Episode02-03 暇なひと時

2話分同時投稿です。

(Episode02-02が掲示板回だったので)

_______________


 現在時刻は午後4時。一方、待ち合わせ時間は夜8時。彩音との待ち合わせの場所までは、40分もあれば移動できる。


 最近の日課(仕事なので日課という呼び方はおかしいか?)になっている1日2度の「九等穢界」を、待ち合わせ前に1つ片付けたとしてもたっぷり時間が余ってしまう。


(何して時間をつぶそうか……)


 結果として、そんな風に手持無沙汰な時間を持て余す俺は、結局スマホに手を伸ばし「EFWアプリ」を立ち上げる。そして、ホーム画面からアイテムのアイコンを選んでタップ。


 ちなみに、今日の昼、起きたばかりの時に確認したところ、公式のお知らせに


――新アイテム入荷!――


 とあったので、それを確認しようという訳だ。


「どれどれ――」


 いつも通りに独り言を呟きつつページを手繰っていく。目当ての新商品は直ぐに見つかった。


*******************


イヤーマウントアナライザ(EMA) 3,800宝珠

*片耳懸架式のARグラス。アプリとペアリングする事で視界内の怪異の名称や、オートマップ情報を表示させることが出来る。また、アプリ画面そのものを視界に投影することが可能になる。(ANGL―TEC社製)


ファントムタッチコントローラ 3,900宝珠

*手首に装着する筋電センサーリング。イヤーマウントアナライザと併用する事で視界内に表示された情報を直感的に操作できる。(ANGL―TEC社製)


アームプロテクトホルダー 500宝珠

*前腕内側にスマートフォンを固定するホルダー兼プロテクター。戦闘中や行動中のスマホ紛失を防ぎつつ、貴方の腕とスマホをガッチリガードします。(プロメテウス工業製)


炎玉 10宝珠

*小さな炎を出すガラスのビー玉。投げつけて使う。


氷玉 10宝珠

*小さな冷気を出すガラスのビー玉。投げつけて使う。


雷玉 10宝珠

*小さな電撃を出すガラスのビー玉。投げつけて使う。


破魔のお札 20宝珠

*怪異全般に打撃効果を発揮する符。対象に貼り付けて使う。


*******************


 今回は現代的な装備品と攻撃用の消耗品が新製品としてラインナップされている。


 その中でも俺が「こ、これは……」と思ったのは、そのまんまスカウターに見えるARグラスと手首に嵌めるリング状のコントローラ(?)、そして腕の防具を兼ねたスマホホルダだ。


 金額が結構するが、それを別にして考えると……ちょっと、いや、凄く欲しい。


 ちなみに商品説明をクリックすると個別のページに飛び、そこには黒っぽいタクティカルなコンバットスーツを身に着けた長身金髪イケメン外国人男性がこれら3つを装備した写真が何カットも表示されていた。AR系の3点はセット装備が前提の商品のようだ。


「なにこれ、カッコイイ……」


 なんというか、俺の中の「中二心」が凄く盛り上がるのを感じてしまう。


 まぁ、冷静に考えれば、それは被写体の外国人モデルがカッコイイのであって、俺が装備したところで、俺がこの外国人モデルになる訳ではない。しかし、そんな冷静な感情を吹き飛ばすほど気に入ってしまった。


「しかし、高いな」


 ただ、現実は厳しく、今の俺には買えそうもない金額だった。3点セットで8,200宝珠(82万円)なんてありえない。


 そもそも俺は今、「ある物」を買おうと思い宝珠を貯めている。その目標額は2,100宝珠。一方、現時点で手元にある宝珠は1,830宝珠なので、もう少し頑張りが必要な状態だ。


 稼ぎの方は、昨日の夜の時点で通算28回「九等穢界」を浄化しているが、1度の「九等穢界」浄化で得られる収入は消耗品を差し引くと「2万5千円前後」が平均値になる。なので、これまでに約70万円は稼いでいる事になるのだが、やはり月末・月初めの出費が有ったので、思ったほど手元に残っていない感じだ。


 もちろん、無駄遣いは一切していない。母親への仕送りにしたり、万が一の備えとして貯蓄へ回したり、やむを得ず生活費に使ったり、家賃や光熱費の支払いに使ったりしている(原付二種のスクーターを買ったりもした)だけ。


