Episode06-22 スーパーの穢界 ①侵入
「調べてきたんですけど、この辺の地形は本来、強い穢界が出来るような場所じゃないですね」
マンションを出て、道路の向かいの「スーパーバリューショップ・与野店」へ向かうまでの短い時間で白絹嬢はそんな話をする。どうやら、事前にこの辺の土地柄というか地相というか、風水的な特性を調べてきた模様。
「荒川と霧敷川でしたか……川に東西を挟まれた台地の地形ですし、別に台地の終端点と
いう訳でもないですから、悪い気が溜まるような場所じゃないみたいです」
という説明。彩音は「麗ちゃん、そんな事分かるんだ、すごい」と素直に感心しているし、俺も「そうなんだ」と相槌を打ちつつ内心では彩音に同意。
「ま、まぁ、地形の要素なんて今の世の中だと余り意味はないみたいですけど」
対して白絹嬢はそんな感じ。彩音に「すごい、すごい」と言われてちょっと戸惑った感じに見える。「そんなにすごい事じゃない」「調べればわかる事だから」と小さめの声で反論しているが、その様子を見るに
(ああ……白絹さんて、あんまり同世代の子と絡んだ事がないんだな)
という印象を持つ。
俺も人付き合いは得意ではないし、彩音も自称「友達いないし」だった元ギャルだ。だから、
(これが、類は友を呼ぶってヤツか?)
少なくとも、彩音と白絹嬢は見た感じ性格が真逆に見えるが、結構根っこの部分では共通項が多いのかもしれない。
「と、とにかく、こんな霊的に平凡な場所に出来た強めの穢界ですから、ほぼ間違いなく人為的な原因があるでしょう。ソレを排除して穢界を浄化すれば、おそらく再発はしにくいと思います」
と、ここで白絹嬢は専門的な知見を披露する。
そう、白絹嬢は式者だ。「四等式者」は式者のランクで言えば最下位だが、それでもれっきとした「式者」である事には間違いない。俺や彩音のような単なる「
ちなみに、これは爺ちゃんから聞いた話だが、「式者」が生計を立てるには誰かからの「依頼」を受けて仕事をこなし「報酬」を受ける必要がある。まぁ、別に
ちなみに、爺ちゃんが現役だった昭和中期~平成初期は
――そうだなぁ、五等の怨霊鬼を斃して穢界を浄化する仕事で
「あっはっは」と電話の先で笑っていた。ちなみに「1本」とは100万ではなく1,000万だそう。
まぁ、金回りが良かった頃の日本と、「現世改め」が行われ「
(桁が違うんだよなぁ)
と思う。
今回の「報酬」は俺と彩音の2人で600万円だ。一応「白絹嬢」が加わる事は須田専務に話してあるが、報酬については
――勘弁してください――
とのこと。まぁ、白絹嬢も「私は報酬をもらうような立場じゃないので」という事だが、俺と彩音の間では「600÷3=200で」という事になっている。
ちなみに白絹嬢の「報酬をもらう立場じゃない云々」については、どうやら彼女が所属している式家「
(受け取ってもらえなかったら……それはその時考えよう)
と思っている。
「あ、店長だ」
とここで、彩音が大崎店長の存在に気付く。店の裏側(トラックが乗り着ける小さなヤードがある)へ回る店の角辺りで、ソワソワしている30代半の男だ。しかし、遠目から見ても分かるくらい顔色が悪い。
「あぁ……おはようございます」
挨拶は返してくるが、それも元気がなく、どことなく悲壮感が漂って感じられるのは、
(そうか、上司に「立ち会え」って言われているからか)
理由に心あたりがあったので、ちょっとだけ気の毒に思う。
******************
「じゃ、じゃぁ、私はここで?」
「そう、店長さんはここに居てください」
その後しばらく、大崎店長を交えて「打ち合わせ」的な「立ち話」をしたのだが、結局そういう事になった。
(まぁ、付いて来られたらかえって危ないし)
というのが、俺、彩音、白絹嬢の3人の総意。
ちなみに、
「み、店の外で待ってていいんですか」
という大崎店長の念押し的な確認に、
「ぜひ、そうしてください」
と答えるのは、まぁ、店内からも結構な「悪い感じ」を受けるから。白絹嬢曰く「瘴気が充満しています」という。この状態は
「開いた穢界に似た感じですから、店内に化け物が出てくる可能性も十分にありますので」
という事だからだ。
「じゃ、じゃぁ……これが事務所の鍵です」
ホッとした表情で少し顔色が良くなった大崎店長は、そう言うと鍵を2つ差し出してくる。
「こっちは、事務所の奥の応接室の鍵です」
