Episode07-28 マカミ山鼬① 秦角家御一行様


 翌日、この日は「マカミ山鼬さんゆう」の討伐日。事前に爺ちゃんと俺で話していた計画(と言うほどのモノでもないけど)では、正午に家を出発し、現地着が午後の1時。その後は流れ次第だが、なんとか


――日暮れまでには終わらせよう――


 となっている。事前に入念な下準備を行っているので、相当「力」は弱まっているだろうが、それでも相手は「名の有る怪異ネームド」だ。穢界で怪異に対峙していると余り意識しない事実だが、やはり「怪異」は逢魔の時を経て夜の時間に移ると力を強めるもの(爺ちゃん談)。


 だから、「日の出ている内に――」というのが一般的なやり方・・・らしい。


 とにかく、予定としてはそういう感じ。


 それで参加メンバーはと言うと、当初は爺ちゃんと俺の2人の予定だったが、來美穂御前くみほごぜん


――山鼬やまいたちといえどもわらわの眷属、その行く末は見届けたいのじゃ――


 と(ややこしい事を)言い出し、その流れで「せっかくだから彩音と麗華にも見学させるのじゃ」となった。


 そのため、この時点で参加者は爺ちゃん、俺、彩音、白絹嬢の4人+來美穂御前の1柱……いや、エミもついて来るらしいので総勢6人となる。


 そして、挙句の果ては今朝の朝食の席。そこで、


「父さん、オレも行く」


 突然オヤジがそう言いだした。


 その言葉に俺は「え?」となったが、それ以上に驚いていたのは爺ちゃんだった。


 というのも、オヤジは「秦角」という家の式者としての役割を継ぐことを拒否した男。それがどんな考えに基づく決意だったのか、そこまで俺は聴いていないが、「面倒臭そうだから」とか「時代遅れだから」とかいった甘っちょろい考えではなかったのだろう。オヤジがそういうタイプの人間でない事くらいは、流石の俺でも分かる。


 勿論、それは爺ちゃんも一緒。いや、寧ろこの2人は親子だから、当時はどんなやり取りがあったモノか……以前に爺ちゃんがサラッと語っていた以上の葛藤や軋轢、衝突が有ったと思う。だからこそ、


「賢……お前、一体どういう風の吹き回しだ?」


 爺ちゃんの言葉には、何とも言えない感情が籠っていた(と思う)。


 一方、それに対するオヤジの答えはひと言。


「迅が行くからだ」


 とのこと。


(人を勝手に出汁に使うなよ)


 と思ったが、妙に真剣な(つまり目付きがコワイ)顔だったので気圧されて口出しできなかった。


 とにかく


――迅さんとお爺ちゃんとお父さんって、3人揃って真面目な話をすると雰囲気がコワイのよ――


 と後日彩音が冗談めかして話していたように、朝食の席は気まずく沈黙。ほとんど睨み合っている爺ちゃんとオヤジだが、遂には


「……好きにしろ」


 爺ちゃんが折れた。


 そして俺は、


(全員乗れるかな?)


 移動手段の心配をした。


******************


 出発までの午前の時間は慌ただしく過ぎた。


 まず、見学としてついて来る彩音と白絹嬢だが、見学といっても下準備的に出来る事があるらしい。白絹嬢曰く、


――地形的に「四神相応陣」を作っても効果が薄いと思われます、だからここは三合の秘術を応用し、社を中心として「みつじに陣」を敷きましょう――


 とのこと。


 俺からするとサッパリちんぷんかんぷん・・・・・・・・の話だが、意外な事に爺ちゃんも


――うむ、それは……儂も良く知らない陣だな――


 とのこと。すると、


――この場合は山の中だから死木は除いて……うしたついぬの三方かな?――


 と割って入るのは彩音。俺は思わず「え?」という顔で彩音を見たものだが、彼女は彼女で「どやっ」とした顔で見返してくる。


(クミホ御前の神界で……受験勉強してるんだよな?)


 なんだか、別の方面の勉強に精を出している気がしないでもない。


 と、俺がそんな心配をしている傍ら、横から割り込んで来たオヤジが、


――なるほど、とにかく相手の精気を弱める意味の三角陣か……しかし本来の作法からは外れている。これでは不安定なのではないか?――


 こっちはコッチで「あんた、式者辞めたんだろ!」とツッコミ待ちか? と思うような訳知り顔の解釈を垂れるオヤジ。


――たぶん、短期的に効けばいいから不安定さも力に変える感じ? そうでしょ、麗ちゃん?――

――そうよ彩音、そんな感じ――


 そんな会話に爺ちゃんも「なるほど」と頷いているので、結局分かってないのは……嗚呼、俺1人也。


――大丈夫、迅は力で解決できる――


 そんな俺をエミが珍しく慰めてくれた。


******************


 とにかく、そんな感じの「作戦会議」を経た結果、現地でやる事が増えたので「少し早めに出よう」となり、準備は慌ただしく済んだ。


 ちなみに、爺ちゃんは婆ちゃんに手伝ってもらい「正装」を決めている。それは、


(ああ、見た事あるなぁ、その恰好)


 という平安貴族風の衣装。正式には「狩衣」と言うらしい。その装束に身を包み、腰に刀をぶら下げるのが爺ちゃん流の「正装」となる。


 見た目が「ゴテッ」っとしているが、爺ちゃん曰く


「動きやすいし、破魔の力が籠っているから見た目以上に頑丈じゃ。問題は……車の運転がやり難い事くらいだな」


 とのこと。


 どうやら、運転がやり難いので「迅を運転手代わりに」という思惑もあったらしいが、今は思惑を遥かに超える「御一行様」になっている。なので、


「車割りは……オヤジが爺ちゃん乗せて軽トラで、他は俺の車で――」


 となる。ちなみに、全員乗れるか? と心配していたが、よく考えれば來美穂御前は現地集合だった。なので、俺のヴィッツには彩音と白絹嬢とエミの3人が乗る事に。


(これで、婆ちゃんが付いて来るなんて事は無いよな)


 という心配もあるにはあったが、これは取り越し苦労だった。


「さっさと済ませて帰っておいで」


 と言う婆ちゃんと


「アナタ……気を付けてね」


 と妙に夫婦っぽさを出す母さんの2人は玄関先で俺達を見送ってくれた。


 ちなみに、出掛けに婆ちゃんが「カンッ、カンッ」と白木で作った真新しい拍子木を打ったが、これは


「清めと魔除けじゃな……力を籠めて打つと、あれだけで弱い怪異は退散する」


 とのこと。俺としては「火の用心――」という感じの連想になるが、それも


「夜の触りを祓うという意味では、その通り」


 ということらしい。


 とにかく、そういうやり取りを経て、「秦角家御一行様」は2台の車に分乗し、一路目的地である茅野市外れの山の奥を目指すのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る