Episode01-09 お鼠様の「チュウとリアル」①
経緯書や始末書を書き終わった俺は、その後キッチリ吉川先輩に「牛丼大盛味噌汁付き」を奢ってもらった。ちなみに、「特盛半熟卵付き」が「大盛味噌汁つき」にダウングレードしたのは、まぁお互い給料日前という事情を
食べてしまえば特盛も大盛も満腹になる事に変り無い。俺は久しぶりの牛肉の味に満足して自宅アパートに帰宅した。
帰宅時刻は午前10時前。普段よりも1時間ほど遅い帰宅になっている。
普段なら、この後疲れ果てた身体でシャワーを浴びてベッドに直行。午後の3時前後に起きて次の出勤となる。それが俺の生活のサイクルだ。
ちなみに、俺の勤務形態は3日夜勤、1日休み、3日夜勤、1日休みの繰り返し。何かの法令に抵触していそうな勤務状況なのだが、弊社の労務担当者は優秀なので「問題無い」ことになっているらしい。
夜勤を入れまくっているのは少しでも多く稼ぐため。「家庭の事情」というやつだ。それに、日勤と夜勤を繰り返すよりも、夜勤全振りにした方が体が楽だと何処かで聞きかじったのも理由だったりする(本当かどうかは知らないけど)。
それで、今日はというと、実は3日ぶりのお休み。ただ、休みといっても特別な用事が有る訳でもない。朝っぱらから寝て過ごすだけだ。悲惨な独身生活である。
ただ、今日は少し様子が違った。
何と言うか、驚く程疲労と眠気を感じていないのだ。脇腹は相変わらず少し痛いが、それ以外は休日明けのように感じる。そして何より、
「……『EFW』ねぇ……」
目の前のローテーブルに置かれたスマホが気になる。
スマホの画面は既に
ちなみに、このEFWというのは「Evil Field Walkers」の略字。意味的には「邪悪な領域を行く人」くらいだろうか。
そんなアプリの所謂「ホーム画面」を前に、俺は画面をじっと眺める。
表示画面は縦長がデフォルトのようで、横長表示のモードには対応していない(確認済み)。
それで、画面に映っているのが
*******************
八神 迅 26歳 男性 Lv:7
クラス:―――
身体障壁:42/42(-16)
法力:7/7(-16)
穢れポイント:16
状態:軽微な打撲(脇腹)
浄化ポイント:118
能力ポイント:70
*******************
という表示。それが画面の上側半分を占めている。そしてその下、画面の真ん中辺りに「ステータス」と「スキル」という長方形のアイコンが並んでおり、その下は「アイテム」と「マップ」のアイコンになっている。
また、画面の最下端、欄外には「ホーム」「お知らせ」「コミュニティ」「機能」のアイコンがある。
「……RPGタイプの低予算ソシャゲのホーム画面みたいだな」
特にゲーマーという訳ではない
まぁ、本来なら登録した覚えもない自分の名前や年齢が出ている時点で不思議なのだが、流石に昨夜(というか今日の未明かな?)の後の今なので驚きは沸いてこなかった。むしろ、
(なるほどねぇ)
妙な納得感さえある。
それで、俺の指は無意識に「ステータス」や「スキル」といったのアイコンの方へ向かうが、そこで
(そういえば、あの
名前を聞き忘れたあの「艶やかな黒髪の超絶美少女」との少ない会話の中、彼女は何度か「チュートリアルを見ろ」的な発言をしていた。
(彼女は経験者だよな? それが言うんだから……)
多分、重要なポイントなのだろう。
そう考えて、俺はシンプルなホーム画面を探すのだが……肝心の「チュートリアル」が見つからない。そこで試しに欄外の「お知らせ」アイコンをタップしてみることにした。
ちなみに、この「お知らせ」アイコンだが赤色で「+」マークが出ていた。常識的に考えると新着のお知らせ件数が画面上の表示件数を超えている状態なのだろう。それで連想するのは昨晩の光景。チラと画面を見た時にホーム画面上に読み切れないメッセージがポップしていた。あれらのメッセージは多分「お知らせ」の画面に収められているのだろう。
「どれどれ……」
