Episode06-16 ご機嫌斜め?
午後の4時過ぎ、俺は平日のルーティーンとして学校終わりの彩音を迎えに行くため、車に乗り込んだ。
ちなみに、転校先の高校は以前の高校よりも自動車を使う分には近い。大体15分ほどの運転で到着する距離だ。
ただ、年頃の女子高生を俺みたいなオッサン予備軍が迎えに行くのは色々と波風が立つし、彩音にしたら「悪目立ち」も良い所。態々自分からトラブルの種を蒔きに行くのは本意ではない。
ということで、俺は普段通り学校から少し離れた住宅街の一画に駐車すると、スマホのメッセージアプリを立ち上げて彩音にメッセージを送る。
――今行く!――
直ぐに返事が来て、2分も待たないうちに制服姿の彩音が道の向こうから走ってくる。
ちなみに、以前の学校は制服が「ブレザータイプ」だったが、今の高校は最近珍しいかもしれないが「セーラー服タイプ」だ。転校に際しては少し勿体ない出費だったが、
――せっかくだから、着てみたいかも――
という彩音の意思を尊重したわけだが、まぁ何と言うか、相当なレベルで
(似合ってるよな)
という感想。ちょっとだけコスプレめいて見えるのは、彩音が同年代の少女に比べて若干大人びているからか? 若しくは単純に見慣れないからか? いずれにしても、あんな美少女と
(なんだか現実味が無いんだよなぁ)
いつまでそんな風に思っているつもりだ? と自分に突っ込みを入れつつ苦笑いになる。それで、バタッと助手席のドアを開けて中に乗り込んできた彩音から
「ただいま! ……迅さんどうしたの? ニヤニヤして……キモイよ?」
という感想を頂いた。自分では苦笑いのつもりが、傍から見ればただのニヤけ顔になっていたのかもしれない。
「え? あ、ああ、何でもないよ」
彩音はそんな俺を一瞥すると、まるで「いつもの事ね」と言った具合で、
「これからどうするの?」
と質問を投げかけてくる。
「う~ん、いつも通り、1つ穢界に寄ってから帰るか?」
「オッケー……でもその前に、ちょっと話したい事があるかも」
声のトーンを落とした彩音の言葉に、俺はちょっとだけ「ん?」と思った。
******************
彩音の「話したい事」とは、まぁ早い話が「相談事」だった。それで、その内容というのが「アタシ、もう少し攻撃面でも役に立てるようになりたい……かも?」と言うモノ。
それを聴いて、俺は「ああっ!」となった。
須田商会(スーパーバリューショップの運営会社)の須田専務御一行の訪問を受ける間際まで、俺も同じことを考えていた。その事を(今頃になって)思い出したからだ。
ちなみに、助手席の彩音は、運転中の俺が突然「ああっ!」と言ったものだから、相当驚いていた。「ちょっと、アタシそんなに変な事言った?」となるのは、まぁ、色々とボタンを掛け違っているから。
それで俺は、今日の午前に有った事や俊也に電話で聴いた話、そして彩音のスキルやクラスについて「同じことを考えていた」という点も合わせて彩音に伝える。
「5百万って、ちょっと想像つかない金額じゃない」
「だよなぁ……」
「で、迅さんはどうするの?」
「うん、俊也も『今の内に受けとけ』っていうからな」
「じゃぁ、受ける?」
「そうなるかな……でも、彩音はどう思う?」
「良いんじゃない? 稼ぎ時的な感じで」
そんな車内の会話をしつつ、車は本当に何となくの思い付きで行きつけのファミレスの駐車場へ入っていた。
******************
夕食時からは少し時間がずれているので、お店の中に他の客の姿はまばら。俺はドリンクバーを単品で頼み、彩音は完全に季節感を無視したマンゴーを使ったレアチーズケーキとドリンクバーを頼む。
それでオーダーがひと段落して、ドリンクコーナーから飲み物を取ってきたタイミングで、「どうしたらいいかな?」と切り出したのは彩音。まぁ、怪異との戦闘時に「攻撃面」でも積極的に状況に関わるために「どうしたら良いか?」という相談だ。
対して俺は、
「俺も、実はちょっと同じことを考えていてな」
「うんうん、そうなんだ……やっぱり昨日の事が切っ掛けな感じ?」
言いつつ彩音の言葉に頷く。それで彩音は「そっか」と言うと、小さく「アタシも」と言う。そして、
「最初は武器を変えるべきかなって思ったんだけど……せっかく迅さんに貰ったアレ、気に入っていたんだけど、流石に七等以降だと色々と足りない感じだったし……それに折れちゃったし」
そう言う彩音は申し訳なさそう。ちなみに、彩音が言う「迅さんに貰ったアレ」とは「桃の六尺棒」の事だが、実はアレ、別に彩音に上げた訳ではない。色々と行き違いがあった挙句に「返してくれ」と言い難くなっていただけだ。
(まぁ、そんな事、今となってはどうでも良いけど)
「でも、武器よりも先にクラス? なんじゃないかなぁって……迅さんはどう思う?」
彩音はそう言うと、ナントカティーを一口啜って上目遣いで俺を見てくる。ちょっと、そういう視線の使い方は可愛い過ぎて反則だと思うが、今は
「武器より先にクラスってのは、俺も賛成。実は俺もそう考えて――」
と、ここで俺は「スクにゃんAI」に相談を持ち掛けようとして中途半端に終わっている事を思い出す。
「考えて?」
「考えて……スクにゃんAIに質問しようとして……ほったらかしだった」
「ダメじゃん、相手、
「一応神様」って言い方もあんまりだと思うけど、確かにダメだろう。このままだと、俺のステータスの内、もともと低い「神威」が座布団のように全部持っていかれてしまう。
「ちょっと彩音……俺の替わりにQ&Aで呼び出して、謝ってくれない?」
自分でも驚くようなセリフが口をつく。これじゃ「まるでダメなオッサン」じゃないか。
「……そういうのは、自分で謝るもんだと思うよ?」
彩音のおっしゃる通りなので、俺は恐る恐るスマホを操作。「
******************
結論から言うと、スクにゃんAIはやっぱり、かなり
それで『今さら、何の用なのだ?』と来たものだから、俺は周囲の目を憚ることも忘れて、テーブルの上に置いたスマホに両手を突いて頭を下げていた(丁度、彩音が頼んだレアチーズケーキを運んできた店員には「変なモノ」を見る目で見られていたと思う)。
『吾輩の存在など、その程度のモノなのだ』
それでも機嫌が直らないスクにゃんAIに、俺は言い訳を口にしようとするが、その時点で目の前のスマホを彩音に奪われ、
「私の方からしっかりと言って聞かせますので、機嫌を直してください」
なんだ、君は俺の母親か? と言いたくなるような事を言う。果たして、
『む? この声は……彩音殿かな? うむ……あい分かったのだ』
アッサリと機嫌を直すスクにゃんAI。流石に対応の差に「え?」となるが、目の前の彩音は得意げにウインクなんかを送ってくる。それで、
「実はご相談がありまして――」
ちゃっかり、しっかり、そのまま自分の相談事を口にし始めるのだった。
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