Episode08-06 トモダチ


桧葉埼彩音ひばさき・あやね視点〕


 先週末の入学式を経て、今日は実質的な大学生活第1日目になる。ただ、週末にドタバタと引っ越しをしていたせいで、私は何となく落ち着かない気分を引き摺っていた。お陰で、今朝はすっかり麗ちゃんとの待ち合わせ時間を忘れてしまい、迅さんに指摘されなければ、初日から遅刻してしまうところだった。


 麗ちゃんとは八王子駅で朝の9時に待ち合わせ。なんとか待ち合わせ時間に間に合った私は、麗ちゃんと合流して徒歩で大学のキャンバスを目指した。ちなみに、駅から大学のキャンバスまでは徒歩で10分ちょっとの距離なので、9時半開始の「履修ガイダンス」にはちょうど良い時間で間に合った。


 大学のキャンバス自体は合格発表の時に1度来ているので今回が初めてではないけど、建物の中に入るのは今回が初。ちょっと緊張したけど麗ちゃんも同じ感じなので、2人して「怪異と対峙してるときより緊張するかも」的な事を言い合って笑い合った。


 そんな私達2人は、「新入学生ガイダンス会場」と書かれた張り紙のある大きな講堂(階段教室っていうのかな?)で、200人くらい新入生と共に「総合履修ガイダンス」を受けた。どうやら来週の水曜日までに履修する授業を選んで登録をしなければならないらしい。


 ちなみに、200人というのは、文学部・法学部・経済学部・教養学部を合わせた文系学部生の数。理系の学部のキャンバスは別の場所にあるので、最初から文系と理系が分かれている。


 それで、文系の教養学部に入った私と麗ちゃんは、「総合履修ガイダンス」後に、学部別のガイダンスを受けるために小さ目の教室に移動。同じ教室に移動して来た教養学部の新入生の数は全部で34人。男女比はやや女性が多い感じ。


 高校の1クラス分と同じくらいの人数なのはちょっと意外だったけど、それは麗ちゃんも同じ感想だった。迅さんが「少子化の影響で学生の数が減ってるんだよなぁ」と、何かの時に言っていたけど、そう言う事なんだろう。


 とにかく、この34人が所謂「同級生」となる。そのため、学部別ガイダンスの最初は簡単な自己紹介となり、各自が出身地やらなんやらを喋ることに。麗ちゃんの番になると、男子学生がザワついたけど……まぁ、麗ちゃんはかなりの美人さんだから当然だろう。


 ちなみに、私と麗ちゃんの間では、たまに「恋ばな」的な話題にもなるけど、迅さんが居る私に対して、麗ちゃんはフリー。


――そんな相手なんていないし、それにあんまり興味もないわよ――


 というのが、一貫した麗ちゃんのスタンス。なので、学部別ガイダンス終了後に声を掛けて来た男子学生(「一緒にお昼に行かない?」とか)にも、結構な塩対応だった。


(そんなんじゃ、彼氏できないよ)


 というのが、私の(かなりお節介な)心配だったけど、まぁ、麗ちゃん程の美人さんなら、その気になれば直ぐに彼氏の1人や2人、簡単に出来るだろう。


 ちなみに、男子学生の中には私をワンステップにして麗ちゃんにアプローチしようとでも考えたのか、私の方にも声を掛けてくる人がそれなりの数いたけど、勿論、私も塩対応だ。


 それで、この男子学生に対する塩対応が一部の女子学生に印象が良かったようで、この後、


――一緒にランチに行こう――


 という同級生3人と、私と麗ちゃんの計5人で、八王子駅前までランチに出かける事になった。


******************


 同級生の名前は、田中美香たなか・よしか新田愛にった・めぐみ遠藤千尋えんどう・ちひろ。全員が同じ歳(まあ当然か)。学部別ガイダンスの時に偶然座った場所が近かったから、なんとなく、仲良くなった。まぁ、トモダチが出来る時なんてこんな感じだろう。


 美香よしかは、高校時代にバレーボール部だったとかで、身長が170cmと長身で、(出るところが出て、引っ込むところが引っ込んだ)スタイルが良いショートカットのスポーツ系女子。ただし一人称が「僕」なので、ちょっと変わっているのかもしれない。静岡県出身だから、近くでアパートを借りて一人暮らしを始めたばかりとのこと。


 めぐみは、小柄でやせ型のまるでお人形のような繊細そうな姿が印象的な子。服装もソッチの方(ってなんだろう?)を意識したのか、フリルのついた丈の長いワンピースだったりする。ただ、彼女の場合、顔は可愛らしいのだけど、瓶底のように分厚い眼鏡が印象を台無しにしている(と思う)。川崎の方に実家があって、そこから通っているという話だった。


 千尋ちひろは、美香と愛を見た後だと「普通」に思えてしまうけど、かなりいい線を行ってるキレイ系の女子。私達の中では一番お化粧が上手くておしゃれにも気を使っている感じの、大人びた雰囲気がある。その癖「これだけ綺麗で可愛い子と一緒に居たら、私にもチャンスが……」と堂々と下心的な考えを披露してくるので、まぁ、変わっていると言えば変わっているのだろう。なんでも、西東京市でお兄さんと2人で生活しているらしく「早く一人暮らししたい」というのが目下の目標だとか。


 とまぁ、こんな感じで仲良くなった5人組で、八王子駅の駅前ビルの中でランチを食べる。


 自己紹介やら、履修する授業の話やら、なんやらかんやらで話し込んでしまうけど、今のところ私も麗ちゃんも「EFWアプリ関連」の話はしていない。いずれは話すにしても、まぁ「今じゃないだろう」という事。それでも時間が過ぎるのは早く、気が付くと時計は既に午後の1時過ぎだった。


「えっと、午後は必修授業の教科書販売だったよね」と愛。

「部活とかサークルの紹介もあるんだよね」と芳香。

「なんだか、また戻るのダルくない?」と千尋。


 千尋の「ダルくない?」というのに一番賛成したい私だけど、流石に初日からサボりを決め込むのはダメだろう。なので、


「とにかく、もどろう」

「そうね」


 と私と麗ちゃんが席を立った。それで、残りの3人もつられて席を立つ。


 その時だった。


――ジリジリジリジリジリジリッ!


 ランチを食べていたレストランはおろか、ビルのフロア全体を押し包むような非常ベルの音が鳴り響いたのだった。



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