Episode06-23 スーパーの穢界 ②連携問題


――六等穢界を検知しました――

――穢界へ侵入しますか?(はい/いいえ)――


 お馴染みのメッセージが画面上に現れ、俺達3人は当然のように「はい」を選択。瞬間、足元が揺れるような眩暈に似た感覚を覚え視界が暗転。しかし、次の瞬間には視界が戻り、


「……こういう風になってるんだ」


 彩音の呟き声が示すように、俺達は「六等穢界」の中に立っていた。


 周囲の状況は……寂れたスーパーマーケットそのもの。どうやら入口の自動ドア付近に立っている感じだ。ちなみに背後にあるガラスの自動ドアは動作しておらず、ガラス越しに見える外側(?)は、全く何も見通せない「暗闇」だ。


 一方、中の状況は、というと、


「ここに出来る穢界って、みんなこんな感じだよね」


 と彩音が言うように、幾度となくお世話になってきた「スーパーバリューショップ・与野店」の店内に出来る穢界は「九等」であっても「八等」であっても、基本的に似た感じの造りになっている。


 商品棚や売り場に「売り物」は存在せず、全体として「ガラン」としている。薄暗いものの照明は点いていて、その頼りない照明に照らされた店内は、床が黒ずんでいたり、天井が煤けていたり、と全く綺麗ではない。


 そう言った特徴は、今回の「六等穢界」にも引き継がれているようだ。


「……あの、余計な事かもしれませんが」


 と、ここで白絹嬢が声を発する。少し言い難いような、怪訝な感じが籠った声。その声で彼女は、


「穢界に入る前に、装備類は取り出しておいた方が良いと思います」


 と言う。それで俺と彩音が「あ」「う」となる。


「いきなり襲ってくるパターンも、ない訳じゃ無いですから」


 そう言いつつ、白絹嬢は背負っていたナップサックから無骨な造りの刀(にしては短く見える)を取り出している。ちなみに彼女は冬服バージョンのセーラー服だが、どうやら今通っている学校の制服ではない模様(彩音のセーラー服とデザインが違うから)。もしかしたら「宝珠ショップ」で買える「装備」なのかもしれない。


 とにかく、白絹嬢の指摘は「ごもっとも」。何と言うか「叱られた」気になってしまう。一瞬反論しそうになったが「おっしゃる通り」過ぎて、結局


「そ、そうします」

「き、気を付けるね」


 俺も彩音もそんな感じでEFWアプリのアイテム欄から装備類を取り出した。


 装備品を「身に着ける」時間は実質ゼロ(取り出しと同時に装備状態になる)なので、その辺がガバガバだったことを反省する俺。


 一方、彩音は


「パーティーも、先に組んでおいた方が良かったね」


 と言いつつ、更にスマホを操作。それで俺、彩音、白絹嬢の3人が「パーティー登録」を済ませる。


 ちなみに、EFWアプリ上で確認できるパーティーメンバーの状態表示の中で、白絹嬢はこんな感じになっている。


*******************

白絹麗華 18歳 女性 Lv:16(四等式者)

クラス:退魔士 ★★★☆☆

身体障壁:165/165

法力:142/142

穢れポイント:0

状態:普通

浄化ポイント:344

能力ポイント:10

*******************


 パーティーメンバーの状態確認では、表層的な「状態」しか見れないが、それでも何だかんだで俺が白絹嬢の能力値を見たのはコレが初めてになる。


「あ~、麗ちゃんの方がレベル1つ上かぁ、負けちゃったな~」


 と彩音が隣で言っているが、


(レベル16か、いつの間にか俺が勝っちゃったな)


 最初に出会った時は結構な上から目線(あんまり悪い気はしなかったけど、美少女だし)で色々言っていたが、今は俺(Lv17)の方が上だ。ムフフ……


 ただ、白絹嬢の場合は「アプリに頼らずに式者になる」という縛りプレイのような決意で修行していた時期が長かったと聞いた覚えがある。なので、EFWアプリが齎す「スキル」の恩恵に頼らなくても「法術」を発動できる知識と技術があるのだろう。


(いつまでたっても「初級」レベルの破魔符しか作れない俺よりも、持ってる知識や技術はすごいんだろうな)


