Episode06-24 スーパーの穢界 ③無駄な対立?
場所は1層の半ば。先がどれだけ続いているか分からないが、まぁ、1層の半分くらいには達したと思う。
この場に至るまで、俺達は餓鬼ばかり3~4匹のグループに3度ばかり遭遇している。そして現在、「餓鬼2匹+
既に餓鬼2匹を斃し、残りは骸穢1匹という場面だ。
「退魔剣――」
ここで白絹嬢は俺が持っている「霊剣技」と似た「退魔剣」スキルを発動。少し古めかしい片手持ちの刀(鉈のようにも見える)に破魔符を押し当てると「破魔」の霊力を武器に流し込む。
(やり方はほとんど一緒だな)
俺がやる場合よりも、ちょっとだけ「溜め」の時間が長い気がするが、まぁ相手は動きが鈍い骸穢なので問題が無い。
ちなみに、この骸穢、七等では「動きが鈍いが、力が強く結構タフ」な怪異となる。それが、今の六等穢界では特に「タフさ」に磨きが掛かり、白絹嬢の呪符術では3発撃ち込んでも斃すことが出来ていない。
だから、白絹嬢は「奥の手」的に退魔剣のスキルを発動した訳だ。
その結果、
「――破魔の剣!」
――ボフッ!
破魔の霊力を纏った剣は動きが鈍い骸穢の両腕を掻い潜り、その身体を切り裂き破裂させる。ただし、
(……ん? 一回で効果が切れた?)
骸穢を斬った後の白絹嬢の刀は、既に霊力を失っている。俺の場合は、3~4回は効果が持続するのだが……
(退魔剣と霊剣技、スキルの違いかな?)
たぶんそういう事だろう。
ただ、そんなスキルの効果に関する考察よりも、今はもっと重要な課題……というか直ぐに解決するべき問題がある。それは、
「はぁ、はぁ、はぁ……んぐ――」
荒い息を整えつつも、スマホから取り出した小瓶 ――たぶん「霊水」だろう―― を飲み干す白絹嬢。「霊水」は宝珠ショップで売られているアイテムで、効果は
霊水 100宝珠
飲むと法力を30回復させる
というもの。
ちなみに、俺も彩音も「霊水」を幾つかストックとして持っているが、実は使った事が余り無い。1本100宝珠(1万円)という高額さもさることながら、そもそも法力は時間が経過すると自然回復するし、スキルの習熟度上げのような場面でなければ、法力が枯渇するような状況は稀だからだ。
そんな法力回復アイテムを既に3本消費している白絹嬢だ。
(なぁ彩音)
いい加減に、一旦落ち着いて「やり方」や「進め方」を相談した方が良いと思う。白絹嬢が何を思って今のような戦い方をしているのか分からないが、そのやり方では長続きしないし、そもそも俺や彩音が居る意味がない。
俺はそんな意図を込めて、彩音に小声で語り掛けた訳だが、彩音の方も同じように考えていたらしく。
(うん……わかった)
となる。そして、
「ね、ねぇ麗ちゃん――」
尚も先へ進もうとする白絹嬢を呼び止めたのだった。
******************
結局、白絹嬢の意図は良く分からなかった。ただ、こちらも「どうして?」と問い詰めるような話ではない。なので、
「れ、連携とかする前にどれ位の戦い方が出来るか、見せてくれたんだよね?」
という、彩音の(ちょっといい加減な)理由付けに白絹嬢は
「そう……そうです」
と乗っかったような返事になった。
ただ、そういう話の流れになったので、
「じゃぁ、今度は俺と彩音で戦ってみるから、白絹さんはどんな連携が出来るか、考えてみてくれない?」
自然と「連携ありき」の方向へ話を持っていく事が出来た。
(これで、「見たけど、連携は無理です」とか言われたら……最悪の場合、一回外に出た方が良いかも)
そんな事まで考えつつ、俺は彩音にほとんど意味の無い目配せを送る。対して、俺の視線に頷き返す彩音の方にも、特にコレといった意味は無いだろう。強いて言うなら、「よし」とお互いに確認し合った程度……だと思ったら、
「じゃぁ神楽舞、行きます」
俺の目配せを「バフ」の合図だと受け取った彩音が「穂踏乃舞」から「唐獅子乃舞」まで、メドレーで「神楽」を舞い始めた。
とにかく、そういう経緯で今度は俺と彩音が前に立つ事になった。
******************
「通路の角から3匹、餓鬼1匹と骸穢2匹です」
最初に召喚した「神鳥」が残っているので、そういうナビゲーションは白絹嬢がしてくれる。
(まぁ、角の向こう側くらいは「鬼眼」で視えてるけど――)
「助かる!」
一応「お礼」を言いつつ、俺はARグラスが映す視界の隅のショートカットボックスから「無地の呪符」を数枚取り出す。そして、
「来た!」
という彩音の声に合わせて、
「鬼火符!」
角から姿を現した餓鬼に向かって呪符術を放つ。俺の手を離れた呪符は炎の尾を曳きながら短い距離を飛び、
――ボフッ
破裂音を立てて餓鬼へ着弾。餓鬼と、その後ろから出てきた骸穢2匹が纏めて炎に包まれる。
ちなみに、この「
そんな「鬼火符」だが、果たして六等穢界の怪異に対しては――
(うん……ちょっと効きが悪いか?)
そんな感じだ。
元々、骸穢系の怪異はお肌が乾燥気味(まぁ、見た目がミイラだから)なので、この炎を発する法術は良く効く。現に、今も体表が燃え上がり松明のようになりながら、もっさりとした動作で火を消そうともがいている(多分、このまま燃え尽きると思う)。
しかし、餓鬼の方は
「ギョェ!」
と声を発しつつ、そのまま飛び掛かってくる。ただ、文字通り「尻に火が着いた」餓鬼の動きは直線的で読みやすい。だから、
「迅さん!」
俺の斜め後ろに立っていた彩音が、一言を発してから突き出した「祝福されたソード・アンド・スピアー」の鋭い剣先を真正面から受けることになる。
「――ギョ……」
ほとんど自分から串刺しになりに行ったような感じで餓鬼はこと切れる。
それを見届けてから、俺は先の方で松明状態になっている骸穢に歩み寄り、腰の「須波羽奔・形代」を抜いて手早くトドメを刺す。
結局、戦っていた時間はほとんど一瞬。さらに言えば、初手で使った「鬼火符」も要らなかったかもしれない。
(彩音の攻撃が頼れるようになったから、もうちょっと省エネ出来るな)
そんな風に今の戦闘を振り返りつつ、
「行こう」
と先へ進むことを促す。
ちなみに、この時の白絹嬢の様子を、俺は敢えて見ないようにした。なんというか、
(今見ると、嫌味な風に受け止められるだろうからなぁ)
という事。流石に俺も、さっきまでの白絹嬢の「やり方」に何とも言えない対抗意識のようなものが垣間見えていた事には気が付いている。そんな「対抗意識」は、たぶん「式者vsアプリユーザー」的な構図によるものだろう。
だったら、
(気が付かない風に装うのが大人ってヤツかな)
「式者vsアプリユーザー」といった対立構造を自分で作り出して、それに囚われるなんて無駄でしかないと思うけど、そういうモノに拘りが出来てしまうほど、彼女は苦労したし努力したのだろう。だったら、
(他人の指摘はかえって逆効果だろうな。自分で気が付くしかない)
そう思いつつ、俺は通路の先に屯している餓鬼4匹の集団に意識を集中した。
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