Episode08-05 業務連絡?
『――迅、新居には慣れたか?』
「慣れるも何も、昨日越して来たばっかりだし」
『あ、そっか……でもいいよなぁ、花の女子大生と新居で新生活かぁ』
「あのなぁ、新居っていっても中古のマンションだぞ……それに『花の女子大生』って、今時そんな呼び方しないだろ」
『まぁそうかもしれないけど、でも彩音ちゃんは華がある美人さんだし……それに引き換えオレなんて――』
「お前の場合は、今までさんざん遊んできたツケが回って来ただけだろ?」
『はぁ、ツレない言い方だなぁ』
「でも事実だ、受け止めろ」
電話の先の俊也は、だいたいいつもこんな感じ。本人曰く「普段はちゃんとしている」という事だが、どうだか怪しいものだ。現に今も「用事」があって電話して来たハズなのに、のっけから脱線しまくっている。
「……用がないなら切るぞ、今、穢界から出て来たばっかりなんだ」
実際、俺は穢界から外に出たばかりで、未だにボディーアーマーやらコンバットスキャナやらを装備したままで、スマホの
なので、一旦身支度を整えるべく電話を切ろうとするのだが、
『ああ、ちょっと待った――』
俊也は少し慌てた感じで引き留める。そして、
『いきなり用件から入ったら味気無いじゃないか』
「オレとお前の仲だろ」的な事を言いつつ「用事」とやらを切り出すのだった。
******************
俊也の所属していた「警察庁長官官房附第四係」は、現在組織図上は残っているらしいが、実務的な実態は別組織 ――特殊事象対応センター(ド直球な名前だな)―― に移管されている。たしか、独立法人だったか行政法人だったか……いや「特措法法人」とかいう最近出来た枠組みの組織だったかもしれない。
それで、俊也達「元第四係」の職員は軒並み「出向」扱いとのこと。ちなみに特殊事象対応センター(略して「特事センター」らしい)のトップはセンター長ということになり、その役職に就いているのがオヤジだったりする。
そして、もともと(希薄な存在感で)存在していた「七曜会」は、名称はそのままに特事センターの外郭団体という位置づけになっている。まぁ、分かりやすく言うと特事センターの仕事を下請けする業者の互助会的な立ち位置だ。
ちなみに「特事センター」の役割は、穢界や怪異が絡む事故の防止や起きてしまった事件の捜査が主。この場合の事件や事故とは、「人」に被害が及んだ(又は及びそう)なケースを指している。そのため、単純に「そこに在るだけの穢界」をどうこうする組織ではない。「そこに在るだけの穢界」に対応するのは、「
とにかく、「特事センター」は警察が母体の組織だが、国交省やら総務省やらから行政権限の一部を委任(移管かな?)されているらしく(俊也曰く、そのための特別措置法が立法されて、それに基づいて設立されたから「特措法法人特殊事象対応センター」なのだとか)以前の「第四係」よりも随分と機能的な組織になっているという。
そんな特事センターの「ナントカ課の課長補佐」になった俊也が「用事がある」として電話をしてきたのだから、これは即ち「そういう用事」ということ。
それで今回の件はというと――
******************
「八王子駅?」
『そう、今朝のニュースになってただろ?』
「……そうだっけ?」
そんなやり取りをしながら、午前のお片付け中に何となく点けっぱなしにしていたテレビから流れて来たニュースを思い出す俺。確か、
「ああ、そういえば人身事故で中央線が止まったって――」
言いつつ、出掛けには『運行が再開されました』とニュースで言っていた気がした。
しかし、
『ああ、電車の方は再開したんだけど……その後で開いたんだよ』
「開いた? 何が?」
『穢界が』
「どういう事だ?」
この後の俊也の説明によると、今日の午後1時前に八王子駅に隣接した駅ビルの一部で「穢界が開いた」らしい。駅ビルは全部で11階建てのそれなりに高層な商業ビルで、その8階から10階に掛けてが突然「穢界化」したらしい。
穢界の等級は六等。つまり「六等穢界・開」が白昼堂々、商業ビルの中層に出現した。その結果、
『いま確認中だが、かなりの数が上層階に取り残されている』
という状況。俊也は特に言わないが、被害者もそれなりに出ただろう。とにかく、
『現場に行ける協力者を探しているって訳だ。頼めるかな?』
というのが俊也の言う「用事」だった。
ちなみに、現在の時刻は午後の1時23分。場所柄、八王子までは電車で30分も掛からない。まぁ、
(八王子にキャンバスがある彩音の事を考えてここに越して来た訳だし……)
という事情なので近いのは当然なのだが、
(そういえば彩音……アイツ大丈夫なのか?)
『なぁ、行ってくれないか? 警察の方には機動隊の出動要請を出しているけど、相手は「六等」だからな。一応、あの辺りは
という俊也の声を上の空で聞きつつ、俺はほとんど無意識に
「分かった、行くよ」
と答えると、俊也の返事も待たずに電話を切っていた。
ちなみにこの後、俺は装備を
それくらいには、不安が勝って冷静じゃなったと思う。というのも、通算で3度ほど彩音に電話をしているのだが、一向に出る気配が無かったから。
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