Episode06-20 依頼
昨日の夜は色々と忙しかった。
まず、彩音のクラス選びとその後のスキルの習熟度上げ。ついつい「やり込んで」しまった結果、穢界の外に出ると意外と時間が経過していた。なので、そのまま夕食を外食で済ませて帰宅。
帰宅後はいつも通り、先にお風呂に入ってすっきりとした彩音がそのまま「勉強モード」に入ったので、俺は俺で、リビングでテレビを見なが
以前ならば、このまま時間が過ぎて行って夜の11時過ぎくらいに「寝よ」と独り言を呟いたりしながら自室に入っていたもの(彩音の就寝時間も大体11時過ぎくらいだった)。ただ、最近はちょっと違う。
だいたい10時半ごろになると、彩音が「終わったぁ!」とか言いながらリビングにやってくる。それで俺はホットミルクとかココアとかジャスミンティーといった温かい飲み物を作って彩音に差し出す。
その後、30分ほど夜のニュースをBGM代わりにしつつ、2人で取り留めのない会話をする。彩音は主に学校の話をして、俺は主に日中の「何処へ行って何をした的な」話をする感じだ。ここ最近で俺と彩音の間の会話の量と頻度は飛躍的に増えたと思う。
まぁ、以前は無意識に感じていた「他人としての遠慮」的なモノが、今は色々な意味で距離感が近くなったため、なくなったからだろう。
それでひとしきり会話の時間を楽しむと、11時を過ぎた辺りで何となく
ちなみに寝る場所は、変な話だが「交代で」となっている。それで昨夜は俺の部屋の番だったので、畳の上に敷いたお布団で、
――やっぱり、電気消して――
――う~ん、やっぱり点けて――
――あームリムリ、やっぱり消して――
と言った感じで……閑話休題。
******************
とにかく、昨夜は
そのため、
――穢界浄化の依頼の話、迅さん忘れちゃだめよ――
今朝、学校へ送っていく車の中で彩音にそう言われるまで「須田商会」の須田専務からの「依頼」の話を綺麗サッパリ忘れ去っていた。
――も、勿論だよ――
たぶん、「忘れていた」事を見透かされたと思う。彩音は車から降りる間際に、まるで「ダメな弟を見るような目」で俺を見たと思ったら、
――もう、アタシが居ないとダメなんだから――
次の瞬間、妙に大人びた……なんなら物凄くソッチ方面の感情を煽るような笑顔を見せた。
(女の人って、変わるんだな)
以前、俊也から聞いた「女って付き合い始めると結構変わるぞ」という、その時の俺には何の価値もなかった
(いい意味で変わったんだろうな)
時折振り返りながらも学校へ向かって歩いていくセーラー服の後ろ姿を見ながら、そんな事を考えた。そして、
(変わったっていったら、俺の方が悪い意味で変わっていきそうだな)
とも思う。彩音とそういう関係になってから、以前よりも輪をかけて「ダメな男」っぷりに磨きがかかったような……
「気を付けよう」
敢えて声に出してそう言うと、彩音の姿が見えなくなったことを確認して車を発進させた。
******************
自宅マンションに戻る前に、七等穢界を1つ浄化。それで時間を潰した感じになり、帰宅すると午前の11時だった。
社会人としての経験は「警備員」でしか積んでいない俺だから、相手先に電話を掛けるのに適した時間的なタイミングは分からないが、まぁ、11時なら昼飯前だし良いだろう。
ということで、俺は自室の机の上から須田専務の名刺を手に取ると、そこに書かれた携帯電話番号に電話を掛ける。そして、
『はい、須田商会の須田です』
「もしもし、八神です――」
『あ、八神さん、先日は突然押しかけてご迷惑をお掛けしました』
「いえ、こちらこそ何のお構いもできませんで――」
たぶん「当たり障りのない会話」を経た後、
『先日お話したお願いの件でしょうか?』
という先方の言葉に、
「はい、お引き受けする方向で――」
と答える。
その後、
