Episode07-06 帰宅
自宅マンションへの帰り道、俺はちょっとだけ不機嫌なままだった。表には出ないように抑えていたが、内心では「俊也のヤツ、彩音になんて現場を見せるんだ」といった感じ。後は「大丈夫だと思った自分」にも腹が立つ。いくら仕事とはいえ、たとえ予測不能な結果論だったとはいえ、彩音が怯える結果になったのは事実。その事実に対して腹を立てている感じだ。
でも、
――もう大丈夫――
と彩音が調子を取り戻すにつれて、そんなイラつきやムカつきも徐々に治まってくる。
――でも、似てたな……あの感じ――
それで復調した彩音は、やはり8月の「八等穢界・生成り」を思い出してそんな感想を言う。
一方、俺は「穢れの残渣」のようなモノは感じたが、
しかし、あの穢界を作り出した穢界主(確かアスモ……何だったか思い出せないが、悪魔と呼ばれる存在だった)は、きっちり斃したハズ。死に際に
――お前の顔は覚えた――
と負け惜しみ的な事を言っていたのを覚えているが、直後にきっちりと灰になって消滅した。だから、同じ「悪魔」の仕業というのは考えにくいと思うのだが、その辺は
――そこまでは、わかんないよ――
彩音にも分からない話。とにかく、事情や背景は良く分からないが「似ていた」という事実だけが残った感じだ。
と、そんな感じの会話で一応の結論を得て、ほぼ同時に俊也に対する軽い怒りのようなモノが消え去ったタイミングを見計らったかのように、スマホが鳴った。見ると、発信者は「俊也」だった。
******************
俊也からの電話は先ほどの謝罪と、彩音への心配、後は事件関連の情報を「念のため」伝えるという内容。
俺はせっかく怒りを手放したのだから、特に拘りなく俊也の謝罪を彩音に伝えて「大丈夫よ、それより俊也さんも働き過ぎな感じだから身体に気を付けて」という彩音からの返事(そんな気遣いの言葉が彩音の口から出たので、俺がビックリしたけど)を電話越しに伝える。ちなみに俊也は「ええ子や~」と何故か関西風な口調で呟いたもの。
一方、事件については最近「同じような事件が立て続けに起こっている」という事だった。12月に入ってからの事らしいが、どの事件も
――いわゆる「援助交際」とか「パパ活」絡みだな、お前も気を付けろよ――
いや、お前が気を付けろよ! と言いたくなるが我慢して説明を聴くに
――どれも被害者の遺体の損壊がひどくて個人の特定が難しいんだが、ようやく何件か分かって来て……どうやら被害者の側にも問題がある感じなんだ――
とのこと。
でもまぁ、早い話が「売春」を持ちかけるような男が被害者な訳だから「問題」があるなら「そもそも」的な話だが、
――前科持ち、性犯罪とか窃盗とか……まぁまともな社会生活を送っているような人物じゃないな――
とのこと。俺が思う「問題」とは別次元の「問題」を持った人間が被害者であるパターンが多いらしい。
――たぶん、ヤリ逃げ。お金を払わずにやる事やってトンズラするタイプか、もしかしたら相手に睡眠薬を飲ませたりして、持ち物を持ち去るようなケースだったんだろう――
実際、現場に残されたコップや飲食物からそう言った薬物が検出されたらしい。
――あと、加害者だが……どうやら複数いる――
これは、被害者の身体に残っていた体液から被害者以外の血液型が割り出されて分かったとのこと。現場によって血液型にバラつきがあるらしい。
――とにかく、ヤリ逃げとかそういうのが加害者にバレてトラブルになった結果、殺害に及んだと警察は見ている。殺害の方法がどれも「撲殺」なので、一般的に考えられる女性の腕力じゃ無理な方法だからという点と、後は防犯カメラの画像データが不自然に飛んでいる点で、怪異性が疑われている訳だ――
そこまで言った俊也は、「また、何かあったら頼むわ。今日はごめんな」と言って電話を切った。
******************
帰り道で俺は彩音に俊也から聞いた事件の情報を伝えた。
彩音としては、
「ああ、そんな話……聞いた事ある」
とのこと。前の高校で付き合いがあった一部の女子生徒が
「一応……へんな事件が起こってるって教えても良いかな?」
となる。友達付き合いはそれほどなかったが、連絡先は知っているらしい。
俺としては、別に良いも悪いも無い話だ。むしろ、連絡する事を止めた結果、彩音の顔見知りが事件に巻き込まれ、それが原因で彩音が凹むような未来の方が嫌なくらい。だから、
「良いんじゃない」
となる。
それで、傍らでメッセージアプリに文章を打ち込む彩音と共に、最寄駅から自宅マンションまでの道中を歩く。
途中には特に何もなく、コンビニに寄ったくらいで自宅に着く。エレベーターを使い上の階へ上がり、廊下の角を曲がると自室の玄関ドアが見えるのだが、
「あれ?」
「あ!」
俺と彩音は2人同時に驚いた。というのも、ウチの玄関ドアの前で三角座りをした少女がいたから。
おかっぱパッツン前髪、小学校の高学年くらい、やたらと沢山の荷物を脇に置いているが、そのむくれた横顔は間違いなく、
「エミ」
「エミちゃん」
だった。
それで俺達の声に気が付いたエミは、一瞬だけ嬉しそうな表情を此方へ向けたが、直ぐにムスッとした表情になり、
「迅、彩音、2人とも遅い!」
猛烈な抗議を始めるのだった。
どうやら、昨日の深夜に帰ってきたらしいが、玄関の鍵が掛かっていて中に入れなかったとのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます