Episode06-17 くノ一(くのいち)彩音、参上!


 ファミレスで「スクにゃんAI」による彩音の進路指導(?)を終えた後、俺と彩音はその足で近くの「八等穢界」に向かった。まぁ、日々のルーティーンとしての「学校帰りの穢界」ではあるが、今回は彩音の「肩慣らし」の意味もある。


 ちなみに、今日の穢界は大型ショッピングモールの駐車場の一画に出来た穢界。なので、中の様子は、薄暗くだだっ広い・・・・・駐車場を模した空間だった。しかも、おあつらえ向きな事に「外灯」が点在している。これは、外灯の点灯/消灯を契機に怪異が湧く「無限湧き」タイプの穢界になる。


 彩音が選んだ新しいクラスと武器の習熟にはもってこい。しかも、湧く怪異は「小骸穢こむくろえ」という小型のミイラのような怪異なので、力は強いが動きが鈍い。この点も今の状況にはお誂え向きの穢界だった。


 ということで、


「迅さんは見ててね」

「分かってるよ、でも、気をつけてな」

「うん! じゃぁ、まずは唐獅子乃舞からじしのまい……からの穂踏乃舞ほふみのまい


 彩音は気合を入れると、以前のクラス「巫女」で拾得していた「神楽」を舞う。唐獅子乃舞は見る者の攻撃力強化の効果があり、穂踏乃舞は全体的な能力上昇の効果がある。


 ちなみに「神楽」スキルは、彩音が現在選択したクラスでは習得する事は出来ないが、既に習得したモノは使う事が可能。しかも、


(効果の具合は……前と同じか)


 バフとしての効果はどうやら能力値依存のようなので、変化が無い感じだ。


「来た――」


 と、ここで彩音が一番手前の外灯が投げかける「明かり」の下に足を踏み入れる。すると、明かりに照らされた範囲の地面から「黒いタール状のナニカ」が沸き上がり、盛り上がると一瞬間を置いて、薄汚れたボロ布を全身に巻き付けた「小骸穢」の形になる。


(頑張れよ)


 俺は少し彩音から離れた場所で、剣を片手に(もう片手には呪符を持ちつつ)万全の体勢で彩音を見守る。


 そうしながら、小骸穢を相手に躍動するセーラー服姿の美少女を見つめつつ(別にいやらしい意味じゃない)、先ほどのファミレスであった一連のやり取りを思い出していた。


******************


『随分と……ややこしい事になっているのだ』


 とは、機嫌を直した(?)スクにゃんAIの一言。ちなみにその時、俺と彩音は求められるままに、EFWアプリを立ち上げたスマホをテーブルの上に並べて置いていた。それで、スクにゃんAIはというと、器用な事に、2つのスマホの画面を行ったり来たりして「ふんふん」と鼻を鳴らし(実際は画面のダイヤログに「ふんふん」と出ている)、そう言った訳だ。


「どういう事ですか?」


 という彩音の言葉(俺は喋らないようにしていた)にスクにゃんAIは、


『甘露、またはソーマ、或いはアムリタ……とにかく、神の飲み物を飲んだのだ?』


 軽く頭を横に振りながら、そんな質問を投げかけてくる。「ソーマ」とか「アムリタ」とかは知らないが「甘露」は飲んだ記憶がある。それは、勿論彩音も同じで、


「はい……甘露を一口ずつ……」


 「それが何の問題なのか?」といった怪訝な感じで答える。


饒速水滋乃出水穢破美比女にぎはやみしのいずみのえはみひめなのだ?』


 対してスクにゃんAIは、更に質問を投げかける。バッと画面のダイアログに出た漢字はちょっと直ぐには読めない文字の羅列に見えるが、ちゃんと「ルビ」が振られていたので何とかそれを追うことで読める。それはつまり、


「えはみひめ……エハミ様の事ですか?」


 と、彩音が言う通り、どうやらエハミ様の本名の模様。ただ、以前「勝手に名前を付けられた云々」といった事を言っていたので、もしかしたら本当の意味では本名ではないのかもしれない。


『そうなのだ……2人とも随分と饒速水……まぁ、エハミ殿だな。彼女に気に入られているようなのだ……甘露も出所はエハミ殿なのだな?』


 探るような、というよりも「確認するような」スクにゃんAIの口調に、俺は一瞬


(正直に答えていいのかな?)