『電話では何ですから、細かい話を含めて一度--』
という感じで、市内の某所で時間を決めて会う約束をして電話を切る。
「ふう……」
軽く気疲れ的なモノを感じるが、これくらいで参っていたら「ダメ男」一直線だと気合を入れ直す。そして、
「とりあえず、昼飯食うか」
という事で、袋麺ランチに取り掛かった。
******************
面会のアポイントは同じ日の午後2時。場所は大宮駅近くの繁華街にあるコーヒーチェーン店だ。随分と予定を融通してくれた感じだけど、それだけ先方は切羽詰まっているのだろう。
(あんな赤字の店を再開したところで――)
と思うが、穢界の存在が顕現化した今なら、業績不振の理由を全部「穢界の存在」に押し付けて考えているのかもしれない。
たしかに、「スーパーバリューショップ・与野店」は中規模なスーパーマーケットとして考えるなら立地は悪くないと思う。目の前には幹線道路に接続する県道が走っているし、周囲はマンション・アパートを中心とした住宅街だ。潜在的な利用顧客の数は多いだろう。
だからこそ、「穢界さえ浄化してしまえば」という気持ちになるのだろうか?
(まぁ「その後」までは俺も知らない話だけどな)
そんな事を考えつつ、店の自動ドアを潜り店内を見回す。直ぐに、40代半ばのサラリーマン風の男がこちらに向かって手を上げているのが分かった。奥の方のボックス席に陣取っている須田専務だ。他には昨日と同じく山田部長(だったっけ?)が居るが、大崎店長の姿は見えない。
俺の視線の先で2人のスーツ姿の男が席を立つと、出迎えるように歩み寄ってくる。そして、
「今日は御足労いただきまして、ありがとうございます」
そんな感じで須田専務に席の方へ誘導された。
ちなみに、姿が見えないと思っていた大崎店長は注文カウンターの前に張り付いていた。どうやら、俺が着たら直ぐに何か注文できるように待ち構えていたらしい。
気を使ってもらったのは分かるが、正直言って「良く分からん」気の使い方だと思った。
と、そういう細かい話は横へ置いておき、この後、色々と「依頼」に関する詳細の話をした結果、決まった内容はこんな感じ。
―依頼には2人で当たる(俺と彩音という意味)
―報酬は600万円(300万円×2人、必要経費コミという意味)
―着手金として100万円を前払いする。支払いは実行日当日
―実行は今週末の土曜・日曜(彩音は高校生だからね)
―見届け役として大崎店長が立ち会う(本人は顔真っ青だったけど大丈夫か?)
報酬額については、俺から金額交渉を持ち掛けることは無かったが、「2人で――」と申し出たところで勝手につり上がった感じだ。しかも、頼んでもないのに「着手金」として報酬の一部(100万円)を前払いしてくれるという。ただ、万が一失敗した場合は残りの500万円は「無し」だそうだ。
後は、
「八神さんは個人事業主ですか? ああ、違うんですね。でも、今後もこの手の話を受けていくなら、いずれそっち方面もしっかりしておいた方が良いですよ」
というアドバイス(?)を受け、更に
「私の知り合いに、その辺のサポートをするアドバイザーを生業にしている人がいますので、よかったら紹介しましょうか?」
となる。ただ、
(う~ん……)
須田専務の
「それは……まぁ、考えておきます」
結局、そっちの方は返事を濁すことになった。しかし内心では、
(そっか、やっぱり税金の面とか、しっかりしとかないとなぁ)
と思ったのは確か。なので、
(まぁ、一度母さんに相談してみるか)
という事にした。
ちなみに俺の母親は高崎市の方で法律事務所か弁護士事務所か、とにかく「士業」の事務員をしている(らしい)。だったら、そっち方面にも明るいハズだし、どうせ頼るなら他人の伝手よりも身内の伝手の方がいいだろう。
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