Episode07-16 冬休みの過ごし方


 爺ちゃん婆ちゃんの実家で過ごす冬休み。その初日の夜は色々と話題が多い夕食になった。


 エミの存在とその正体がキッチリと見破られるという事件もそうだし、その後に始まった白絹嬢のご両親に関する爺ちゃんの思い出話もそうだ。


 ちなみに、白絹嬢のご両親に関する話は、そのご両親が命を落とした原因となった怪異「柊坂の禁童子」なる鬼の話に話題が及び、それを討伐する事に対する並々ならぬ決意を見せた白絹嬢に対して、「何のアドバイスもしない」と断言した爺ちゃんという、孫の俺からすると少し「不可解」な展開になった。


 ただまぁ、「不可解」と思いつつも爺ちゃんの考えていることも何となく察する事は出来る。


 そもそも、白絹嬢の家は「十種とくさ一族」という別グループ(?)に所属している。「十種一族」は「壱等式家」だ。少し変わっていて、何個かの分家が集まった集団のようだが、その棟梁とされる「蒼紫鬼丸あおし・おにまる」という人は相応の実力の持ち主なのだろう。


 そんな実力者が「封印するにとどめた」という事は、つまり、「柊坂の禁童子」は斃そうと思ってもおいそれ・・・・と斃すことが出来ない、手強い怪異という事になる。


 おそらく爺ちゃんは今の白絹嬢の実力を察知し、「アドバイスなどするべきではない」と判断したのだろう。そんな判断に「そもそも他所の家の話」という要素も加わり、あんな対応になったのだと思う。


 ただ、それはそれで爺ちゃんにとっても後味が悪かったのか、


――その助言はできないが、代わりに呪符や符札、法術について訊きたい事が有ったら、儂に分かる範囲でお教えしよう――


 となった。それで、今度は逆に遠慮した白絹嬢に、


――なに、どうせ迅にみっちり叩き込むつもりだったんだ――


 と俺を理由に「気にするな」と言った。


 ちなみに、俺は「ああ、爺ちゃん最初からそのつもりだったんだ」と思ったもの。


 とにかく、そう言う感じで初日の夜が過ぎ、翌朝を迎えた。


******************


 今回の里帰りは25日から年が明けた翌月2日の朝までの8泊9日の予定。結構長い間滞在する事になる。なのでこの間、俺は爺ちゃんに色々教えてもらう傍ら、手伝いになる事はなんでもしようと考えていた。


 一方、彩音や白絹嬢は「普段よりも静かな環境」で受験勉強に専念するつもりだという。そのため、結構な量の参考書や問題集なんかを持ち込んでいる。


 ちなみに、彩音も白絹嬢も2人揃って都内の同じ私立大学を受験すると決めていて、つい最近の模試では「B判定」だったとのこと。「Bだと安心できない」という事で、今回の里帰りは、受験に向けた合宿のような意気込みがあったと思う。


 ただ、(これは白絹嬢にとっての話だが)俺の爺ちゃんが「秦角」という元式者である事が分かり、白絹嬢のご両親と知り合いである事が伝えられ、悲願であった「柊坂の禁童子」討伐のアドバイスこそもらえないものの、それ以外なら「儂の知っている事なら何でも」教えてくれるという申し出を受けた。


 その結果、白絹麗華の「努力家」としての側面が別のベクトルへ向けて騒ぎ出した。「この機会を逃してなるものか!」という、受験勉強に向ける熱量とは比較にならない熱を伴った彼女は、朝食の食卓で


――昨晩の話、是非ご教授を!――


 となり、「え? 麗ちゃん勉強は?」という彩音の言葉を半ば無視して爺ちゃんに頼み込む事になった。


 対して爺ちゃんは、朝っぱらから黒髪超絶美少女(なんか懐かしいあだ名だな)にもの凄い熱量で迫られた結果、


――お、おぅ……――


 となっていたもの。ただ、その後は年の功分の理知的な判断があって、


――では、午前は法術について、午後は受験勉強という事で――


 となった。


 ちなみに彩音はというと、


――だったら、私も――


 との事。彩音にしては珍しく「状況に流された」感じだが、「そういう知識は有っても邪魔にならないし」という判断だった模様。


 とにかく、そういう経緯で「里帰り」期間中の日々のスケジュールが粗々と決まり、


「朝っぱらから鼻の下を伸ばして、良い御身分だね!」


 と爺ちゃんをなじる婆ちゃんの声を小耳に挟みつつ、俺はみそ汁に沈めておいた梅干しを箸で摘まみ上げ、少しふやけた実を口の中に放り込むのだった。


******************


 約束通り、午前中は「呪符」の書き方やその理屈、由来についての爺ちゃんの講釈から始まり、実際に墨を溶いて半紙に呪符を書いてみる実践練習となった。


 ここでは、やっぱりというか何というか、白絹嬢の抜きんでた才能が光った。


――真面目にコツコツしっかりと勉強してきた事が良く分かる――


 という爺ちゃんの誉め言葉。ちなみに書いたのは「破魔符」(EFWアプリ製ではない手書きのヤツ)だが、確かに俺が書いたものと見比べると、纏っている雰囲気が違い過ぎた。


――迅は……まぁ、練習したのだな――


 ちなみに俺は「練習した事だけ」は認められた感じ。一方、彩音は独創的な「ナニカ」を半紙の上に生み出していた。


 とにかく、このようにして午前の時間が過ぎ、丁度正午の時刻になったところでエミが「お昼ご飯~」と呼びに来る。どうやら、エミは自発的に婆ちゃんの手伝いでもしているらしい。


 それで、昼食(ホットケーキだった)を食べた後は、


「じゃぁ、気分を入れ替えて勉強勉強」


 と言う彩音が白絹嬢と共に割り当てられた部屋に入る。


 一方、俺はというと


「迅、ちょっと手伝ってほしい事があるんだが」


 という爺ちゃんに連れられ、そのまま外へ。


「手伝いって、何?」


 と訊く俺に、爺ちゃんは、


「うん……まぁ、来て見てもらった方が早いな、さぁ乗れ」


 と言って、庭先に止めてあった軽トラを指差したのだった。


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