Episode08-04 停滞?


 半透明の霊体的な怪異と、それを取り巻く5~6匹の怨霊。


 俺はまず、矢継ぎ早に取り巻きの怨霊へ呪符術の「破魔符」やら「氷霊符」やらをばら撒く。そして、空を切って飛ぶ呪符の後を追うように、怪異の集団に対して真っすぐに距離を詰めると、


「――っ!」


 詰めた息をそのまま霊力に変換する気持ち(あくまで気持ちだけど)で、腰の「須波羽奔・形代」を鞘から払う軌道で振り抜く。


 霊力に漲る直刀の刀身は、残り滓のように宙に漂う怨霊の霊体を切り裂く。そして、刀身から迸り出た霊気が、刃物の形そのままに空を奔り、間合いで言えば3間合いも離れた場所にいた半透明の穢界主「怨霊鬼おんりょうき」までも袈裟掛けに斬り裂いた。


「……ふう……」


 たとえ「穢界の主」だろうと、七等穢界程度ならば会敵からモノの20秒で戦闘終了。それが、今の実力だ。ただ、


「……手応え、ないよなぁ」


 そんなが愚痴が漏れてしまう。


******************


 とにかく、今日の「七等穢界」は新装備の性能確認という意味合いがあった。既に「コンバットスキャナ」の方は確認済みだったが、ボディーアーマー躰甲弐式の方は今日が初めての実戦投入だ。


 それで結果はというと、


「大丈夫ってところだな」


 そんな独り言が漏れる程度には「大丈夫」……いや、寧ろ「これはイイな」と内心で思っている程には満足な結果だった。


 これまでは普通の服か、又は宝珠ショップで買える「8MGoodシリーズ」の服の上から、手足に脚絆や手甲を着けただけの装備だった。それが、今回から本格的な(?)戦闘服に変わった訳だが、流石はセミオーダーメイドだけあって、身体へのフィット感は素晴らしい。


 手足や体幹部の動作が妨げられている感じは全くなく、寧ろ、これまでの服装の方が動き辛かったと気が付かされる程。別にレベルが上がったり、何か特別な事をした訳でもないのに、これ迄よりも敏捷性が上がったように感じられた。


 一方、防具としての本来の価値である防御力はというと……実は、試す機会が全く巡ってこなかった。


 端的に言って、今の俺は「七等穢界」に出るような怪異と対峙して「防御力が云々」という状況にはならない。この等級の怪異の攻撃は「当たる気がしない」というのが本音だ。


「――かといって、自分から当たりに行くのはイヤだしなぁ」


 そんなこんな・・・・・・で防御力の方は試せていないが、出来れば試す機会が訪れる事無く過ぎて行って欲しいもの。


 ちなみに、現状の俺の実力(でいいのか?)で言えば、「七等穢界」は色々試すにしても「ぬるすぎる」難易度。なので、今回もアッサリと踏破して、奥の穢界主(今回は怨霊鬼おんりょうきという半透明の双角鬼だった)をプチ斃した。全体的にかかった時間は1時間弱。穢界の外の時間で言えばほんの5~6分だ。


 なんというか、簡単すぎて「手応え」のようなモノは皆無となる。しかし、「だったら六等に行けば良いだろ」とはならないのが微妙なところ。「六等」から先の穢界は、怪異の手強さとはまた違った難しさがあるから。


 どういう事かというと、まぁ早い話が六等穢界以降の穢界は複数階層化するので「時間が掛かる」という問題だ。


 怪異の強さ的に言えば「六等穢界」はおろか「五等穢界」であっても十分、俺1人で対処する事が出来る(と思う)。ただ「踏破して奥の穢界主まで斃す」となると、時間が掛かり過ぎて困る。


 多分、俺1人で「六等穢界」に入った場合は全階層を踏破して穢界主まで斃すのに「1日仕事」くらいの時間がかかるだろう。外の時間で言えば2時間前後だが、中と外の時間の流れが違う事もそれなりに問題で、早い話が費やした労力に見合った時間経過が無いため、調子を崩しやすくなってしまう。


 この事は、埼玉在住時に「見守り」を決め込んでいた成長過程(?)の六等穢界で実感した事だが、とにかく、中にいる時間が長すぎると、外に出た後で調子が狂う。


 そのため、実力的には多分行けると思いつつも、俺は「六等穢界」に単独で入る事を何となく忌避している。


 実際、直近で「六等」に入ったのは、例の「見守り六等穢界」が最後で、それは彩音と白絹嬢と3人で入った。丁度、受験が終わり合格発表を待つばかりとなった頃なので、二月の下旬ごろだっただろう。その時点で引っ越す事は決めていたので、ケジメを付ける意味でも「見守り六等穢界」を浄化した時が最後になる。


「これじゃ、鈍っちゃうか?」


 年末に諏訪さんを詣でた時は御神籤おみくじに大きく「はげむと良い」と書かれていた。それに「マカミ山鼬」と対峙した後は、やはり自分の「足りなさ」を実感して精進する事を決意していたが、なかなかに現実は儘ならない。


「やっぱダメだな……」


 図らずも、新装備を試す意味で入った「七等穢界」で、「ここではダメだ」という事実を実感した俺は、


「やっぱ六等かぁ……しょうがないな」


 「六等穢界」へ、たとえ単独でも、行く必要を再認識するのだった。


******************


 六等穢界へ行く事の必要性を再認識した俺は、ちょっとだけ憂鬱な気分を引き摺りつつ、目の前に出来た黒い渦を通って現実世界へ戻る。


 戻ったところで、


――ピリリリリリ、ピリリリリリ


 タイミングを計ったかのようにスマホが着信音を鳴らした。見ると、


「……俊也か……なんだろう?」


 最近忙しいということで、連絡が滞っていた一条俊也いちじょう・しゅんやからの電話だった。


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