Episode06-15 昔から「そう」だったはずなのに……
須田商会の須田専務一行には、一旦お引き取りを願った。
――当店に出来た穢界を浄化していただきたい――
というお願いに対しては、返事を保留した状態だ。
ちなみに「スーパーバリューショップ・与野店」の現在の状況は「営業停止中」とのこと。警察や行政による「措置」なのか、はたまた運営会社須田商会の判断なのか、とにかく自宅マンションから道路を挟んで直ぐ目の前にあるスーパーは昨晩の事件の後は営業を停止している。
まぁ、昨晩のような事件があった後だから、営業を見合わせること自体は仕方ない事だろう。例え無理やり通常営業をしたとしても、客も来ない(もともと少なかったけど)し、なにより従業員が嫌がるだろう。
それにそもそも、事件の原因が究明され、解決された訳ではない。
現在、「スーパーバリューショップ・与野店」の店舗内には4つの穢界が出来ている。これは、自宅マンションに居ても「
ただ、元々「穢界が群発」する場所だったので、俺や彩音にとっては便利な「稼ぎ場」だった訳だが、最近は出来ても「1日1つ、九等か八等」だったので、随分と勢いが戻ってきた感じだ。
ちなみに、4つの穢界の内訳は「八等」2つ、「七等」1つ、そして「六等」1つ。
このうち、「六等穢界」と表示されているモノは、以前は「七等」だった穢界だ。店舗内の事務所スペースの奥に存在していたのでずっと
おそらく、ずっと放置された「七等穢界」が何等かの切っ掛けを得て「六等」に昇格(?)したのだろう。どういう理屈か分からないが、とにかく、その昇格の余波で周囲に「怪異」が漏れ出た。それが、昨晩の事件の真相だと、俺は勝手に見当を付けている。
そして、
「あの六等穢界を浄化してくれ、って事だろうけど……」
俺は須田専務が言った言葉を頭の中で反芻する。曰く、
――勿論、お礼はさせていただきます。額は……――
言いつつ、須田専務は左手を開いた状態(じゃんけんの「パー」)で俺に見せたもの。その意味するところは、
――5百で……――
とのこと。まさか「5百円」ではないだろうから「5百万円」なのだろう。
対して俺は、ちょっと相手の言っている額に驚いてしまって、かえって無表情になったかもしれない。
だって、先月末の「扇谷高校」の事件の時も、あれは「六等穢界・開」という特殊な穢界だったが、
神様(一応な)がセットになった特殊な穢界だからこそ、報酬額は
まぁ、それでも十分に高額な報酬だと思うが、須田専務はそれを軽く上回る額をぶつけて来た。俺のような、元々生活に
正直に言うと「わっかりましたぁ!」と二つ返事で飛びつきたかったが、逆に額がデカすぎて慎重に……いや、包み隠さずに白状すると「ビビった」。
なので「少し考えさせてください」という返事になり、須藤専務の方は何か勘違いしたようで、
――これ以上となると、私も父……いや、社長に相談しなければ――
となった。
とにかく、そういうやり取りを経て、須田専務の御一行は「後日、改めてお伺いします」と言い残して帰っていた。
**************
「さて……」
何となく独り言をつぶやく。
これまで、報酬は穢界で得られた浄化ポイントを
ただ、そういった
「七曜会との絡みもあるかもしれないな」
とも思う。
「現世改め」を経た後の今、「七曜会」という嘗てのどマイナー団体の位置づけが変わってきているようだ。もしかしたら、俺のようなアプリユーザーや、それ以外でも「式者崩れ」が大半を占めるという会員にも何等かの規則が適用されるかもしれない。
「……どうしたものか……」
呟きつつ、何気なく
「そうだ……俊也に訊いてみるか」
と思い付くことが出来た。
******************
『ああ、迅か。どうした、何かあった? もしかして彩音ちゃんとケンカでもした?』
電話口の俊也はそんな感じ。少し前に電話をしたときは「それどころじゃない!」と若干切れ気味だったが、どうやら――
「そっちは、仕事忙しそうだったけど、ひと段落着いたのか?」
『ああ、まぁな……対応する法律が無いから、俺達は何にもできないし』
仕事が落ち着いたというよりも、一旦手放した感じだろうか? 「現世改め」の煽りで、怪異や穢界が絡む事件の通報が急に増えて、結果として「官房付き第四係」は、一時「空に舞い上がるほど」の忙しさだったらしいが、落ち着いたようだ。
『で、何かあったのか?』
と水を向けてくる俊也に、俺は「須田商会からの依頼」の件を話す。すると、
『ああ……その手の話か』
俊也の反応は「あ~ハイハイ」といった感じ。真剣に考えあぐねて電話をした俺からすると、ちょっと「ムッ」とするが、もしかしたら同じような話が沢山あるのだろうか?
『受けてもいいぞ。というか、今受けた方が良い』
そう言う俊也は、電話の先でちょっと小声になると、
『親友だから内緒の話をしておくけど――』
と前置きして、内情を話してくれた。
曰く、どうやら、俺が受けたのと同じような民間からの「依頼」が増えているらしい。それに伴い、既に報酬の受け渡しや、依頼の遂行具合に関して「トラブル」が起き始めているという。
具体的には、
また、高額な報酬の受け渡しが発生する点を「税務署」辺りが問題視し始めているとも教えてくれた。
それで、
『今、法整備が急ピッチで進んでいる――』
とのこと。
法整備の案は今の臨時国会に提出予定だとか。内容は既存の「七曜会」を前面に押し出し、その手の依頼を一括して取り扱う行政機関か独立法人化しようというモノ。
『何故今まで法整備がなかったのか? とか、政治家が怒鳴り込んできて大変だったけど、そんな事を言われもなぁ……』
認識的には「昔からそうだった」となっているが、実際は先月末の「現世改め」以降の話だから、まさに「そんな事を言われても」と言う話。なにやら、俊也の部署の一番上の上司が対応に追われていたらしい。
とにかく「七曜会」を前面に押し出して、民間からの依頼を一括して受ける。そして「七曜会」から依頼を受けることが出来る個人については「認証制」を採用する事も十中八九「そうなるだろう」とのこと。
『だから法整備が出来たら、自由に依頼の受託が出来なくなる。それに報酬もおそらく標準報酬的な基準が決められる。だから、自由に報酬額を決められる今の内にやっておいたほうが得だぞ』
ということ。
ちなみに、
『税金? そりゃ、こっちの管轄外なんで……知らん』
とのことだった。
******************
俊也との電話は、その後しばらく続いた。内容は主に「与太話し」的なものだったので割愛する。俺と彩音の進展については、別に言う事でもないので黙っておいた。そして、電話を切った後は、
「税金の申告か……」
ということで、俺は最近買ったノートPCを立ち上げてネットでその手の情報を調べる事にする。
「何か忘れている気がするけど……まぁ、必要だったら思い出すだろ」
この後、「忘れている事=へそを曲げたスクにゃんAI」を思い出したのは、彩音が学校から帰ってきた後だった。勿論、とても面倒な感じになった。
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