Episode08-03 装備更新


 「現世改め」によって穢界や怪異、果ては外国由来の魔物やファンタジー世界出身のモンスターまでが認知されている世の中になったと言っても、流石に小鬼太郎を白昼堂々連れて歩く訳にはいかない。


 なので俺は一旦小鬼太郎をEFWアプリの中に収納し、徒歩で目当ての穢界を目指す事に。


 ちなみに、マカミ山鼬との戦いの最中に土砂崩れに押し流されてしまった俺の愛車「ヴィッツ」は見事に廃車となったので、今は2代目愛車「ヤリス」がマンションの地下駐車場に停まっている。他に150ccの小型バイクも駐輪場に停まっているが、今回は周辺の土地勘を養うためにあえての徒歩移動とした訳だ。


(まぁ、歩いて行ける距離に七等だけでも10個あったしな)


 という事情もある。


 新居のマンションから最寄りの駅まで徒歩で10分の圏内だが、その駅までの道すがらはちょっとした繁華街(飲み屋街と言った方が良いか?)になっている。駅ビルと連なった中規模なショッピングモールと、その周辺に散らばる新旧混ざり合った商店群といった具合。


 中には飲食店や居酒屋といった仕事終わりのサラリーマンや近隣の大学の学生を当て込んだ店も多く、駅の反対側にはキャバクラや安手の風俗店なんかも数店点在している。


 まぁ、都内では平均的な(?)駅周辺の佇まいといったところ。そして、EFWアプリを通じて所在を確認できる「穢界」の数もまた、


(最近じゃ、これが平均的らしいな)


 公式掲示板の何かのスレッドの受け売りだが、都内の比較的大き目な駅の周辺は何処もこんな感じで多数の穢界を確認できるらしい。


(まぁ、稼ぎには困らないから……いいのか、それで?)


 などと自分の考えに内心で突っ込みを入れつつ、俺は目当てにしていた「七等穢界」の前で立ち止まる。


 場所は自宅マンションと駅を結ぶ通りから脇に逸れた路地の奥。とても営業しているとは思えない朽ちた感じの小料理屋の閉じた錆びだらけのシャッターの脇。薄汚れたビールケースが積み上がったその上に、黒い渦巻が見える。


「さて……入るか」


 俺はそんな独り言を言いつつ、EFWアプリを立ち上げ素早く装備を身に着けるのだった。


******************


 先の「マカミ山鼬」の一件で、俺のAR装備は破損してしまった。多分、泥まみれの状況で長く居た事が原因で電気系統がダメになったのだろう。そのため「新しいのに買い替えを――」となったのだが、そこでオヤジのひと言「エンジェルテック製のヤツは止めておけ」というのが気になった。


 俺としては「オヤジが何を言ったって――」という気持ちがあったのは確か。ただ、タイミング的には彩音の「卒業祝い兼合格祝い」(その時点では少し気が早い話だったけど)を調達するタイミングだった。以前から彩音も「ARグラス」を欲しがっていた事を踏まえて、俺は前々から「俺と同じのを贈ろう」と思っていたが、そこでオヤジの言葉に水を差されたようになり、


――だったら、オヤジの使ってるヤツは何処で買えるんだよ――


 という事になり、


――アプリが一般配布されるタイミングで宝珠ショップに出るから、それまで待て――


 と言われ、しぶしぶ待った挙句に購入できたのがコレ。


コンバットスキャナ(IDK-CS零壱型改)

ゴーグルタイプのARスキャナとブレスレッドタイプの筋電センサリングのセット。

当社独自の高速電脳処理回路「YAOROZU-Ⅱ®」搭載。快適でより直感的な操作性と、迅速的確な解析結果の提示を同時に実現しました。

怪異と対峙した貴方に的確な情報を提示し、適切な戦術選択をサポートします。

―怪異解析・オートマップシステム「千里眼®」

―アイテム・スキル共用ショートカット

―インターフェイス自動調節機能

―小型高性能全固体電池搭載(最長90時間無給電稼働)

(飯田技研製)


 外見はスキーのゴーグルのような両目を覆う1枚レンズタイプのARグラス。前のモノと比べると随分と無骨なデザインだが、その分頑丈に出来ている(オヤジ曰く)。また、「無骨」といっても本体は「人間工学」に基づく有機的に湾曲したフォルムを持っており、調整可能な固定バンドと相まって、頭部にしっかりフィットする。そのため装着感は軽い。透明度の高いレンズと相まって、慣れれば着けている事を忘れる程度だ。


 一方、肝心の操作性や性能そのものは、ハッキリ言って「申し分ない」。前のモノでいう「エネミーアナリシス」機能は、文字通りの「怪異解析システム」として搭載されているが、その反応速度はかなり早い。それに、アイテムやスキルのショートカットボックスの配置方法はほとんど同じなので、実際の操作で戸惑うことも無い。


 まぁ、外見的に彩音には少し不評だったが、妙な仕掛けを仕込まれていると噂(公式掲示板でもよく調べるとそんな書き込みがあった)のエンジェルテック製を大切な彩音に着けさせる訳にもいかず、何とか宥めて受け取ってもらったもの。


 とにかく、そう言う経緯で俺(と彩音)は「ARグラス」を別メーカーに切り替えた。そして同時に体幹部を防御する防具も刷新している。


ボディーアーマーセット(IDK-BAS 躰甲弐式ver.02-SE)

使用者本人の体格体形にフィットするセミオーダーメイドタイプの全身防具セット。躰甲弐式はバイタルパートに超硬質炭素繊維強化樹脂の装甲を使用しつつ、関節等の可動部は伸縮性の高い特殊繊維による立体縫製加工を導入することで、高い防御性と敏捷性の両立を可能としております。

使用者のスタイルに合わせてカスタマイズ可能。身体障壁+30~70(当社調べ)の防御力を提供します。

(飯田技研製)


 まぁ、マカミ山鼬の時にオヤジが来ていたボディースーツの最新版だ。宝珠ショップで購入したところ、そのままメーカーのHPに飛ばされ、そこで採寸(セミオーダーメイドとのこと)の予約を行う事になった。


 採寸当日は東京都内の「飯田技研」の本社工場(三鷹にあった)に自ら出向き、そこでちょっとコミュ力に問題がありそうな若者(後で聞いたら飯田技研の社長とのこと)と、助手なのだろうか? こっちがビックリするような美人の社員の2人掛かりで採寸してもらう事になった。


 その後1か月ほど待たされたが、つい先週EFWアプリに通知が届き、俺のアプリ内のアイテム欄にこの装備が届けられた。なので、実際に装備するのはこれが初めてなのだが……


「うん……いい感じかもしれない……のかな?」


 使い心地が良ければ、これも彩音におすすめしたいと思うところだ。



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