Episode06-04 突然の岩戸篭り
エハミ様はその後、
――まぁ、考えすぎかもしれないけどね――
深刻なトーンを、そう言って胡麻化した。
その後しばらくして、エハミ様が持ってきたイノシシ肉が粗方無くなったところで食事の方は「ご馳走様」という事になる。
そして、
「あ、エハミ様はお風呂の方がいいですか?」
普段はシャワーの方が多い我が家であるが、彩音が気を利かせてそう言う。それで、
「そうね、じゃぁみんなで入ろうか」
というエハミ様の返事に、俺は「え?」となってしまうが、
「迅は別。何考えてるの?」
とエミに突っ込まれて、笑われてしまう事になる。
「分かってるよ、じゃぁ洗い物はやっておくから」
俺は照れ隠しにそう言うと、キッチンの方へ引っ込むことになった。
ちなみに、我が家の風呂場はそこまで狭い訳ではない。それでも、3人同時となると結構「工夫」が必要な気がするが、ついついその場面を想像してしまい、俺は想像(というか妄想)を打ち消すためにも、普段以上に洗い物に打ち込むことになった。
と、そういう話はさて置き、それから約1時間半後、俺は洗い物をとっくにやり終えて、手持無沙汰に「お仲間怪異」の面々とテレビをボーっと見ていた。
そこで唐突に廊下の方から話声が聞こえて来て、リビングのドアがガチャっと開く。
「迅さん、上がったよ」
という彩音の声で振り返ると、そこには普段通りにパジャマ代わりのスウェットを着た彩音。なんだか、いつも以上にツヤツヤ、シットリした感じで湯上りの風情を纏っている。
そんな彩音の後ろからエミとエハミ様もリビングに入ってくる。
ちなみにエミの場合、服装は「自由自在」なのだそうだが、エハミ様もそうなのだろう。着替えとか、そういう荷物は持っていなかったのに、今はすっかり服装が薄ピンク色のパジャマに変わっている。
そんなエハミ様に
「迅も入ってきなさい」
と急かされて、今度は俺が風呂場に向かう。
ちなみに、風呂場は全く濡れておらず、使った形跡がなかった。なので、
(エハミ様の力で、風呂に入る為にどこかへワープした?)
まさか、と思うが「有りそうな話」のような気がした。
******************
風呂(というかシャワー)から上がり、髪を拭いている時に、ふと、
(そういえば、エハミ様ってどこで寝るつもりかな?)
と疑問を持つ。
ちなみにエミ1人なら、普段は彩音の部屋で一緒のベッドで寝ているらしい。引っ越した時に彩音が買った自分用のベッドは所謂「セミダブルサイズ」のモノ。一人用としては大きいが、どうやら長く「ネットカフェ」暮らしだった反動で、大きなベッドでゆったり寝たかったらしい。
そのため、小学生サイズのエミなら問題はないかもしれないが、流石にエハミ様は普通の大人サイズなので、3人で同じ同じベッドというのは……
(無理じゃね?)
という気がする。でも、
(まぁエハミ様だし、寝る時だけ自分の神界に戻るんだろうな)
勝手にそんな風に考えて、俺は特に問題とも考えずにリビングへ戻る。
リビングでは、
(勉強か、頑張るなぁ)
そう思いつつ、俺は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してひと口飲む。
そこで、
「じゃぁ、私達は寝るから」
エハミ様がテレビを消しつつ、そう言うので、
「そうですか、おやすみなさい」
俺はそう言って返すのだが、そんな俺の目の前で、立ち上がったエハミ様とエミは何を思ったのか廊下の方ではなくリビングの隣 ――つまり、俺の部屋に続く引き戸―― に向かうと、
「今日はここで寝るから、入ってきたらダメよ」
「迅、入ったらダメ」
2人揃ってそんな事を言う。それで思わず俺は、
「いやいや、そこは俺の部屋で――」
と言い掛けるが、エハミ様が唇に人差し指を当てて「静かに」というジェスチャーをするので、反射的に口を噤む。
そんな俺にエハミ様は近づいて来ると、耳元にまで顔を寄せて
「バカね、待たせるんじゃないの」
と言う。
フワッと耳に掛かった息と、近すぎる距離に思わず仰け反る俺。
見ると、エハミ様はまるで「出来の悪い子供」に言い聞かせるような困った笑顔を作ってから、
「ちょっと反則かもしれないけど、これは彩音には内緒よ――」
言い含めるように前置きする。そして、
「私が心を読めるのは、迅は知っているわよね?」
「……はい」
「前は、言葉になるほど表に出てきた考えしか分からないって言ったけど、実は意識をして力を籠めると、もっと深い所の心の声が聞こえるのよ」
「……えっと、それが一体?」
「もう、鈍いわね。つまり、彩音もあなたと一緒って事よ」
「え?」
「分かったら、さっさと彩音の部屋へ行きなさい」
エハミ様はそういうと、身をひるがえして(本来なら)俺の部屋へと入っていく。そして、
「この扉は、明日の朝まで開かないわよ。岩戸篭りだと思って頂戴」
言って、引き戸をぴしゃりと締めた。
それで俺は、
「……えっと……えっと……」
オウム返しのように、情けない言葉を繰り返すのだが、
――ガタ
そんな俺の元に、重たい物音と共にハニ〇君が近づいて来て、
――ドンッ
容赦なく俺をリビングの扉の方まで突き飛ばしたのだった。
******************
「ねぇエハミ」
「なに?」
「なんで嘘ついたの?」
「嘘?」
「だって、心の奥の方なんて読めないでしょ?」
「ああ、それね……まぁ、そうでも言わないと彩音が恰好付かないからよ」
「なんで?」
「だって、もう言葉になる一歩手前の勢いでずっと『迅さん、迅さん』て考えてるのよ、あの子」
「ふ~ん、私……邪魔してた?」
「確実にそうね」
「あ~あ」
「でも、2人とも朴念仁だから、朴念仁が2人揃うと、こっちも大変ね」
「ぼくねん・迅?」
「……寝ましょ」
そんなやり取りが、迅の部屋の中であったとか、なかったとか。
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