Episode06-31 傀儡
その怪異の姿は異様だった。
まぁ、これまでも
肌色で陶器の
同じ「造り物」ならハニ〇君も素焼きの
色々とデフォルメされた造形を持つハニ〇君に対して、この「デッサン人形」は極力身体的な情報を削ぎ落し、きわめてシンプルな外観をしている。そのシンプル過ぎる外観のままサイズは等身大。そして身体の動きも「カクカク」しているくせに素早い。
その結果、
「なに、アレ?」
と彩音が不快感を伴った声を出すように、極めて不気味な「怪異」として目に映る。
「あれは、くぐつ?」
対して白絹嬢は正体を知っているような言葉。「くぐつ」というのは「
と、こんな風に初見の怪異「傀儡」に注意を奪われている間にも、目の前では小鬼太郎がピンチに追い込まれている。
ちなみに「使鬼」である小鬼太郎は、たとえ怪異にやられたとしても、1日くらいのインターバルで再度召喚することが出来る。これは、俺が1人で「七等穢界」に行っている時に(ちょっと油断した結果)分かった事実だ。
だから、このまま放っておいても良いのかもしれないが……
(なんだか、彩音が非難めいた事を言っていたな)
と思い出して、放置する事を思いとどまる。
「小鬼太郎、戻れ!」
俺の声に従い、小鬼太郎の姿はスゥっと急速に薄くなり……掻き消えるとほぼ同時に、
――ドカッ
傀儡が放った蹴りが、つい一瞬前まで小鬼太郎が居た場所に突き刺さった。
******************
小鬼太郎の多大な犠牲(別に死んでないけど)の結果、俺達は通路の角で4匹の
距離はおよそ10m。その距離でお互いににらみ合うような空白の時間が訪れた。
その間、俺は考える。
第一印象が大きな「デッサン人形」だった傀儡は4匹そろって素手だが、先ほどの攻撃を見るに殴る蹴るが攻撃手段なのだろう。カクカクとした操り人形的な動きにもかかわらず、動作が機敏で
(これは……接近されると厳しいか?)
俺はともかく、彩音や白絹嬢は近接戦闘に持ち込まれると苦戦するかもしれない。
ということで、
「呪符術主体で!」
俺は白絹嬢に向かってそう言いつつ、無地の呪符を数枚取り出し、
「破魔符!」
を放つ。
しかし、
――バチンッ!
普段ならば、もっと鈍い音と共に怪異の身体を吹き飛ばす威力を持つ「破魔符」。それがまるで弾かれたようになってしまう。
「破魔符!」
斜め後ろから白絹嬢の「破魔符」が放たれるが、こちらも同じ様子。これって、つまり――
「効かないの?」
白絹嬢の驚いた声が示すように……こちらの呪符術が効かない?
(いや……少しは効果があるか?)
よく観察すれば、俺の「破魔符」が被弾した箇所はクモの巣のようなひび割れが走っている。だから全く効果が無いというよりも、
現に俺の「ARグラス」に表示される「
――クグツ・ランク6・sp緑〇――
となっている。「緑色の〇印」というのは、怪異の残りの体力的な表示だが、全く無傷の場合と比較して、今は緑色が少しだけ「黄緑色」に変化している。
(それにしても、また「sp」の表示か)
前回の扇谷高校での事件の際も、出現した「鏡鬼」と言うヤツがsp(たぶんスペシャル的な意味)の表示を持っていた。それの意味するところは、たぶん「特殊」という事だろうから……
と、俺がそんな風に考えている一方、
――カタカタカタ
「破魔符」を耐えきった傀儡側は一斉にこちらへ向かって動き始めた。幸いな事に廊下はそれほど幅が広くない。だから、一度に相手にする数は2匹に制限されるが、それでも、
(なんか、怖……)
見た目がそのまんま「怪物」な他の怪異よりも、この手の無生物っぽい相手の方がよっぽど怖く感じるのは、ちょっとした「新しい自分の発見」かもしれない(全然うれしくないけど)。
とにかく、そうやってビビッていても始まらない。背後に彩音と白絹嬢が居るので、後退する訳にもいかない。
(仕方ない!)
会敵した時から「やる事」は決まっていた。そう考えて、俺は腰の「須波羽奔・形代」を鞘から抜くと、抜いた動作のまま、取り敢えず1匹を逆袈裟に斬り上げる。
間合いは十分。神気
(え?)
剣は狙い通り傀儡の片腕を切り飛ばした。しかし、その手応えは想像以上に重たい……いや、硬いものだった。更には、
――ギンッ!
そのまま剣先が傀儡の胴に届いた瞬間、今度は赤っぽい火花が飛んだ。
(なんだ?)
驚いたが振った剣を途中で止める訳にはいかず、最後まで振り抜く俺。感覚としては分厚い鉄板を斬った感覚(試したことなんてないけど)に近い。
結果として、今の一撃を受けた傀儡はわき腹から胸に渡るザックリとした傷を負いつつも、それで終わることなく、
――ブンッ
健在だったもう片方の腕を振り回して反撃を仕掛けてくる。
「――っ!」
寸前の所でその反撃を掻い潜り、結局後ろに下がって距離を置く俺。ただ、敵の数は1ではなく4。通路の幅に規制されても、2匹同時に相手をする必要がある。
――ギンッ
次の瞬間には、別のもう1匹が陶器に似た腕をこん棒のように叩きつけてたので、やむを得ず剣で受け止める。
結果として更に後退を余儀なくされる。背後では彩音と白絹嬢も慌てたように下がった事が気配となって伝わってきた。
ただ、そうだとすると剣の問題ではなく、単純に俺の攻撃が
(どうしようか?)
現状を打破するには霊剣技、つまり「破魔符」を用いた「破魔剣」を使う必要がありそう。流石にあの威力ならばなんとかなる気がする。
この先も、傀儡のような「硬い怪異」が出てくるならば、毎度毎度「破魔剣」を使うことになり、それはそれで燃費が悪い。しかし、
(そうは言ってられないか――)
という事で、俺は呪符を取り出そうとする。
ただ、こんな感じでガッツリと対峙した状態で、たとえAR装備は操作が素早いと言っても、ショートカットボックスから呪符を取り出す動作を
――カタカタ
その瞬間を隙と見て、2匹同時に突っ込んでくる。
「くそ」
果たして、呪符を取り出すという目的すら達成できずに更に後退する俺。
端的に言えば、最初から状況を見誤っていた。ちょっと「怪異」という存在を甘く見ていたのかもしれない。結果として天狗になった鼻をへし折られるような状況に突然陥ってしまう。
「鬼眼」スキルで相手の動きは先読みできるが、それでも動作が素早いために反撃を差し込むことが出来ない。
(油断した)
そんな思いを後悔と共に嚙み締めた次の瞬間だった。
「アタシも!」
何を思ったのか彩音が「ソード&スピア」を突き込みながら、加勢に加わろうとした。
――ガシッ
彩音の突き出した槍状の剣先は、丁度俺が斬り傷を付けた方の傀儡の腹に突き刺さる。
しかし、傀儡は自分の腹に突き刺さった槍を掴むと、そのままグイと手元に引き寄せるように引っ張る。勢い、
「あっ」
という声と共に、
そして、別のもう1匹が、その彩音目掛けて硬い腕を振り上げるのだった。
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