Episode07-08 「エミfeat.お仲間怪異軍団」の威力① 原野タイプの六等穢界


 翌朝、俺は寝ていた彩音を起こすと普段通りのモーニングルーティンをこなす。まぁ、「モーニングルーティン」と言っても、まだ寝ぼけた感じの彩音に朝の支度をさせつつ、その間に簡単な朝食を作ったりするくらいだ。語感から思い描くような優雅さは無い。寧ろ1日で一番せわしない時間かもしれない。


 それで「準備OK」となった彩音を新しく通うようになった高校へ送り届ける。そこまで含めて毎朝の日課だ。


 ちなみに、今日の放課後、彩音は白絹嬢と約束があるらしく「お迎えは大丈夫、自力で帰るから」との事。それで俺は勝手な解釈で「その取り合わせで遊びに行くなんて、あるんだ」と珍しく感じたのだが、彩音と白絹嬢の約束は「遊ぶため」ではなかった。


――今週の水曜と木曜が共通テストの模試なのよ。だからその対策! 別に遊びに行く訳じゃないし――


 とのこと。大変失礼しました。


 現在、彩音(と何故か白絹嬢も)が編入された高校は、一応ギリギリレベルで「進学校」とよべる高校だ。そのため、大学受験対策に力を入れており、共通テスト(俺の時代のセンター試験だな)模試が頻繁にある。


――冬休み明けにも別の模試があるし、それが終わったら直ぐに本番だし――


 受験生の冬休みは遊んでる場合じゃない程日程がカッ詰まっている。俺自身も嘗ては受験生だったわけだが……たしかに、彩音を見ていると「当時」の記憶が何となく蘇ってくる。だから、


――実家に帰るの、見合わせるか――


 となるが、それは「大丈夫」とのこと。


――エハミ様に直接神頼みするし――


 エハミ様は「学問の神様」ではないと思うのだが……まぁ、今週の水木にある模試の結果を見てから決めれば良いのかもしれない。


 と、そんなやり取りを車内で交わしつつ、彩音と別れた俺は、その足で自宅マンションに戻る。


 部屋に戻ると、エミも起き出していて、俺が作っておいた朝食(トースト+スクランブルエッグとウィンナーと適当に切ったトマト)をムシャムシャしていた。


「おはえひ」

「食べながら喋るの行儀が悪いぞ、ただいま」


 そんなやり取りをしつつ、俺はキッチン側へ回って、卵と猫用チュールとコップ酒を準備、


「ほら、飯だぞヌエ、ヤト、ヒヒ」


 「お仲間怪異軍団」の中でも「ナニカ食べたい連中」に好みのメニューを提供する。ちなみに、ぬえ(今は猫型)にはチュール、夜斗やと(今はただのヘビ)には生卵、狒々ひひ(今は小猿)にはコップ酒(冷)だ。チュールや卵はともかく、朝からコップ酒とは……とも思うが、まぁ怪異なんだからなんでもアリだろう。


******************


 朝食の後は家事タイム。エミに洗濯機を回してもらい、部屋の掃除はハニ〇君指揮の下「お仲間怪異軍団」が分担。俺はキッチン周りを中心に洗い物やら掃除やらを行う。


 「お仲間怪異軍団」が同居する事による、数少ないメリットの一つが「家事を分担」して出来る事だろう。俺1人だと何だかんだと2時間以上3時間近くかかる作業が半分以下で終了する。


 お陰で、午前の使える時間が増え、俺は「書道の練習にもうちょっと時間を――」などと考えていたのだが……


「迅、今日はどこ行くの? ね、ね、どこ行くの?」


 1か月振りなので忘れていたが、この時間帯からエミによる催促が始まるのだった。


 ちなみに、エミの催促は……まぁ「穢界行き」の催促だ。食事とは別に「穢れ」成分もしっかりと摂取したい成長期育ち盛り(?)のエミは、結構積極的に「穢界」へ行きたがる。


 こうなると「じっくり書道の練習」なんてことは難しい。実際に「行く」と言うまで、ずっと周りで「ねぇねぇ」と煩くなる。なので、


「じゃぁ、七等で――」


 と早めに終わらせようとするが、


「このあいだ六等を浄化したでしょ? だから、私も六等」


 そうは問屋が卸さなかった。しかも、「六等穢界」を浄化した事までお見通しらしい。


「どうしても六等?」

「うん、六等」

「七等2回は?」

「六等」


 全然譲ってくれない感じなので、結局俺が折れる事になった。


******************


 探せば在るもので、俺は大宮駅の北西方面に「六等穢界」を見つけることが出来た。場所は自衛隊の駐屯地と高速のインターチェンジの間。大きな建物(ショッピングセンターだろうか?)が取り壊された跡地だ。随分と古いようで、そこそこの敷地が手つかずになっている。


 その敷地の角。枯草に埋もれるように積まれた工事資材の片隅に入口を示す「黒い渦」があった。


 ちなみに、今日は季節外れに温かい日だったので、久しぶりのスクーター移動。後ろにキャッキャ言うエミを乗せて現場に到着。なるべく目立たない場所にスクーターを停めると、後は普段通りの手順で「六等穢界」の中に入った。


「う~ん、ひさしぶり」


 と、声を上げるエミを横目に見つつ、俺は穢界の中の様子を確認。どうやら、この穢界は俺が勝手に作った分類のうちの1つ、「原野げんやタイプ」となる。その名の通り、だだっ広い「野原のはら」が広がり、草木や石、岩が多数存在する反面、人工物がほとんど存在しないタイプの穢界だ。


 ただ、複数階層がデフォルトっぽい六等穢界で「原野タイプ」となると


(階層ってどうなるんだろう?)


 そんな疑問を感じるが、隣のエミはお構いなし。


「迅、神鳥出して」

「あ、はいはい」

「私は……今日は鵺と夜斗、それから……狒々とハニ〇、後は地蜘蛛と――」

「結局全部じゃないか!」


 「お仲間怪異軍団」を一気に全部呼ばれると、俺は法力切れを起こしてしばらく戦闘不能になる。だからエミと一緒に穢界に入る時は「3~4までにして」とお願いしている。


「あ、そうだった……てへ」


 「てへ」じゃないよ、と思う。しかも、そのあざとい・・・・仕草、いったい何処で覚えて来たんだろう? と思うが、


「……じゃぁ、鵺と夜斗、あとは狒々、出ておいで!」


 その辺を確かめる前に、エミはさっさと3体選抜して呼び出していた。


――ゾワッ


 という感触は、勝手に法力を(しかも半分ほどごっそりと)使われた時の感触。慣れるまでは吐き気や頭痛を伴ったが……1か月振りにしては、頑張って耐えている感じだ。


「迅、早く神鳥」

「あ、ああ」


 この後、俺は追加で「使鬼召喚:神鳥」を出し、周囲を偵察。とりあえず近場に複数の怪異が居たので、その場所をエミに伝えると、


「わかった、行ってきま~す!」


 楽しそうな声を共に駆けだす「エミ+3体のお仲間怪異」。その後起こった戦闘状況は、早速戦闘というよりも、一方的な狩りの様だった。



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