ただ、そうやって気軽にタップした「お知らせ」画面は中々カオスな状況になっていた。
――新着お知らせ:44件
――未読のメッセージ:44件
――オンサイトログ:40件
――郵便箱:0件
――運営からのお知らせ:3件
――スクにゃんのチュウとリアル:1件
正直に白状すると、自分が持っているSNSのアカウントやフリーメールのInboxにこれ程メッセージが溜まったことはかつてなかった。なんというか、初めての経験である。
だた、よく見ると殆どが「オンサイトログ」というもので、後は「運営からのお願い」と
「……チュウとリアルって、『チュートリアル』だよな」
お目当ての「チュウとリアル」だけだった。
*******************
――ようこそEivl Field Walkersアプリへ、なのだ。吾輩は諸君を案内する「スクにゃん」なのだ――
チュートリアルならぬ「チュウとリアル」を選んだところ、始まったのは安い作りのソシャゲのクエスト幕間寸劇のような構成の画面。そこに登場したのは神社の背景を背にした大きな白いネズミ。「チュウ」とネズミを掛けたつもりなのだろうが、土台のところからセンスがダメだと思う。
だいたい、ネズミなんだから自分の名前に「にゃん」とかつけるなよ。そもそも猫は天敵だろうが……それに不自然な「なのだ」とかいう語尾で無理矢理キャラ付けするなんて……
「……寒いな……」
呟く俺の目の前で「スクにゃん」こと白い鼠の一人芝居が続いて行く。
ただ、流石に「チュウとリアル」。美少女が推すだけの事はあって、有益な情報が多く含まれていた。
まず、このアプリ「EFW」の目的だが、スクにゃん曰く
――少子高齢化・後継者不足・生活様式の変化や価値観の多様化により、この国の霊的防御は危機的状況なのだ。神様はそんな危機的状況に一大決心をしたのだ。それは、神様の力を強い脅威に集中させるということなのだ。それで手薄になった弱い脅威への対応を、EFWを手にした皆にしてもらうことにしたのだ――
とのこと。う~ん……そう遠くない将来、社会保障が完全に行き詰まったら日本国政府も同じような事を言い出しそうだな。
――勿論報酬は払うのだ。その報酬の元になるのが「浄化ポイント」なのだ――
ただ、搾取するだけの政府と違い、この
「浄化ポイント」は「アイテム」アイコンの中にある「ショップ」で
つまり、1浄化ポイント=10宝珠=1,000円という図式が成り立つ。
(って、俺の浄化ポイントが118だから……全部換金すると11万8千円?)
ひと晩で給料半月分に近い額を稼いでしまった。
――ただ、浄化ポイントには他にも大切な使い道があるのだ。欲に目がくらんで全部現金に換金するのは愚か者のやる事なのだ――
「……チッ」
画面の中ではこちらの行動を見透かしたかのように罵倒してくる「スクにゃん(ネズミ)」の姿が……残念ならがら、俺の考えはプログラムされたチュウとリアルにさえお見通しらしい。
ちなみに、その後
①浄化ポイントは能力ポイントに換算できる。レートは10浄化ポイント=1能力ポイント。
②宝珠はアイテムショップで有用なアイテムに交換できる。
というもの。
作業服の怨霊と対峙した時に
――対霊体攻撃が出来る武器やアイテムは持っていませんか?――
と言った黒髪超絶美少女の言葉の意味がやっと分かった。つまり、アイテムショップで有効な物を仕入れていないか? ということだったのだろう。
しかも、
――穢界の中で怪異を斃すと「どろっぷ品」が出るのだ。それらはアプリのインベントリーに自動的に収納されるのだ。そして、アイテムショップで宝珠に交換することもできるのだ――
「のだ」「のだ」うるさいが、どうやら、あの気色悪い連中(「もうりょうき」とかいったか?)を斃しても現金収入……もとい、宝珠が得られるシステムだという。
(何匹か斃したから……インベントリーの中に何かドロップが入っているかもな)
俺は、そんな事を考えながら画面の中の
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