 と思う。どうやら彩音も同じように考えたらしく、俺に「どうしよう?」的な視線を送ってきた。


(うん、別にやましい話じゃぁ無いし)


 結局、俺はそう決め付けると、


「はい、実際はエハミ様の分霊のエミから貰ったものです。」


 彩音の替わりにそう答える。


『正直に答える心根は良いのだ(放置されたのは忘れないのだ)』


 対してスクにゃんAIの返事はこんな感じ。括弧書きで本心を追記されて、ぐうの音も出ないのは俺だ。


『とにかく、人が甘露を飲むなど、久しく無かった事件なのだ。お陰で2人とも変なスキルが出来ているのだ』


 スクにゃんAIが言う「変なスキル」とは、おそらく俺の「神人」や彩音の「神女」のことだろう。彩音も同じように思い当たったらしく、


「あの、迅さんの『神人』とか私の『神女』というスキルの事だと思うのですが、これって一体?」


 恐る恐ると言った風に問い掛ける。しかし、


『今は未だ気にする時ではないのだ』


 そこそこ深刻そうな様子(眉間にしわを寄せたネズミ)でそう答えられたら、こちらとしては続ける言葉が無い。


『まぁ、その辺の話は吾輩もエハミ殿に一度会って真意を確かめたいのだ……』


 一方のスクにゃんAIはそう言うと、「また、訊きたい事が有ったら呼ぶのだ」といい画面から去っていった。


 そして、


「……あ」

「……ダメじゃん」


 本来の「訊きたい事」、つまり彩音の新しいクラスについて、全く訊けていない事を思い出した俺と彩音は、その後直ぐに「スクにゃんAI」を呼び戻す事になった。


******************


(……それで、結局彩音は――)


 先ほどのファミレスでの一連の出来事を思い出す俺。一応、直ぐにでも彩音をバックアップできる態勢を保っているが、


「えいっ」


 当の彩音は調子が良さそう。


 時折、気合の声を発しつつ、「小骸穢」3匹相手に引けを取らない戦いを見せている。


 そんな彩音が持っている新しい武器は、剣と槍が合体したような武器。和風系統の武器ではなく、洋風(と俺が勝手に呼んでいるだけで、どちらかと言うと「普通」)の武器だ。構造はシンプルな片手持ちの直剣ソードの柄の部分に長さ1m20cmの鉄パイプが差し込めるようにしたもの。剣の柄に鉄パイプを差し込めば、全長が2m弱の「槍」となり、鉄パイプを抜けば、刃渡り70cm程度の「直剣」と1m20cmの「ロッド」の2刀流が可能になる。


 その名も


――祝福されたソード&スピア――


 だ。「祝福された――」というのは武器全体に神(どこの神様だろう?)の祝福が掛かっているから。だから、


「祝福されたソード&スピア」

攻撃力:20

対霊攻撃力:15

*神聖属性:弱


 という、そこそこの性能を持つ武器だ。元々、長尺の「六尺棒」を振り回していた彩音からすると、扱いやすいだろうという見込みで、宝珠ショップで購入したばかり。ちなみにお値段は5,000宝珠だった。


 ただ、この武器は「本命」までの繋ぎ。


 スクにゃんAI曰く


――12月の下旬に宝珠ショップの内容に大型アップデートが入るのだ――


 とのこと。


 現状、宝珠ショップの武器のラインナップは高額なモノ(つまり高性能なモノ)でも価格は9,000宝珠止まり。それが、


――1万越えクラスの高性能武器が入る予定なのだ――


 という。おそらく来年初頭に控えた「一般公開」へ向けたアップデートだろう。


 とにかく、「スクにゃんAI」が「今奮発しても、数か月後には中途半端な性能になるのだ」と言うので、今は5,000宝珠クラス(それでも50万円だけど)の武器に留めた訳だ。


(でも、アレって、自分のところの営業妨害をしているってことにはならないのかな?)


 少しだけそんな心配をするが、まぁ、相手は神様(の分霊)だから大丈夫だろう。


 とにかく、武器はそんな感じで決まった。そして、


「えっと……」


 目の前の彩音はスマホを操作すると、EFWアプリのアイテム欄から赤色のビー玉サイズのガラス玉を取り出し、


「――炎玉えんぎょく!」


 言いつつ、残り2匹に減った「小骸穢」に投げつける。


――ボワッ!


 赤色のガラス玉は、小骸穢の足元で砕け、瞬間的に大きな炎を作り出す。その結果、炎は乾燥肌気味な小骸穢(まぁ、見た目がミイラだし)に燃え移り――


「……終わった?」


 あっという間に燃えカスの灰となった2匹の小骸穢を最後に、最初の外灯を消灯させることが出来た。


「忍術か……アイテム依存だけど、強いな」


 と言うのが俺の素直な感想。


 そう、彩音は新しいクラスとして「忍者」系統の初期職「下忍」になったのだった。



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