 まあ、考え方によっては「EFWアプリ」を手に入れてから15日間で50万円稼いだのだから、よくやった方だろう。


 ちなみに、28回(八等穢界を含めると30回かな?)も穢界に通えば、嫌でもレベルが上がる。その結果、今のレベルは11(会社が廃業した日に上がった)。一方、クラス「小者こもの」の習熟度も順調に育っていて、後は「小者防御術」を★3つにすれば、「小者の心得」も★3つになるだろう。そうすれば、名前が微妙な「小者」クラスから上のクラスにチェンジできるはずだ。


「これからの頑張りに期待だな」


 相変わらずの独り言でそう呟いて、俺は気になったAR系3点セットを「お気に入り」登録しておく。


 そして、そのまま「お気に入り」登録の一覧から「ある物」を選んでタップ。その商品の画面へ飛ぶ。それは、


「一文字比良坂ひらさか(偽)」 2,100宝珠

攻撃力=21

対霊攻撃力=霊力×0.5

霊刀・一文字比良坂の偽作。完成度は低いが刀としての最低限の性能は備えている。対霊攻撃が可能。


 という刀だ。


 ちなみに、この「宝珠ショップ」は何も和風な装備だけを販売している訳ではない。というか、和風な装備の方が少数派で、多くは「鋼鉄剣」や「聖別されたナイフ」「祝福された鋼鉄剣」「ショートスピア」「ボウガン」「革鎧」「鉄の胸当て」etc……銃器こそ無いが、洋風な装備の方が多い。


 と、それはさておき、俺に刀剣類の審美眼なんてあるはずもないが、パッと見て「一文字比良坂いちもんじひらさか(偽)」は平凡な刀に見える。とはいっても今使っている「オサキの短刀」と比較すると、リーチが長いし攻撃力も高い。そして、刀としては安価な部類でありながら、ちゃんと対霊攻撃が出来る。


 もちろん、これは「八等穢界」を安定して浄化するための布石だ。前回、敵側がタフだった事と複数だった事で、リーチの短い「オサキの短刀」に限界を感じていた。それに「八等穢界の主」は霊体攻撃しか利かない「怨霊」が出る事も確認済み。


 そういう環境に対してうってつけ・・・・・の武器がこの「一文字比良坂いちもんじひらさか」だと思っている。


「レベルをあと1つ上げて、小者クラスをコンプして、この刀を買ったら……いよいよ八等穢界だな……」


 幸い、最寄りの繁華街がある大宮駅周辺の「九等穢界」も数が戻りつつある。「もうひと頑張り」もやり易くなった。


「今日からまた大宮駅周辺だな」


 俺はそんな風に気合を入れつつ「宝珠ショップ」を閉じる。


 時刻はまだ4時半だ。


「う~ん……ああ、そういえば」


 とここで、俺は殆ど見る事の無かった「コミュニティ」というタブをタップしてみる。もちろん、「少しは時間つぶしになるだろう」というつもりからだ。


 その結果、自分が直面しつつある問題に気が付くことになった。


*******************


 コミュニティには公式が用意したスレッド形式の掲示板が幾つもあった。内容はどれも興味深いもの。中には少し「あれ? それって違うんじゃない?」と思う事もあったが、概ね有益な情報だったと思う。


 ただ、中には思わず「え?」と言ってしまうような内容もあった。例えば、


「九等穢界は累積穢れポイント500でドロップが確定じゃなくなる……750ポイントでドロップ無し? あ、そういえば……」


 俺はそう思い、昨夜のオンサイトログを見る。実は、昨夜の「九等穢界」で、俺は「小骸穢こむくろえ」という見た目がそのまんま子供サイズのミイラな怪異を斃していたのだが、その時斃した「小骸穢」の数とドロップした「骸布」の数が合わないような気がしていた。それが、


「ああ……気のせいじゃなかったんだな」


 ということだ。12匹の「小骸穢」を斃したログに対してドロップ取得は8回になっている。


 つまり、俺は既に「九等穢界」で通算500ptの穢れポイントを貰ったことになる。だから確定ドロップの期間は既に終わっていて、これから穢れポイントが750ptに達するまでに「八等穢界」へ挑む準備をしないと、「九等穢界」でのドロップ(収入)が無くなってしまう。


「早めに気付いてよかった」


 いや、本当はもっと最初の頃に「コミュニティ」をちゃんと見ておけよ、という話だが、まぁ後悔先に立たず。現状が最上の心意気だ。


「それにしても……大宮駅、行きにくくなったな」


 ボソッと呟き時計を見る。時刻は5時半。もうそろそろ自宅アパートを出ても良いかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る