Episode08-02 エミの近況
白絹嬢曰く、「使鬼召喚:小鬼」で呼び出せる小鬼は、本来術者の身の回りの雑事をやらせるための存在だという。なので、この場合引っ越しの片づけに小鬼太郎を使う事は「本来の使い方」のハズ。なのに、
(……な、なんだよ、その目は)
呼び出された小鬼太郎は周囲をキョロキョロと見回わして、俺しかいないと分かると露骨にがっかりとした表情になり、ジトっと俺を睨んでくる。
「とりあえず、片づけを手伝ってくれないか?」
中学生サイズに成長した小鬼太郎に少しだけ気圧されつつも、術者として毅然とそう言う俺に、
「うっ――」
小鬼太郎は返事と共に右手を差し出してくる。まるで「何かくれ」と言っているよう。
「片づけが終わってからだ」
「うっ、うっ」
首を横に振る小鬼太郎。主張を曲げる気はない様子だ。
「ちっ、仕方ないな……」
結局、根負けした俺はスマホの
「っ!」
総菜パンをもぎ取った小鬼太郎は「お礼」など全く言う気もないようで、非常に雑な食べ方(どれほど雑かというと、包装フィルム事丸呑みするという喰い方)でそれを平らげる。
そんな様子を見つつ、俺は
「……とにかく、手伝ってくれ」
少しゲンナリとした感じで言うと、
(使い鬼の育て方……どこで間違ったんだろう)
ちょっとの後悔を忘れるために、取り敢えず手近の段ボール箱に取り掛かるのだった。
******************
小鬼太郎の「育て方を間違った」という印象を引きずったまま、その繋がりで「エミ」の事を連想するのは、多少(というか、かなり)エミに対して失礼な気がする。
でもまぁ、連想してしまったものはしょうがない。
とにかく、今現在エミは不在。というか、年始の里帰りからの帰り道の時点でエミは同行しなかった。その理由は、
――ちょっと、色々?――
とのこと。本人は俺に詳しく話す気がない様子だった。なので、これは俺の推測なのだが、おそらくエハミ様(結局姿は見せなかったけど)にテレパシー的な何か(本体と分霊だから、そんな感じの繋がりはあるだろう)で居残るように言われたのだろう。
または、クミホ様(のじゃロリ属性だけど、來美穂御前というれっきとした神様)に何か言われて残る気になったのか?
実は、「マカミ山鼬」との戦闘に介入して来なかった辺りから「なんだか様子が変だな?」という気がしていた。エミの
その辺の事も関連しているのか分からないが、とにかく、エミは現在不在中。そのため「お引越し」という人手が欲しいイベントを、俺は小鬼太郎と二人三脚でこなす事になったのだが、
「うっ、うっ、おっ」
黙々と段ボールやプラスチックケースの中身を所定の場所(ちなみに指示は出していないので全部小鬼太郎のセンスで片づけている)に収めていくテキパキとした姿を見るに、
(こういう作業は小鬼太郎の方が向いているか)
と思う、俺だった。
******************
『――続きまして事故のニュースです。JR東日本によりますと、今日の午前9時半過ぎに発生した中央線八王子駅の人身事故の影響により運行を中止していた中央線は、現在運行を再開し――』
正午のニュースがテレビから流れてくる。俺はそれを
(彩音の学校の最寄り駅だな……)
ただ、ニュースによると人身事故で電車が止まっていたのは9時45分から11時45分の間とのこと。一方、彩音がマンションを出たのは8時半過ぎだったから……
(多分大丈夫だったんだろう)
この間、彩音からトラブルを伝えるような電話は無かった。大学のガイダンスが始まるのは9時30分からだった(はず)なので、事故の影響はなかったのだろう。多分今頃は白絹嬢とランチタイムといったところか。
そんな事でイチイチ電話をするのも過保護な話だし、「なに迅さん、もしかして寂しかった?」とか言われるのも癪なので、敢えて彩音に電話することはせず、代わりに俺は片付いてしまったリビングを見回す。
小鬼太郎の活躍により、午前中にはほとんど全ての荷物が所定の場所に片付いてしまった。そのため、午後は優雅に新居で寛げる……かと思いきや、そうもいかないのが現実の辛いところ。
まぁ、食材の買い出しだったり、引っ越しを機に必要になった生活用品の買い出しだったり、そういう用事もあるにはあるが、やはり一番大きいのは
「……すこし寂しくなってきたし」
と思わず独り言が出てしまう「お財布事情」だ。
何と言っても、都心部という訳ではないが、都内のそこそこ便利な路線沿いに築15年といっても3LDKのマンションを買ってしまったのだ。爺ちゃんがかなり援助してくれたと言っても、それでも俺や彩音の蓄えからも「かなりの額」が持ち出しになってしまった。
それまでは、俺と彩音の2人で合計して、日本円換算で八桁の半ば程度の蓄えが「浄化ポイント」の状態で
ひと昔前の俺、それこそ田村警備保障時代の俺だったら、減ったと言っても七桁後半という貯蓄額は考えられない金額だった。しかし、ひとたび「貯まった状態」を経験してしまうと、なんとも寂しく、また心細い気がしてしまう。
なので、結局――
「稼いでくるか……」
となる。
ただ、場所がら(日本の首都だし)東京というのは色々と「穢れ」が溜まりやすい土地らしく、穢界の数やバリエーションには事欠かない。ぱっと
「よっつ、いつつ、むっつ……はは、多すぎだろ」
という具合。八等や九等の穢界に至っては数えるのも
「エミが居たらな……」
ついついそんな事を考えてしまう俺。エミとお仲間怪異軍団の助けを借りるのは本意ではないと言っても、やはり純粋に「稼ぎ」だけ考えると頼ってしまいたくなるもの。
「……ああ、俺がこんな風に考えるからか」
ふとエミが不在にしている別の理由を見つけてしまい、ちょっと苦笑いになった俺は、気分を切り替えるべくソファーから立ち上がり、
「よしっ、行くか!」
と1人、気合を入れる。
「うっ――」
片付いた部屋のテーブルで1人お茶を啜っていた小鬼太郎が、なんとも嫌そうな顔を向けて来たけど、これは敢えて無視する俺だった。
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