 と簡単に想像が付く。


 勿論、これは俺の勝手な想像ではない。と言うのも、俺が白絹嬢と初めて出会った「八等穢界・開」で、穢界主だった名前付きネームド怨霊と対峙した際、本来なら物理攻撃が効かない「霊体系」の相手に「物理を効かせる」ために、白絹嬢は何やら結界術のようなものを作った。


 その時の様子を、俺はちょっと前に電話で爺ちゃんに語ったことがあったが、


――ほおぉ、泰山府君の結界陣でも難しい「現幽転換陣」じゃな。普通は事前に準備して使うモノじゃが、その場でパパっと結界符札を作って使えるとなると、白絹の忘れ形見は随分と勉強したのじゃなぁ――


 と爺ちゃんが感心していたから。


 とにかく、白絹嬢は「努力家」なんだろう。もしかしたら一般スキル辺りに「努力家」と出ているかもしれない(「頑固者」だったらちょっと嫌だけど)。


 ちなみに、そんな白絹嬢だが、最近になってEFWアプリのレベル上げを頑張るようになったとのこと。この辺の話は俊也が青田丸翔太あおたまる・しょうたさんから聞いた話を俺に教えてくれた。どうやら白絹嬢の中で何かを切っ掛けにした「心情の変化」があったらしい。


 と、そんな事を考えつつ装備を整える。そして、次なる行動は状況確認だが、


「じゃぁ、神鳥をだ――」


 「使鬼召喚:神鳥」を出そうとする俺の言葉を遮ったのは白絹嬢。彼女は、


「あっ、ソレは私が出しますから」


 そう言うと、さっさと無地の呪符を空中に放り投げて「神鳥」を召喚。


 以前の「扇谷高校」の時は神鳥を召喚してフラ付いていたが、今はしっかりとした足取りで、


「行きましょう。前方に餓鬼が3匹です」


 と告げる。


 ただ、何と言うか、彼女の声や態度にちょっとした「棘」を感じるのは俺の気のせいだろうか?


******************


――クラス6:餓鬼――


 ARグラスの表示にはそう出ている。なので、六等穢界相応の餓鬼なのだろう。ただ、そうは言っても「餓鬼」は餓鬼だ。3匹いたところで「大したことない」と思っていた。


 しかし、実際に接近して戦闘になると、まぁやりにくい・・・・・ったらありゃしない。


 別に餓鬼が強い訳ではない。餓鬼は六等相応になっても餓鬼だ。食欲(たまに性欲っぽいヤツもいるけど)を前面に出して突っ込んでくるだけ。


 では、何が「やりにくい」のかと言うと……


「破魔符! っ効きが悪い? だったら……武神招来、武雷符!」


 接敵と同時に、呪符術を発動しまくる「白絹嬢」だ。


 神鳥を召喚している彼女が何となく先頭に立って歩いていたが、餓鬼と接敵しても彼女はそのまま最前線で、呪符術を放ちまくる。


 ちなみに、彼女が使っている呪符術は「スキル」の呪符術と「お手製の呪符」による呪符術が半分半分と言ったところ。ただ、どちらも威力は微妙で、1発では餓鬼の体力を削り切れていない。


 なので、勢い、1匹に2発とか3発撃ち込む格好になっている。一応、六等相当の餓鬼3匹を相手にしても手数で優っているため基本的に危な気ない立ち回りに見えるが、


(燃費悪そう)


 というのが俺の感想。


 しかも、引っ切り無しに呪符術を撃つので、俺が割り込む隙が無い。寧ろ、暗に俺が手を出すのを拒んでいるような節さえ感じられる。


(これってどうよ?)


 思わず隣の彩音を見るが、彩音は彩音で驚いた顔をしている。


(麗ちゃんって、こんな感じなんだ)


 とつぶやくので、


(飛ばし過ぎだよな)


 と小声で言う。


(呪符が勿体ない……それに法力も)


 そう言って彩音がスマホに目を落とす。俺もARグラスの視界に映されたパーティーメンバーの「状態」アイコンをタップする。すると、白絹嬢の法力は


法力 80/142


 最初にやった「神鳥」召喚の分を差し引いても、「一回の戦闘でこんなに減るか?」と思うほど減っている。


(3人いるんだから、連携した方が良いと思うんだけど)


 彩音はそう呟くが、俺も全く同意見。多層構造になっているという「六等穢界」で、序盤からコレだと、1層が終わるまでにガス欠になってしまう。


(困ったなぁ……)


 何と言うか、思わぬ問題にぶち当たった感じだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る