Episode01-02 廃ショッピングセンター
ホットラインの内容は
――国道沿いの大型ショッピングセンター跡に設置した人感センサーが作動した。施設内の1階上り階段で感があった。現場へ急行せよ――
というもの。
ちなみに、弊社(田村警備保障)では、通常の現場急行は2名1組で行う決まりだが、大型施設の場合は3名以上で1組になる。結果として「派出所」が無人になってしまうが、その辺は本社側がフォローする決まりだ。
ということで、今回は葛城主任以下、吉川先輩と俺の3人で車に乗って現場へ急行。真夜中の国道をカッ飛ばして(運転は葛城主任)10分と掛からずに現場に着いた。
思った以上に現場が近かったため、車内の俺は先ほどのアプリの件を考える暇もなかった。スマホを制服の胸ポケットに仕舞い込むと、後は慌ただしく装備品の確認をするのみ。アッという間に現場に到着した感じだ。
「こちら葛城。現場到着、駐車場には人影も車もありません」
到着早々、葛城主任が本部(本社)へ連絡を入れている。
確かに、だだっ広い駐車場は真っ暗で見通しは悪いが、それでも駐車されている車や動く人影は見えない。
『本部了解。多分センサーの誤作動だと思うけど念のため見回ってください。どうぞ』
「ああ、涼子ちゃんか。夜勤ご苦労様。葛城了解」
そんなやり取りで葛城主任は車載無線を切ると
「じゃ、そういう事だから行ってきて」
と言う。
口調は普段通りだが、有無を言わせない「圧」が込められていた(気がした)。
*******************
俺と吉川先輩は鍵を使って従業員用の通用口から中に入った。ちなみに扉は施錠されていた。
「取り敢えず1階を見てから上へ行きますか?」
俺の提案に、吉川先輩の返事は
「お、おう……そ、そうしよう」
と返事。
その後、俺と吉川先輩は時計回りに1階フロアを巡回する。
――コツン、コツン……コツン、コツン――
ガランと広いフロアに二人分の靴音が良く響く。
当然ながら周囲は真っ暗。手に持っている高性能LEDライトがスポットライトのように暗闇を照らし、横倒しになった商品棚やテナントの看板の破片、放置された段ボール箱の山などを映し出す。
ただ、中の様子は「荒れ果てている」とまでは言えない。ゴミやら何かの残骸やらは、一見散らかっているように見えるが、ある程度纏めて置かれている。これならライトを頼りに歩く分には支障が無さそうだ。
「なぁ迅……」
とここで、隣の吉川先輩が話しかけてきた。
「前から思ってたけど、お前って
「こういうの? 暗いのとかですか?」
「いや、まぁそれもあるけど……ほら、不気味だろ?」
吉川先輩の言わんとしている事は分かるけども、
一応、幼少期の記憶には、人並みにお化けや幽霊を怖がっていた記憶も(
――
――
――それはなぁ、このお守りが強すぎて山の神様が怒るからじゃ、迅は神様に怒られたいか?――
――え~、やだな――
――じゃぁ、爺との約束を守るんじゃ――
――うん、分かった!――
ふと、懐かしい光景がフラッシュバックする。アレは小学生になる前の年の夏休みだったか? 生まれて初めてにして最後になるクソ親父の実家への里帰りだ。あの時俺は、親父の実家の裏山で同年代の女の子と仲良くなり、昏くなるまで一日中山の中で遊びまわった。
そして、その夜から一週間の間、原因不明の高熱に
思い出した父方の祖父とのやり取りは、熱が下がって自宅に帰る直前の、奥の広い畳敷きの部屋での会話だ。その時の祖父は時代劇に出て来る俳優のような妙な格好をしていたのを覚えている。
それ以来、爺ちゃんの家はおろか、神社にもお寺にも行っていないし、三重県や島根県に近づいた事も無い。
(まぁ、今考えると不思議な話だけどなぁ)
と思うが、事実だ。その証拠に(クソ親父の方は知らないが)母さんは気を配っていた。
例えば、俺の中学の修学旅行の行先が奈良・京都だと知ると、適当な理由を作って修学旅行を欠席させてしまった。恐らく神社仏閣が無数にある土地に行かせたくなかったのだろう。
父親がアレだった分、俺は余り母さんに不満を持つことは無かったが、あの時ばかりは楽しみにしていたので恨みに思った記憶がある。まぁ、それも含めて懐かしい思い出――
「お、おい、迅、何とか言えよ!」
と、耳元で大声を出されたので我に返る。
「え?」
「え? じゃないよ。だから、お前は怖くないのかよ、って訊いてんの!」
「あ、ああ。怖くないですよ。お化けなんかよりも、よっぽど人間の方が怖いっす」
その後、吉川先輩は俺が「強がっている」と思ったのか、怖がらせようとネットで拾い集めた怪談話を披露して……自爆していた。
*******************
1階フロアをぐるっと回って2階へ通じる階段の登り口付近に差し掛かったところで、吉川先輩は本日三本目の怪談を繰り出す。それは、
「そ、そういえば、これは本当の話なんだけどな」
「はぁ……」
「このショッピングセンターって、本当は潰れた後に市が買い取ってコミュニティーセンターにする予定だったんだ」
「あ、それは聞いた事ありますね」
驚いた事に実話系の怪談(?)だった。
ちなみに、このショッピングセンター跡地の現在の所有者は「市」になっている。それで、弊社へ警備を依頼しているのも「市」だ(ちなみに弊社と「市」はズブズブの関係のようだ)。
「改装を請け負ったさいたま市の業者がなぁ、コロナの影響で資金繰りが厳しくなって」
嘘か誠か、市に対して工事代金の支払いの前倒しを願い出て、断られた日の夜に
「ここの3階の北側のトイレで首を吊ったんだよ」
とのこと。
結果として経営者は死亡して会社は倒産。市は発注した工事の中断を余儀なくされ、建物は放置。弊社(警備会社)が警備費という名の
ちなみに、当時就職浪人だった俺は、この事件をリアルタイムで見聞きした訳ではないが、大学の同級生で警察官になった友人から飲み会の席で聞いた事がある。なんでも、その友人的には「初めて死体を見た」という印象的な事件だったらしい。
「それ以来『出る』ってことで工事を引き継ぐ業者が現れないらしい」
今のは吉川先輩の脚色だろう。
「あ、あとは……そうだな、自殺者が引き寄せられるらしい」
富士の樹海かよ! と思いつつも
「へ~、そうなんですか」
適当に合わせておく。
「だ、だから、怖くないんだったら迅が3階に行けよな」
「はぁ……まぁ、良いっすよ……でも、吉川先輩は1人で2階っすけど、大丈夫ですか?」
「へ? ……だ、だ、大丈夫……だと思う……」
この後、泣き付いて来た吉川先輩から「牛丼特盛半熟卵付き」の条件を引き出し、俺は2階の見回りにも同行する事になった。
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