Episode04-24 幕間話 文化祭準備委員


桧葉埼彩音ひばさき・あやね視点]


 夏休み明けに発覚した「詩音の失踪」「浩二の失踪」「隆司の死」という出来事によって一時的にザワついた感じになった私の学校生活は、あれから半月以上経過した現在、少しずつ落ち着きを取り戻していた。


 まず行方不明になった「詩音」と「浩二」については、2人が以前から付き合っていた事もあって、


――2人で駆け落ちした――


 という感じの「決め付け」というか、レッテル張りというか、とにかく「そういう事」になった。


 次に「隆司の死」については、一瞬だけ「私(彩音)にフラれたショックで自殺した」という噂が流れたが、その噂は直ぐに


――隆司のヤツ、桧葉埼を襲って失敗して、それでビビッて自殺した――


 という風に変わった。


 どうやら夏休み期間中に、失踪前の浩二や詩音がそんな事実を周囲に漏らしていたみたいで、それが時間差で周囲に伝わった結果、先の「フラれて云々うんぬん」という噂を強く否定するように作用した感じ。


 噂の後半の「ビビッて自殺した」はどうか知らないけど、とにかく隆司が「死んだ」事は事実。休み明け1週間ほど経過した時に担任の先生がクラスルームでそう告げていた。死因は「事故死」とのことで、「自殺ではありません」と強調していた(ついでに「悩みがある人はスクールカウンセラーに相談して」とも言っていた)。


 とにかく、こんな感じで夏休み明けに起こった「事件」は、3人の登場人物にそれぞれ「結論」が付けられ、結果として徐々に話題に上ることもなくなっていく。


 特に、今は私達のような「高校3年生」には変化が多い時期だ。高校生活も残すところあと数か月。高卒組は就職活動に、底辺高校だけどそれなりの数が存在する大学受験組は受験勉強にいそしむ。学年全体が浮足立っている感じなので、噂が過去の話になるのも早い。


*******************


 ちなみに、私の立ち位置は「高卒組」だけど、実は最近しきりに「大学進学」を勧められている。それも担任と進路指導の先生の2人掛かりだ。どうやら、夏休み明け1発目の「学力試験」の成績が良かった事が原因の模様。他にも「髪型を変えた」とか「服装がまともになった」とか、その辺も考慮されているみたいだけど、とにかく「受験しろ」「大学行け」とシツコイ。


 でもまぁ、確かにテストの結果は自分でもびっくりするくらい良かった。これまでの私は、家庭環境がアレ・・だったので、大学進学はとっくの昔に諦めていた。ただ、勉強が出来ないお馬鹿さんになるのも嫌だった。なので、大学進学はしないけど、そこそこ授業は聴くしテスト前にはそれなりに勉強するタイプだった。


 それでも学力テストのような全校順位が分かるテストで、私の順位は半分よりも下。「中の下」といった成績だった。それが、今回のテストで「中の上」。具体的に言うと100番の壁を破って81番になっていた。


 実は、テストだけじゃない。普段の授業も何となく「分かり易く」感じるようになった。なんというか、全体的に物事に対する理解力が上がった感じ。


 更に言うと、変化は勉強だけじゃなく、体育の授業といった身体を動かす方面にも表れている。それを実感したのは少し前の体育の授業での事。50m走をやった時に「変な記録」を出してしまった。たしか「6秒ちょっと」といった記録。なんでも「日本記録レベル」とのこと。


 勿論「計測ミスだろ?」という話で、再計測(つまりもう一度走ること)になり、その時はもう十分に自分の変化を「察して」いたので平凡に8秒(これでも女子では速い方らしい)ちょっとにした・・


 どうやら、私は頭の方も体の方も能力が上がっているらしい。その原因は……まぁ、悩む必要も無いくらい明らかに「EFWアプリ」の恩恵だろう。


 一度迅さんに相談してみたところ、


――ああ、やっぱりそうだよな――


 と言っていたので間違いない。まぁ、迅さんも引っ越しの時に冷蔵庫を片手で持っていたりしたので実感があるらしい。


――俺は目立ちたくないから普段は抑えている――


 迅さんがそう言うので、私もそうする事にしている。


 ただ、それでも目立ってしまうのか? それとも別の理由なのか……多分別の理由が原因だけど、いつの間にか私はクラスの「ギャルグループ」からハブられるようになった。


 ちなみに、夏休み前までは私もその「ギャルグループ」に属していた。ただ、私は(自分でも自覚があるけど)「斜に構えた」態度で、それほど仲良く交流していた訳じゃない。だって、休みのたびに「ウリで幾ら稼いだ」とか「パパに何々を買って貰った」とか「彼氏と一緒にオッサン脅したら10万貰えた」とか、そんな話を自慢げにしている子たちだ。


 だから、付き合いは詩音を介した表面的な「オトモダチ」関係に留まっていた。


 それが、詩音がいなくなり、私自身にちょっとした変化があった結果、


――服装や髪型が真面目になった――

――突然、勉強できる子になった――

――学校の送り迎えを彼氏にさせている――

――ていうか、彼氏と同棲しているらしい――


 最後の2つは事実誤認(迅さんは「彼氏」じゃないし)が混じっているけど、とにかく「前と違う」「なんか変わった」といった理由で「ギャルグループ」から裏切者とでも思われたのか、ハブられることになった。


 ただ、私としても彼女達とはそんなに仲良くしたくなかったので「ハブり」は全然問題がない。むしろ、話す必要が無くなって楽になった気がするくらい。それに「ギャルグループ」と距離が出来た結果、普通の子たちと仲良くなって、こっちの方が居心地が良いくらいに感じている。


 しかし、ギャルグループの方は私が一向に気にしていない事に「ムカついた」のか、結託してセコイ嫌がらせを仕掛けてきた。それは――


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「――桧葉埼ひばさきさんが良いと思いま~す」


 クラスルームの時間。今日は来月末の「文化祭」に向けて「準備委員」を決める事が議題になっていたのだけど、普段は仲間内でダベっている「ギャルグループ」の1人がそんな事を言い出した。


 ちなみに、担任の先生は「自薦の立候補者」が居ない事を見越して「くじ引き」の準備をしてクラスルームに臨んでいるみたいだけど、


「アタシもそう思う」

「さんせー」

「彩音がやればいいんじゃね?」

「やりなよ、やりたいって言ってたじゃん」


 普段はクラスルームの時間に非協力的な面々が、次々にそう言うものだから驚いた顔をしていた。


 「ギャルグループ」のたちが悪いところは、声がデカい事、態度がデカい事、ヤンキーグループ(隆司とか浩二とかのグループ)と絡んでいる事。そして、意外と彼女達に「取り入ろう」とする層が居る事だ。その結果、


「もうそれでいいだろ」

「そうしようぜー」

「さんせー」


 クラスの3分の1が流される感じで彼女達のデカい声に賛同。


「ちょっと、勝手に決めるなって――」


 という私の声は見事にスルーされ、担任までもが


「そうね、桧葉埼さんがやってくれたら皆も協力すると思うわ――」


 と言い出す始末。


 結果として、ルール無視の多数決で「3組の準備委員は桧葉埼」に決定してしまった。


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