刀)を2度振っただけで、骸穢2匹の胴体を真っ二つに分断してしまった。その戦いぶりは、久しぶりに見たものだけど、オレがどうこう・・・・するような隙の無い圧倒的なものだった。


 その後、オレ達は廊下で立ち往生していた避難集団を出口へ誘導しつつ、先ほど「小鬼」と共に戦っていた男子学生や奥の方にいた3人の学生に事情を聴く。すると、


――桧葉埼と、アレって彼氏か? とにかく目付きの悪いおっさんに言われて――

――逃げてくる人を手伝えって――


 という状況だと分かった。勿論「目付きの悪いおっさん」とは迅の事だろう。迅は「出入口」の守りとして「小鬼」を置いて行ったようだが、


――さっきの、ミイラみたいな化け物が突然現れて――

――おっさんが置いて行った鬼の子? 頑張ってたけど、アイツ弱ぇから――


 どうやら、ヤンキー男子特有の「漢気スイッチ」が入って加勢した模様。


 ちなみに、彼等に「弱い」と言われた「小鬼」だが、これは白絹さんに言わせると、


――当然よ、そもそも「小鬼」は式者が身の回りの世話をさせるために使う使鬼なんだから――


 とのこと。どうやら迅は、その辺の事情を無視(というか知らないのだろうけど)して、非戦闘員を戦闘に使用していたらしい。オレとしては「小鬼」がちょっと気の毒に思えるけど、当の本人小鬼は「やり遂げた感」をにじみ出しつつ、周囲に油断のない視線を配っている。


 だから、


(まぁ、いいか)


 と、余計な事は考えないようにした。


 とにかく、そういう状況確認を挟みつつも避難集団は校舎の外に出た。それで、


「早く先を目指そう」


 少し時間がかかってしまったが、オレ達3人は迅の後を追って行動を再開する。


 しかし、廊下を進み始めて直ぐに別の避難集団に遭遇してしまった。今度は「2階」から降りてきた集団らしい。


 その集団は、先ほどの集団よりも「パニック度合い」が強く、口々に


「ムカデの化け物が――」

「猿の化け物が――」

「巨大なクモが――」


 と言っている。ただ、よくよく聞くと、


「小学生くらいに見える女の子が、化け物を操っていた」


 という状況だったと知ることとが出来た。そして、


「化け物は女の子のいう事を聴いて、私達は襲わなかった」

「ていうか、助けてくれたのかも?」


 とも。


 なんというか、良く分からな状況だ。その「女の子」とは何者だろうか?


「もしかして、他にもアプリユーザーが?」

「さぁ、分からないけど」

「でも、先行している人が八神さん以外にも居るんですね」


 という事は確実。そして、


「百足や猿や蜘蛛の化け物って、もしかして」

「使鬼かもしれないな」

「でも、そうだとしたら結構強い類の使鬼ですよ」


 そんな風な会話になる。オレとしては


(アプリユーザーだったら「召喚士」ってクラスがあるらしいけど、今の場合は式者かもしれない)


 と思ったが、いずれにしても状況は不明確。ただ、


「そういう人が先に居るなら、私達は避難してきた方を誘導した方が」


 役回り的には、それが正解だろうと思う白絹さんの提案で、この後五月雨式さみだれしきに1階へ逃げてくる人たちの誘導を行うことなった。



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