「Ｅ．Ｆ．Ｗ」 ～目付きの悪いオッサン予備軍の俺、謎のスマホアプリを手に入れて人生が変わりました～

Episode06-18 「忍者」クラスについて

　彩音の「新しいクラスへのビジョン」というのは何処か漠然としていた。「１人になってもある程度戦える」という目標めいたモノはあるのだが、そのために「何をどうする」べきかが判然としない。そんな感じだった。

　一方、俺の方はと言うと、別に彩音を積極的に1人で戦わせたい訳ではない。ただ、日常生活を送る上でどうしても「彩音が1人きり」の時間は発生してしまう。その時に、先日の「スーパーバリューショップ・与野店」で起こったような事件に巻き込まれてしまったとして、その状況から「何とか生き延びて、逃げ延びて欲しい」というのが俺の希望になる。

　勿論、これは彩音自身が決める事なので、優先されるのは「彩音の意思」だ。ただ、そんな彩音は「迅さんの考えは無視できないでしょ？」と、俺の希望を汲み入れるスタンスを取った。

　そのため、彩音をメインに俺も口出ししつつ、スクにゃんＡＩとの相談（Ｑ＆Ａ）を進めることになり、

――なんだか、妙に仲が良くなったのだ――

　というスクにゃんＡＩの勘繰りを躱しつつ、たどり着いた結論が、

――身を隠す術に長け、相手の動きを能（よ）く探り、いざとなったら戦う事も出来るが、窮地に陥ればスタコラサッサ……ズバリ、彩音殿には忍者をお勧めするのだ――

　という事。

　流石は名の有る神様の分霊だけあって、「スクにゃんＡＩ」の分析と選択は（多少というか、相当「和職」に偏っているけど）鋭い。

　とにかく、当の本人である彩音は「え～……忍者ぁ？」とちょっと不服そうだったが、俺は「賛成」の意思を示した。それで、

――まぁ、迅さんがそう言うなら……やってみる――

　となった。

　ちなみに「忍者クラス」は、能力ポイント３０が必要な初期職の「下忍」から始まって「中忍」「上忍」とステップアップするクラス。女性の忍者を指す「くノ一」という言葉にちなんだ女性職（「巫女」や「聖女」的なクラス）は存在していないとのこと。

　下忍クラスが持っているクラススキルは「下忍闘術」と「忍術」、更に一般スキルとして「遁走（逃げ足を強化するスキル）」「気配探知（そのまんまの意味）」「罠探知（これも、そのものズバリ）」の５つが付いて来る。かなりお得感が強いクラスだ。

――「気配探知」と「罠探知」は、盗賊系のクラスなら中位職にならないと取れない一般スキルなのだ、これが最初からついて来るのはお得なのだ――

　スクにゃんＡＩも妙に「お得感」を推していた（なので、不人気職なのかな？　と勘繰りたくなってしまう）。

　確かに、公式の掲示板では「伝説の９０」と同じパーティーに所属する「マンマン先輩」という（おそらく女性の）ユーザーが忍者クラスを習得していて、最初はソロがきつかったが、途中からパーティー内で斥候的な動きが出来るようになった、と語っていた（気がする）。

　とにかく、決まったら即実行という感じで彩音は「下忍」にクラスチェンジ。その一方、

――いま聴いた話ならば、彩音殿は中忍までステップアップしてから本来の「巫女」クラスに戻すのが良いのだ。というか、吾輩としては、このまま「巫女」クラスを突き詰めて「神女」の……いや、コッチの話なのだ――

　何やら「失言」的な事を言い残して、スクにゃんＡＩは画面の中からそそくさ（・・・・）と去っていった。

　俺としてはその時のスクにゃんＡＩの言葉が少し気になったが、画面からネズミのアイコンが消えると同時にログも消えた（ついでにＱ＆Ａを立ち上げるリンクも消えた）ので、追いかけて問い掛ける事が出来なかった。それに、

