Episode07-27 中年男女の爛れた関係なんて、飯のおかずにもなりゃしない


 來美穂御前の登場が呼び水となり、食卓代わりの居間のテーブルに夕食のメニューが並ぶ。ちなみにメニューは……稲荷寿司がメインとなる薄揚げ厚揚げのオンパレード。


 この状況にオヤジが「なんで?」と母さんに小声で問いかけるが、この2人は今日来たばかりなので「のじゃロリ狐耳幼女來美穂御前」に関する事は知らない。だから母さんも「なんで?」と、こちらは視線だけで彩音に問い掛け、結局――


「迅さん、説明お願い――」


 と彩音からパスが回ってきた。


 なので、仕方なく色々と説明する俺。


 オヤジと母さんには……まず、エミの存在から説明を始める必要があった。それで、


――この子はエミ。エハミ様の分霊でずっと俺を霊的に守ってくれていた存在だ――


 と説明。「オヤジが爺ちゃんに魔除け的なものを頼んだ時からの付き合いらしい」と付け加える。そんな紹介を受けてエミは、


――迅のお父さんとお母さん……よろしく――


 普段通りの素っ気ない挨拶をするが、それを聴いたオヤジは当然ながら「エハミ様の……分霊!?」と驚く。うん、オヤジの驚いた顔なんて、初めて見たかもしれない。


 次に俺は「來美穂御前」を紹介。こちらは「分霊」とかではなく本物の神様。しかも「一等式家」の1つに数えられる(?)日野原家という家で祀られていた神様だ。


――うん? 迅の両親か? くるしゅうない、楽にしてたもれ――


 他人の家に勝手に上がり込んで、家主(爺ちゃん)そっちのけで「頂きます」も言わずに稲荷寿司を頬張っている幼女だから、威厳とかは感じられないが、それでも神様といったら神様だ。


 まぁ、一等式家と関わりが深い神様なので、「第四係」を率いるオヤジも当然名前くらいは知っているらしく、「あの日野原家の、クミホ御前……なんで、家に?」となっている。


 ちなみに「なんで家に?」というオヤジの疑問(というか呟きに近い声)には、


――彩音と白絹さんの受験勉強場所として神界を提供してくれてる。エハミ様のコネって話らしい――


 と説明。そして、まだ納得がいっていないようなオヤジに、


――それで、この人が彩音。まぁ、その……彼女だ。一緒に住んでいる――


 ここだけちょっと恥ずかしいが、事実だし、誰かに後ろ指を指されるような話でもない。まだ高校3年生だけど、18歳だし、成年だし……うん、大丈夫。


 ちなみに、彩音については「現役高校生」という事と「一緒に暮らしている」という事実があるので、「なんでだ? 彩音さんのご両親は?」となるのが自然だが……その辺のまどろっこしく・・・・・・・、また説明して不愉快な気持ちになるばかりの経緯は事前に母さんが話してくれていた模様。


 なので、


――そうですか、迅の父の賢といいます。いつも息子がお世話になっています。色々と粗忽な男だと思いますがよろしくお願いします――


 思わず「アンタに粗忽そこつとか言われたくないよ」と言いたくなるが、我慢。とにかく、実に父親らしい挨拶をしてくれた。


 その後は白絹嬢を紹介し(彩音と同じ学校に通っていると聞いて驚いていた)、ひと段落ついたところで、「頂きます」となった。


 ちなみに、その時点で大盛に盛られた稲荷寿司の半分は來美穂御前の胃袋に収まっていたが……まだまだお替わりはあるようだった。


******************


 夕食は結構大人数でテーブルを囲んだので、わいわいと賑やかな感じになる。爺ちゃんも婆ちゃんも「まるで自分の家じゃないみたいだ」と言っているが、嬉しそうなので良かったのだろう。


 それで、來美穂御前が「ご馳走様なのじゃ、妾は帰って寝るのじゃ」と言い残して忽然と姿を消す。ちなみに、明日予定している「マカミ山鼬さんゆう」退治については大雑把な予定時刻を伝えると、「妾は現地に直接出向くのじゃ」との事だった。


 とにかく來美穂御前が帰った(?)あたりで全員満腹っといった感じになる。その頃合いを見計らって、


「それでさ……ふたりって、どうなってるの?」


 質問を飛ばすのは俺。


 ちなみに「ふたり」とはオヤジと母さんの事。現在、オヤジは「秦角」姓を名乗っている一方、母さんや俺は「八神」姓を名乗っている。まぁ、早い話「離婚」した元夫婦がこの「ふたり」なワケ。


 ちなみに、この2人が離婚したのは……俺が高校2年の時だから、もう10年も前の話。俺が小さい時はオヤジの仕事の都合で数年おきに「引っ越し」があったが、中学に入った段階でオヤジは「単身赴任」に切り替えていた。それで、すれ違いが増えて「離婚」に至ったというのが俺の認識。


 しかし、実際は


「うん……まぁ色々ある……というかあったんだが……」


 オヤジの方は言い難そうだが、


「法律的に言うと、今は内縁関係ね」


 母さんの方はあっけらかん・・・・・・として言うような状況らしい。


そんな母さん曰く、


「迅が中学に入った辺りで、お父さんの仕事が忙しくなって。でも高校受験もあるし、転校なんてしたら迅も大変だから単身赴任してもらったの。それでね……まぁ色々とすれ違って離婚になったんだけど――」


 ほぼほぼ俺の認識通りの説明をする母さんだが、


「ほら、迅が大学卒業する時に私が倒れた事があったでしょ?」


 と言う。これは確かに「その通り」だ。過労やらなんやらで母さんが倒れたのは、丁度俺が就職活動をしていたころと重なる。あの当時は「就職活動を頑張りなさい」という言葉に従い、入院した母さんの面倒を余り見る事は出来なかった(ちなみに就活の結果は……1年浪人して田村警備保障だったけど)。


 その間に


「お父さんが色々としてくれて……」


 元夫として、元妻の「入院」を知ったオヤジが甲斐甲斐しく世話をしたらしい。それで、


「元々、母さんには爺ちゃんや婆ちゃんの世話を頼んでいたからな」


 と言い訳がましく照れ隠しをするオヤジは横に置いておくとして、


「お互い、もう歳だから……何かあったら助け合わないといけないでしょ? それでね」


 まぁ、早い話が当時の看病を切っ掛けに「元の鞘に納まった」と言ったところ。


 それはそれで、中年男女の物語としては「ハッピーエンド」なモノだろう。現に彩音や白絹嬢は「素敵な話ですね」となっている。


 ただ、何となく納得がいかない俺は、


「でも……そうならそうと、なんで言ってくれなかったの?」


 と不満半分・疑問半分の声を出すが、


「そりゃ、私にだって恥ずかしくて言い難い事だってあるわよ」


 との返事。


 それでオヤジの方を見ると、あからさまに目を逸らされた。


 結局、俺は何となく「釈然としない」気持ちのまま、


(オヤジはともかく、母さんがそれで良いなら……良かったんだろう)


 と思う事にするのだった。


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