今回の目的である「六等穢界」は応接室の中にある。それで、応接室の中の様子を大崎店長に訊いてみたが、
「実は、私もこの店を担当してから一度も入った事がないんです。たぶんここ2年は誰も入っていないと思います」
とのこと。その前については
「さぁ?」
良く分からないとのこと。
(まぁ、行ってみれば分かる話か)
ということで、俺達3人は大崎店長を残して店の裏から中に入る事にした。
******************
「店の中」といっても、普通の客は足を踏み入れない裏方になる。なので、この辺の案内はアルバイト店員でもある彩音の先導に従う。雑然と段ボールなんかが積み上がり、少しだけ生ごみっぽい匂いがする通路を
「こっちこっち」
という彩音の案内で進み、割とすんなり「事務所」というプレートが貼られた部屋に入ることが出来た。
ちなみに、現在「スーパーバリューショップ・与野店」の店舗内には九等が3つ、八等が2つ、七等も1つと多数の穢界が出来ているが、今はそちらに構わずに、事務所の奥の「六等穢界」を目指す事になる。
部屋の中は「ザ・事務所」と言った感じ。事務机が7人分あって、プリンターが部屋の角に置かれている。随分と狭く感じるのは、壁の両面に設置されたファイル棚のせいだろう。そこに入りきらないファイルや束にまとめただけの伝票なんかが机の上や床に積まれているから、なんというか「雑然」とした印象を受ける。
そんな雑然とした事務所の狭い通路を進んで奥に行くと、「応接室」というプレートが貼られたドアの前に出る。
「迅さん、さっきさぁ」
とここで彩音が思い出したように言う。
「ん?」
「さっき、店長が『誰も入ってない』って言ってたでしょ?」
「そういえば、そうだな」
「アレさ、実は違うんだよね」
「え? どういう事?」
この後、彩音がした話は、まぁバイト仲間からの
「パートのおばさんで田端さんって人がいるんだけど、年甲斐もなく金髪にしてるケバイおばさん」
「あ、この間見たかも」
「そういえば、レジの所に居たね。で、その田端さんが、店長がいないときにここの応接で勝手に休憩してるんだって」
俺としては「へ~」といった感じ。まぁ店長といっても24時間営業の店に24時間居続ける訳じゃないのは常識だ。しかも、普段は事務所に社員もいないらしく、また、居ても田端さんにはなかなか文句が言い難いらしく、結構「好き勝手」を許しているらしい。
「まぁ、だからどうって訳じゃないけどね」と彩音。
「とにかく、入ってみましょう」とは白絹嬢だ。
そんな2人の声を受けて、俺はドアノブの鍵穴に鍵を差し込む。
――ガチャ
鍵は特に引っ掛かりもなく、すんなりと開いた。確かに、2年以上閉まりっぱなしだったようには感じられないスムーズな動作感だった。
「じゃ、入るぞ」
と言う感じで、俺はドアを押し開いて室内を覗き込む。
室内は全体的に埃っぽい感じ。窓際に置かれた花のない花瓶や調度品風の時計、壁に掛けられた油絵の風景画なんかは分厚い綿埃を被っている。これなら「2年は入ってない=応接として使っていない」というのも分かる。
しかし、その一方で部屋の中央に置かれたガラスのローテーブルと3人掛けサイズの2つのソファーについては、最近も使われた感じの形跡が残っていた。なんといっても、アニメキャラの柄がブリントされたタオル毛布と枕代わりに使ったような座布団がソファーの上に雑に置かれていたから。
「本当にここで休憩していたみたいだな」
「でしょ?」
というのが俺と彩音の会話。一方、白絹嬢は、
「あの……アレじゃないですか?」
部屋の隅に置かれた黒いビニール袋を指差している。ビニール袋は最近では珍しい中身が見通せないタイプの黒色のごみ袋だ。シルエット的に、中に何か……人形のようなモノでも入っているのだろうか? 見た感じでは、直立した人形にビニール袋を被せてあるように見える。
ちなみに、スマホの
――六等穢界を検知しました――
とメッセージが出ている。どうやら穢界は人形のシルエットをもったごみ袋の裏側に入口が存在するようだ。
「どうする、迅さん?」
という彩音の問いに、
「まぁ、まずは穢界に入ってみよう」
と答える俺。見ると白絹嬢も頷いているので、ゴミ袋の中身は気になるが、まずは仕事をかたづけることにする。
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