Episode06-21 意外な助っ人参戦?
須田商会・須田専務からの依頼を正式に引き受ける事に決めた日以降も、俺の日常はさして大きな変化はなかった。強いて「何か特別な準備」を挙げるとすれば、
ちなみに「依頼を受ける」という話を俊也にしたところ、
――来年早々に「七曜会」が組織強化されて、その辺の民間依頼を一括管理する感じになるから、今受けておいて正解だよ――
とのこと。前にも聞いていた話だが、やっぱり「そういう方針」に変化はないらしい。
更には、
――なんか、オレ達の部署さぁ、部署ごと「七曜会」に引っ越しになりそうなんだよ――
とも。まだ「暫定」という事だが、これまでほとんど「有名無実」だった七曜会の組織を強化するに当たり、職員(であってるか?)を1から採用するのではなく「関係部署」からかき集める事になったそうだ。
まぁ、これまでは何処かの式家の郎党のお爺ちゃん1人が「専属の事務員」だったという話だから、
――合理的じゃね?――
という俺の感想に、俊也は電話の先から愚痴を垂れ流していた。
――何をどれだけやるか決まっていないところに放り込まれる身にもなってくれ――
という事らしいが、「まぁ頑張れ」と思う。それで、
――ああ、迅と彩音ちゃんが六等を浄化出来たら……「出来るアプリユーザーリスト」を作って一番最初に名前を書いてやるからな、覚えとけよ――
という感じで電話は切れた。
(上手く行っても、俊也には内緒にしておこう)
と思ったのは言うまでもない。
一方、「六等穢界」に関する情報収集だが、こちらは思ったように情報が集まった訳ではなかった。
例の「伝説の90」パーティーが池袋の「六等穢界」に挑んで失敗したのが9月下旬の話。それから約2か月弱経過した今の時点で、「六等穢界攻略板」には、チラホラと「伝説の90パーティー」以外の人物による書き込みがされるようになったが、数は少ないし、中身も微妙だ。
どうやら、先だっての書き込みにあった「宝箱の存在」が釣り餌のようになっていて、穢界攻略よりも「宝箱目当て」のユーザーが挑む事が増えたらしい。ただ、穢界の浄化ではなく、「宝箱」を目当てにしたユーザーなので、場合によってはレベルが低いのか実力不足なのか、結構な被害を受けて逃げかえってくる面々の書き込みが多い。
しかし、中にはまんまと2層辺りの宝箱まで回収して「中身」を自慢するような書き込みもあって、それが原因となって掲示板はちょっと荒れていた。
そんな、感情がささくれ立ったような書き込みを搔い潜り、有用そうな情報だけを集めた結果、現在分かっている「六等穢界」の特徴はこんな感じ。
― 複数階層で構成されている。恐らく2~3層構成。池袋の「六等穢界」は3層だった。
― 出現する怪異は1層は「餓鬼・魍魎鬼・骸邪狗鬼」がほとんど。
― 2層になると「狗頭鬼・呪鬼・怨霊・亡霊」が出現。取り巻きとして1層にも出てきた雑魚敵が多数いる。
― 3層は分からない事が多いが、「
まぁ、掲示板の書き込みなので100%信用できるかと言うと、微妙ではある。結局は自分の目で確かめる必要があるだろう。
ただ、3層構造になっている可能性は高いので結構な長丁場になりそうではある。だから消耗品(癒しのお札や霊水、清めの塩に各種の玉や無地の符冊なんか)は多めに持って行った方がいいだろう。
そんな感じで情報収集をして、必要な消耗品を多めに買い揃える。後は、
(お弁当でも作るかな)
と言ったところ。
(う~ん……おにぎりと鶏のから揚げと卵焼きくらい? 後はタコさんウインナーでも入れれば良いかな)
と思い、俺は
******************
朝の8時、玄関のチャイムが鳴る。
俺はおにぎりの型にご飯を詰めていたところなので、応対に出たのは彩音。短い廊下の先にある玄関の辺りから、女の子同士の喋り声が聞こえる。
(本当に来たんだな)
というのが、俺の素直な感想だったりする。まぁ、言わないけど、ツンケンして堅い印象だった
「上がって上がって」
「じゃぁ……おじゃまします」
そんな感じで2人分の足音が近づいて来て、リビングに通じるドアがガチャっと開く。そして、
「お、おはようご――」
リビングに入って直ぐ左手側にあるキッチンスペースでおにぎりを製造中の俺を見つけた少女が、畏まった感じで挨拶を口にするが、途中で固まったように止まってしまった。
対して俺は、
「あ、おはよう」
と返すが、そんな俺を凝視し続ける少女 ――まぁ、
(ん?)
と思うが、
「ああ、見慣れないと変だよね、エプロン姿の迅さんは――」
後から入ってきた彩音がそう指摘する。それで、
「そんなに変か?」
言いつつ、自分の胸元を見下ろす感じでエプロンを見る俺。まぁ、確かに可愛いヒヨコがプリントされているちょっとファンシーな感じのエプロンだが――
「首から上と下のつり合いが取れてないよ」
とのこと。それで、
「プッ――」
視線を逸らしていた白絹嬢が、耐えかねたように噴き出す。
「す、すみません。今日はよろしくお願いします」
礼儀正しい言葉も、吹き出しながら、堪えながらだと効果は半減だ。「箸が転んでもおかしい年頃」という言葉があるが、まぁ、若いからこそなんだろう。
「大崎さんとの約束は9時だから、ちょっと待ってて」
なんとなく「ブスッ」とした感じの受け答えになってしまったが、まぁ仕方ない。
(おにぎりにワサビでも入れてやろうかな)
一瞬そんな「悪だくみ」を思い付くが、
(いや……俺が食べるハメになりそうだから、やめとこ)
大人しく、梅干しやサケフレークを詰める事にする。
ちなみに、今日の「依頼」に
白絹嬢は先月の「扇谷高校」の事件直前に、転校してきて彩音のクラスメートになっていた。まぁ、不自然極まりない展開だが、どうやら「式家」としては有名な「十種一族」というのが絡んでいて「状況確認や現場対応のために白絹嬢が生徒として送り込まれてきた」というのが真相の模様。
ただ、一連の事件が終わった後も、白絹嬢は「扇谷高校」の生徒として残った(俺はてっきり、元の学校に戻るのだと思っていたので意外だった)。そして、埼玉県の教育委員会の指導により、「扇谷高校」の生徒は県内の各高校に分散され、白絹嬢は彩音と同じ高校に転校したそうだ。
以来、「転校してきた謎の美少女」的なポジションで学生生活を送っているらしい(彩音談)。
そんな白絹嬢と彩音は、
(そりゃ、さぞかし華やかな感じなんだろうな)
白絹嬢を「転校してきた謎の美少女」と評価した彩音だが、その彩音自身も引けを取らないほどの「美少女」さんだ。同じクラスになったという話だから、こんな受験も押し迫った時期に「2人の美少女転校生」を迎え入れたクラスの男子は(もしかしたら女子も)さぞかし、心を乱されるだろう。
(そういうの、俺の高校時代には無かったなぁ)
俺は型から外したおにぎりに海苔を巻きつつ、カウンター越しに2人の少女の後ろ頭を見ながら、そんな事を考えていた。
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