Episode05-24 穢界化
[八神迅視点]
「迅さん!」
学食スペースに先に到着した彩音は、そう短く叫ぶ。対して俺は
「分かった――」
応じつつ、一歩遅れて学食スペースに入る。
同時に何もない宙を掴む動作を繰り出すが、まぁ、実際はARグラスが投影した視界の端にある「ショートカットボックス」に手を伸ばし、そこから「無地の呪符」を取り出す動作だ。
結果として、俺の掌には「無地の呪符」が数枚出現する。そして、
「破魔符!」
霊力が左手を伝って呪符に流れ込むのを感じつつ、俺はスキルを発動。
前方に投げつけた呪符は空中をはしると、
――バンッ!
破裂音と共に、今まさに生徒を襲おうとしていた「怪異」の内の1体の背中にさく裂。
ARグラスの視界に「
(そにしても、全力の破魔符で体力の表示が「緑」から「赤」――斃せないのか、六等って事だよな)
「彩音、こいつら結構タフだから気を付けろ!」
俺はそう言い残すと、腰の鞘から剣 ――
ちなみに、怪異の数は全部で6匹。対して、襲われていた生徒のグループ(ついさっき感じが悪かった連中だ)は5人。生徒のグループは状況に理解が追い付いていないのか、呆けたような視線を俺と彩音へ向けてくるが、今は無視する。
「――鬼火符!」
新たに呪符術を繰り出し、それを「
「鬼火符」を受けた骸穢が松明のように燃え上がり、別の骸穢の頭が胴体から切り離されて空中を舞う。
と、ここまでは怪異どもの不意を突いていた俺(と彩音)だったが、この辺で残り3匹の怪異は俺と彩音を「敵」と認識した模様。少年少女のグループから回れ右をして
――ブンッ
骸穢が包帯でグルグル巻きになった腕を振り回し、
――シャッ!
醜女夜叉が(驚いた事に)バサバサの髪の毛を針のように伸ばして反撃してくる。
骸穢の打撃攻撃は、もともと動作が緩慢なので当たる気はしないが、醜女夜叉の髪の毛攻撃は
「うわっ――と」
ちょっとびっくりした。
しかし「びっくりした」といっても、その攻撃は一瞬前に「鬼眼」を通して「視えて」いる。なので、俺は紙一重で髪針攻撃を躱し、
「――っ!」
そこから斜めに体を捌いて、体重が乗った回し蹴りを見舞う。
久々に「小者スキル」のケンカキックが発動したのか、ドンッという反動と共に醜女夜叉は横へ吹っ飛び
「彩音――」
「オッケー!」
待ち構えていた彩音が振るう「桃の六尺棒」に頭をかち割られる事になった。
******************
結局、学食スペースでの戦いは2分ちょっとで終わりを迎えた。
結果として、学生グループは5人中3人が引っ掻かれたり、髪針が刺さったりして負傷しており、更に男子生徒が1人、床で
「あ、あの――」
それで、かろうじて無傷で残った女子生徒が俺と彩音の顔を交互に見ながら言葉をなくしているが、そもそも、俺も彩音も彼等を助けようとして「学食スペース」に来た訳ではない。
「彩音」
「なに、迅さん?」
「こいつら、どうする?」
「……放っとく?」
いやいや、それは冷たいな。と俺が言おうとしたところで、
「冗談よ、迅さんは厨房の方を見てきて。アタシはここに居るから」
となった。
ちなみに、俺と彩音が「学食スペース」に来た理由は、この先、学食スペースの奥にある厨房に理由がある。
ついさっき(たぶん15分くらい前)、俺と彩音は学校の校舎そのものが「穢界化」したことに気が付いた。
ちょうど、俊也との電話が中途半端に途切れた時点だ。
――六等穢界・開を検知しました――
――六等穢界・開に侵入しました――
スマホの「
ただ、困ったことに「開」つまり「開いた穢界」のくせに、どうやら校舎の中に居る俺達や生徒、来場者らは外へ出る事が出来なくなっていた。
異変に気付いた時点で1階の玄関を目指したのだが、俺と彩音が到着した時点で、玄関のガラス戸は既に全てガッチリと閉まっていた。また、本来は透明なはずのガラス戸は、玄関を問わず窓を問わず、全てが真っ黒なペンキに塗りつぶされたようになって、全く外の景色を映していなかった。
そんな異様な状況に、既に何人かの生徒や保護者がドアを蹴ったり、物で叩いたりしていた。しかし、まるで分厚いコンクリの壁を叩いているかのようにガラス戸にはヒビ一つ入らない。
試しに俺も全力で蹴ってみたが結果は一緒だった。その後、一応廊下側にある窓ガラスを破ろうともしてみたのだが、結果は同じだった。
その時点で、玄関に集まった人たちの間では軽いパニックが起きていた。閉じ込められたという認識に加えて、スマホの電波が圏外になってしまった事も大きいだろう。
そんな中、俺は彩音と共に集団から少し離れて「使鬼召喚:神鳥」を召喚し、更に「念のため」として「
ただ、そうやって準備した結果、「ARグラス」を装着した視界に「緑色の星形マーカー」を発見することになった。マーカーは小さく色の薄い状態だったが、その形と色調は「氷川神社」の敷地内に存在していた「神界」を示すマーカーと同じに見えた。
「何かある」と直感した俺は、彩音と共に「緑色の星形マーカー」が出た場所、つまり学食スペースを目指すことにした。
そして、先ほど感じが悪かった学生グループを行き掛り上「助ける」事になった訳だ。
これが、現時点までのあらまし。それで、
「……火災除けのお札……か?」
視界の中で「緑色の星形マーカー」と重なったのは、少し黄ばんで汚れているが「竈三柱大御神札」と読めるお札、御神札だった。それが、勝手口の横のすりガラスの窓に貼られている。
「これって……」
俺は、或る種の直感に従って、すりガラスの窓に手を伸ばす。そして、鍵を外して横に引いてみると
――ガラ
「あ……」
窓はごく普通に、いとも簡単に開いたのだった。
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