Episode04-26 週末ドライブ
2024年9月21日
この日、俺と彩音は
――お爺ちゃんとお婆ちゃんの家は?――
という彩音の提案もあった。しかし、彩音が学校で文化祭の「準備委員」になった結果、平日バイトのシフトが週末へ集中してしまい、「日帰りできる場所」限定になってしまった。そして、紆余曲折した結果、
――そういえば、大宮駅の近くに変な形のマーカーが出てる場所があるよね――
と彩音が言い出し、そこが氷川神社だと分かると、
――じゃぁ、そこにしよう――
となった。
ちなみに、俺は爺ちゃんの言い付け(既に「気にするな」と言われている)を守り、神社仏閣には近づかない人生を送っていた。なので、近場に在る有名な神社にも関わらず「氷川神社」には近寄った事もない。
また、彩音が言う「変な形のマーカー」(実際は星形の緑色のマーカー)は、俺が思うに多分、そこにおられる神様の神界だ。だから
――失礼になるかもしれないから、止めよう――
実際は「面倒事になりそう」な気がして仕方ないので、そう言って難色を示してみたが、「だったら挨拶しないのはかえって失礼ね」という彩音の謎理論で押し切られてしまった。
そして現在に至る。
*******************
ドライブとしては全く物足りない距離(ほんの30分くらい)を走り、参道近くの駐車場に車を停めて、俺と彩音は参道へ繰り出した。
俺としては、もうちょっと商店街とかで賑わっている場所なのかと思ったが、行ってみると観光客や参拝客の姿は多いものの、全体として落ち着いた感じの閑静な場所だった。
夏の名残を残す木々が連なる参道を、本当にただ「ブラブラ」と歩いている感じになってしまう。ついでに言えば、殆ど職業病的に
「穢界」が無いと分かると、なんだか空気も澄んだ感じがしてくるのは不思議だ。しかし――
(でもこれ、彩音はつまらなくないのか?)
そんな事が心配になってしまう。なので俺は隣へ視線を向けるが、
「え? なになに?」
俺の視線に気が付いた彩音は、ニカッと笑って問い掛けて来る。
「いや、つまらなくないかと思って――」
「そんなことないよ~、雰囲気良いじゃん、ここ」
どうやら、俺の心配し過ぎだったらしい。ちょっとホッとしつつ、始まってしまった会話を繋げるため、俺は何か話題になるものはないかと考えを巡らせ、
「あ、そういえば――」
「どうしたの?」
「例の七曜会だけど」
「うんうん」
「あれ、入る事にしたわ」
「そっか、じゃぁ就職決まった感じ?」
「七曜会」に入る事が「就職」になるのか、ちょっと分からないが、彩音は「おめでと~」と言ってくれるので、
「あ、ありがとう……でいいのかな?」
「アハハ、どうだろう? でも、だったらアタシも?」
「あ、そうなるな。彩音も就職おめでとう?」
「なんで疑問形なの~」
そんな感じの会話になる。しかし、
「でもさ、それだったら、やっぱり大学受験は――」
彩音はちょっと考えた後でそう切り出すが、そっちの方は既に
「全然オッケーらしいぞ、大学に在籍してても問題無いって」
「ありゃ……そうなんだ」
俺が先回りして言った答えに、彩音はそう言う。
「もしかして、まだ迷ってるのか?」
「え? ちがうよ、ちょっとヤル気になってたから」
「ああ、そういう事ね。そうか、ヤル気になったか」
「そうそう、アタシ、ヤル女だよ」
「なんじゃ、そりゃ――」
その後は「何処の大学を受験するか?」という、実に受験生らしい会話をしつつ、他にもバイト先の人間関係が「ヤバイ、やっぱりあのスーパーはおかしい」という話だったり、「文化祭の準備委員の色々(主に愚痴)」だったりをしながら、俺達は参道を歩いた。
*******************
結論から言うと、俺の心配は
参道(結構長い)を歩き切り、鳥居を潜って神社の境内に入った後は、何となく他の人達の流れに合わせて本殿(拝殿か?)を参拝し、その隣にあった門客人神社(かどまろうど、でいいのか?)も参拝した。