――ねぇねぇ、見て迅さん――

　早速「下忍」になった彩音がそう言って自分のスマホの画面を俺に向けてきたため、そっちに気を取られてしまった、というのもある。

　ちなみに、今の彩音の詳しい状態はこんな感じだ。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

桧葉埼彩音　１８歳　女性　Ｌｖ：1５

クラス：下忍★☆☆

身体障壁：２０４／２０４

法力：１５５／１５５

穢れポイント：０

状態：普通

浄化ポイント：２６４１

能力ポイント：３０

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

筋力　２８（＋２）

体力　２６（＋１）

敏捷　３２（＋３）

知力　３２（＋１）

霊力　３９（＋０）

神威　２９（＋０）

装備：

「桜が丘高校制服（冬）」「８MGOODSスニーカー」

祝福されたソード＆スピア（攻撃力２０　対霊１５　弱神聖）

無垢の千早（身体障壁＋３０）

身体障壁：２０４（＋４０）

法力　　：１５５（―１０）

クラススキル：

下忍の心得★☆☆

女武芸　　★★★☆☆

忍術　　　☆☆☆

巫女の心得★★★☆☆☆

祝詞　　　★☆☆

　　　　　岩長比売の慈愛

神楽　　　★★★☆☆☆

　　　　　「穂踏乃舞」「御垂水乃舞」「修祓乃舞」「唐獅子乃舞」「宇受賣乃舞」

スキル：

鼓舞★★★☆　疲労耐性★★★☆☆

遁走☆☆☆　気配探知☆☆☆

罠探知☆☆☆

神女★☆☆☆☆

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　スクにゃんＡＩの説明だと「下忍クラス」について来るクラススキルには「下忍闘術」というのがあったはずだが、彩音の場合は「女武芸★★★☆☆」と出ていた。恐らく「女武芸」の方が習熟度が高いから上書き（マージ）されたのだろう。

　一方「忍者と言えば――」的なスキルである「忍術」はというと、詳細を確認するためにスキル名を長押しすると、

忍術☆☆☆

　―臨事即用

　「臨事即用」という忍術（？）が使えるとあった。これは、

――アイテムの効果を引き出す、って感じみたい――

　という効果らしい。

　ちなみに、この「忍術：臨事即用」の効果は、今の「小骸穢」との戦闘の最後に彩音が使った「炎玉（えんぎょく）」の威力で良く分かった。

　「炎玉」は宝珠ショップで１つ１０宝珠で購入できる消費型のアイテムだ。似たようなアイテムに「氷玉（ひょうぎょく）」と「雷玉（らいぎょく）」がある。

　しかし、アプリを始めて間もない頃に俺も使ってみたことがあったが、俺が使った時の効果は……

（焚火に着火できるかな？　って程度だったけど）

　とても、戦いの真っ最中に使って「怪異」を燃やしてしまうような威力ではなかった。しかし、

「へ～、忍術ってなんか便利」

　彩音はスキルの効果を得て、「炎玉」が持つ効果というか威力というか、とにかくアイテムの真価を引き出した訳だ。

「あ、でも法力が減るのね、５減ってるよ」

　彩音が新しい発見を嬉々として伝えてくる。俺はそれを聴きながら、

（じゃぁ、俺の手製の呪符も効果が上がるのかな？）

　そんな疑問を持つ。後は、

（八等の雑魚がドロップするアイテムって１０宝珠で売れるから……収支はプラスマイナスゼロか、いや、１匹斃すと浄化ポイントが２ポイント入るから、マイナスにはならないけど収支は悪化するな）

　そんなセコい事も考えてしまう。

　まぁ、セコいと言っても、俺と彩音の場合は２人で「七等穢界」で十分稼げるので、特に問題にはならないが、これがＥＦＷ（アプリ）を始めたばかりのレベルが低い状態だったら結構痛いかもしれない。それに、

（これ、九等穢界でバンバンアイテムを使っていたら赤字じゃないか？）

　とも思う。それで、

（マンマン先輩って人、結構苦労したんだろうなぁ）

　なんとなく、見た事もないアプリユーザーの苦労を慮（おもんばか）ってしまうが、

「よし、迅さん次に行こう。アタシ、今日中に星１つ分は習熟したい」

　やる気満々の彩音の声で現実に引き戻される。

「わかった、でも無理はするなよ」

「もちろん。さ、行こう！」

　この後、点在する外灯の下を渡り歩き、小骸穢を斃しまくった結果、忍者クラスのスキル「忍術：臨事即用」について追加でいくつかの事が分かった。

　まず、俺が作った手製の呪符については、効果が向上することは無かった。また、「清めの塩」や「癒しのお札（小）」といったアイテムの効果も向上しない。どうやら、「○○玉」といった一部のアイテムにしか「臨事即用」のスキル効果は発揮されないらしい。

（まぁ、そりゃそうか）

　ちょっと残念だが、「こういうもの」だと諦めるしかない。