Episode07-07 やっぱり我が家が一番?


 ムスッとご機嫌斜めのエミだが、玄関ドアを開けて中に入ると第一声が、


「ああ、やっぱり我が家が一番ね」


 だった。


 中身は別にして、外見が(美少女だけど)小学校高学年くらいに見える少女が妙に年寄り臭い台詞を言うもんだから、俺と彩音は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


 ただ、


「みんな、出ておいで~」


 次の瞬間、エミはそう言いつつ胸の前で両手を広げるポーズをとる。その結果、彼女の目の前に握りこぶしよりも少し大きいサイズの白い光球が1つ2つと次々現れ、


「お、おい、ちょっと――」


 慌てた俺の制止の声を全く無視して、全部で6つに増えた光の球は、一斉に形を歪ませ――


「やめ――」


 「やめろ」と言い終える直前の俺から根こそぎ・・・・レベルで法力を奪う。カクッと膝から力が抜ける俺。


「じ、迅さん!」


 驚いた彩音の声を聞きつつ、廊下に膝を突いた俺の目の前には、ふてぶてしい・・・・・・顔の猫(ぬえ)、種類不明のヘビ(夜斗ヤト)、赤ら顔の小猿(狒々ひひ)、素焼きボディの埴輪(ハニ〇君)、見かけたらギョッとしてしまいそうな立派なサイズの百足(ひゃくと)、極々普通サイズの蜘蛛(地蜘蛛じぐも)がズラッと……


「ニャー」と鵺。

「シャァー」と夜斗。

「イヒヒヒィ」と狒々。

「ハニャ!」とハニ〇君。

「……」「……」無言なのは百足ひゃくとと地蜘蛛。

「みんな『ただいま』だって」


 通訳よろしく、全員の鳴き声(?)を訳してそう言うエミは、ここでやっと「ニマッ」と普段通りの笑顔になる。なので、俺は「一気に呼ぶなっていっただろ」という抗議を飲み込むことになってしまった。


「ちょっとエミちゃん、一気に全員よんだら迅さんが大変だって言ったでしょ」

「あ、そうだった――」


 俺の代わりにエミを窘める彩音の声を聞きつつ、俺は失神寸前の状況を何とか乗り切る事に意識を集中するのだった。


******************


 同居人の連中は、これまで約1か月の不在期間が嘘だったかのように、早速好き勝手に行動を開始。とは言っても、百足と地蜘蛛以外は定位置であるテレビの前の炬燵こたつに陣取るだけだが……なんだろう、妙に家の中が賑やかになった感じだ。


 その光景を見ながら、


(短かったな)


 妙に心残りを感じる俺。


 結局、俺と彩音の2人きりの生活は約1か月で突然終わってしまった。それが何となく勿体なくて恨めしくて、俺はたぶん変な顔で彩音の方を見たんだろう。


 すると彩音も「ため息半分、苦笑い半分」といった表情で俺の方を見てくる。お互いに似たような気持ちでいると分かると、ちょっとだけ気分と表情が軽くなる。


「あ、そうだ、エハミがね――」


 とここで狒々ひひとオセロ(オセロ盤どこから出て来た?)をしていたエミが「そういえば」的に


「夜は彩音と迅の邪魔をするなって……ねぇ、私は何処で寝たらいいの?」


 う~ん、この子は何処まで「分かって」モノを言っているのだろうか?


(見た目はあんな・・・だけど、中身はエハミ様の分霊だし……)


 どう答えて良いか分からずにフリーズする俺。ただ、こういう時に逞しいのは女性の方なのか、


「そんなの、今まで通りで良いよ」


 彩音の返事はそんな感じ。


「でも……」


 一方のエミは納得していない感じだが、


「大丈夫、私の方で適当にヤルから」


 何をどうヤルつもりですか、彩音さん……となっている俺を後目に彩音とエミは勝手に心が通じ合ったのか、


「わかった」

「そういうことで」


 となっている。


(???)


 な俺。


 ただ、この話題はこれでおしまいの様で、その後は彩音がエミに「旅行」先の出来事を訊く流れになった。


******************


 分かった事は、エミとエハミ様は東京から九州までを旅したという事。ただ、どの土地で何処を訪れたのかはちょっと良く分からない。エミにその辺の(地理的な)知識が無いからだ。だから分かった事と言えば、


「サンマー麺? 美味しかったぁ」どうやら横浜に寄ったらしい。


「ナポリタンって、迅が作るのじゃなくて、スープに漬けて食べるんだよ」これは良く分からなかったが、後で調べたら静岡の方にそういうご当地麺があるらしい。


「台湾ラーメンニンニク抜き、あとはひつまぶしね!」これは、まぁ愛知県名古屋市の方だろう。


「太いお饂飩と甘いタレが絶妙だった」最初は名古屋の味噌煮込みうどんかと思ったが、どうやら伊勢うどんの模様。伊勢神宮にでも行っていたのかな?


「タコせん! ずっと食べてられる」まぁ、大阪だろうな、たこ焼きだし。


「尾道ラーメン、私はちょっと苦手だったけどエハミが好きだって言ってた」尾道って……ああ、広島の方だな。


「でも、やっぱりトンコツ! やっぱりナガハマ! 替え玉、ふつう!」まぁ、絵葉書にも書いてあったし、これは九州か……


 行った場所の地名はうろ覚えだが、食べたモノはよく覚えているエミの旅行譚だ。どうやら、東京から九州まで各駅停車的なノリで旅をしていたと分かる。それにしても――


(見事に麺類粉モノを食い歩いて来たんだな)


 これじゃエハミ様の旅の目的が何だったのかさっぱり分からないが、もしかしたら本当に「食べ歩きの旅」だったのだろうか? いや、流石にそんな事は……


「迅……お腹空いた」


 一方、散々これまで食べて来たものを話していたエミは、話の内容につられたのだろうか、そんな事を言う。それで時計を見ると時刻は午後の1時半。俺も彩音も昼食を食べていないので、確かにお腹は空いている。


 ただ、買い出しのタイミング的な都合で冷蔵庫の中にあるのは野菜と後は豚ひき肉が少しだけ。冷凍庫の中の「おかずストック」はつい先日整理(というか食べた)したばかり。


 だから、我が家にあるのは買い置きのインスタント袋麺と冷蔵庫の中のあり合わせくらい。これで作るとしたら……


「じゃぁ……ラーメンでいい?」


 各地のご当地ラーメンを食べ歩いてきたエミからするとモノ足りないかもしれないが、こっちはそんな話ばっかり聞かされてすっかり「その気分」だ。


「アタシ賛成!」


 彩音も賛成の様だし、エミは「なんでもいい、お腹空いた」とのこと。早速調理に取り掛かる事にした。


 ちなみに、この時作ったのはあり合わせの野菜とひき肉炒めがたっぷりと乗った塩ラーメン。やっぱりラーメンは「ポロイチラーメン・塩」が最強だと思う。一応カテゴリー的には「タンメン」かもしれないが、どうやったってそれなり・・・・レベルの「家庭のラーメン」が出来る。


 これを啜りながら土曜日午後のテレビを見ると……なんとなく懐かしい気分になるから不思議だな。


「あ、そう言えばエハミが『年末年始は実家に来い』だって――」


 熱いラーメンをズバズバ啜っていたエミが思い出したように言う。「実家に帰る」は元々俺と彩音でそういう話になっていたので予定通り。だから、


「もともとそのつもりだった」


 そんな風に返事をしつつ、俺はカレンダーを頭の中に思い浮かべた。


(あと2週間ちょっとで今年も終わりか……)


 本当に色々あった年だったな。


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