そして、おみくじ(人生で初の体験)を引いて彩音が「大吉」、俺が「末吉」という結果にちょっと悔しくなったりしながら、境内を粗方歩いて参道に戻った。
ちなみに「緑色の星形マーカー」は本殿の裏の方の林の奥に在る感じだったので「うっかり近づく」という事もなければ、いきなり「
なので、
「だから、心配し過ぎなんだって」
「……そうみたいだな」
帰り道はそんな会話になる。そして、
「そういえば、ちょっとお腹空いたかも~」
彩音に言われてスマホを取り出すと、時刻は午後の1時半だった。昼食時は外しているが、かえってお店は空いているかもしれない。なので、
「何処かで食べようか」
と提案し、その後参道を逸れて商店街っぽい感じになっている路地へ入る。
「お蕎麦とかうどんとか……」
そんな感じで看板を眺めつつしばらく歩くと、不意に彩音が
「あれ?」
と言って足を止めた。
「ん? どうした?」
俺も足を止めて彩音の方を見る。どうやら彼女は少し先の方にある小さな商店に注目しているようだった。
――書画骨董・掘出屋――
と達筆な字で書かれた看板が出ているので、多分骨董品の店だろう。それにしても、
(そんな趣味があるのか?)
今は
「あの子、多分ウチの学校の子だ」
どうやら「骨董趣味」は俺の思い違いで、彩音は商店の前に出ているワゴンの前に立っている同年代の少女の方を気に留めたらしい。
「同級生?」
「そう……別のクラスの準備委員の子……なにしてるんだろう?」
そんな会話で、なんとなく俺と彩音はその少女を盗み見る感じになってしまう。そんな俺達の視線の先で、少女はワゴン(よく見ると「1,000円均一」と書かれたポップが付いてる)から何かを取り出して、店の奥へ声を掛ける。
「友達?」
「ちがう、ってか、アタシ友達居ないから」
「……また、そういう事を言う」
「たしか、お化け屋敷? っぽい事を旧校舎でやりたいって言って――」
彩音が言うには、その少女は文化祭で旧校舎の理科室か何かを使いたいと言っていたらしい。普通はどの学年のどのクラスも「まずは『
それは
「でもさ、なんか揉めてるぞ」
俺がそう言うように、その少女は店先に出て来た店主と思しき老人とちょっと言い合いになっていた。
「値切ってる?」
「どうだろう?」
言っている間にも、店主は奥へ引っ込む。そして、今度は店主の奥さんと思しき女性と一緒に外に出て来て、店主と奥さんが口論っぽくなる。
「まさか……不倫?」
「いや、どうしてそうなる」
「あ、なんか決着したっぽい」
とここで、少女は財布からお金を取り出して、それを奥さんの方へ押し付けるようにすると、代わりにワゴンから何かを掴み上げる。
(なんだ……アレ?)
遠目で見る限り、何かの小箱のような形をしたものだ。ただ、俺はどうしても「変な感じ」がしてしまい、つい
(鬼眼――)
を発動。すると、少女の手に掴まれた何かから赤黒い
(ゲッ、なんじゃありゃ――)
本気で「見たくない」「生理的に無理」と思わせるほどの禍々しい「何か」。それを掴んだ少女は、大事そうに小脇に抱えると、足早に(というか駆け足で)立ち去っていく。
(あれ……ぜったい悪い物だろう)
俺が内心で「ブルって」いると、それを知ってか知らずか彩音は、
「ねね、迅さん」
「ん?」
「行ってみよう!」
「ちょ――」
俺の制止を聞かずに、彩音は歩き出すと骨董品店の前で足を止める。ちなみに、店先では店主と奥さんが絶賛口論中だ。
「なんでアレを出したんだ」
「だってあんなガラクタ、ワゴンセールじゃないと売れないでしょ?」
「お前なぁ、売り物じゃないって何度も言っただろ!」
「知らないわよ、だいたい、私もワゴンにアレを入れた覚えは無いもの! アナタが自分で間違って入れたんじゃないの?」
そんな感じ。そこへ、
「あの~」
と、彩音が割り込んだのだから、この後ちょっと面倒臭い感じになってしまった。
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