Episode04-18 協力者
「EFWっていうアプリ、二人ともそれのユーザーだろ?」
たぶん「鳩が豆鉄砲食らった」顔になっている俺と彩音に向かって、俊也はそう言い直した。そして、
「実はさ、僕もユーザーなんだよね」
爽やか笑顔でサラッとカミングアウトする。しかも、
「それで、警察の中でも
とのこと。
俺の記憶によると、俊也は地方公務員として埼玉県警に就職(でいいのか?)したはず。しかし今は、
「今? ああ、県警じゃなくて警察庁の所属だから一応、国家公務員だよ」
出世と言うか、クラスチェンジと言うか、とにかく所属ごと変わっているらしい。
「一条さんて、スゴイんですね」
一方、彩音はそんな感じの反応。ちょっと目が輝いているような気がするが……まぁ、アプリユーザーで警察関係者で国家公務員なイケメンが相手なら、そんな反応になっても仕方ないかもしれない。
「凄いなんてことないよ。ずっと下っ端だし、全国アチコチを飛び回らないといけないし、意外と危ない事も多いし……そりゃ、給料はちょっと増えたけどね」
対して俊也は、苦労話とも自慢話ともつかない事を言う。
と、ここで
「――お待たせしました」
頼んでいた料理がテーブルに届いたので、一旦会話を区切って食事タイムになった。
*******************
食事の間、俊也は(主に彩音に向かって)「そっち系の部署」で経験した色々な事を語っていた(守秘義務とか大丈夫なのだろうか?)。勿論、多少脚色したりボカしたりしているだろうけど、元々話の上手いタイプのヤツだから、彩音は「そうなんですか」とか「凄いですね」とか一々相槌を入れつつ聞き入っていた。
一方、俺はそんな様子を横目に見ながら、少し不貞腐れたような気になる。
片や国家公務員、片やローンも組めない無職のオッサン予備軍、比べること自体が
だからだろうか? 食事が終わったタイミングで、
「――そういえば、なんか話があるんだろ?」
と切り出した俺の声は、まぁ自分でも分かるほど不機嫌なものだった。
しかし俊也はどこ吹く風。普段通りの爽やかスマイルで、
「え? ああ、そうだった。ついつい話し込んじゃったよ……えっとな、迅が相手だから妙な駆け引きは無しで、単刀直入に言うと、質問が1つとお願いが1つだ」
とのこと。
「うん……で?」
「まず質問だけど、迅、お前『穢れポイント』を無視して危ない事をしていないだろうな?」
「は? どういうこと?」
「ここに来る前に、迅のアプリの情報を開示してもらったんだよ、まぁ一部だけしか見られないからスキルとかステータスとかは分からないんだけど――」
俊也の言葉に、内心「へぇ~」となる俺。まぁ、警察関係なら「
と、俺がそんな事を考えている間にも俊也の「質問」は続く。
「アプリ起動から2カ月でレベルが15ってのが、まぁ大概におかしいけど、累積『穢れポイント』もぶっ飛んだ数字だぞ、お前」
「そうなのか?」
「『そうなのか?』じゃないよ迅。お前さぁ、『穢れポイント』が溜まった状態で穢界に入っているだろ? 親友として忠告するけど、ものすごく危険な事だから、絶対に止めろ」
「……」
「それに、彩音ちゃんの情報もさっき手に入ったから見たんだけど、彼女も起動から1カ月半でレベル12だ。
どうやら俊也はまだ俺が彩音と付き合っていると勘違いしている模様。まぁ、先程警察署を出たところでちゃんと説明できなかったから仕方ない。でも、隣から俺の方へ、何とも言えない視線を向けて来る彩音には
(後でちゃんと、俊也が勝手に「誤解している」と説明しないとな)
と思う。
一方、俊也が言いたい事については、まぁ分かった。つまり「常識的な基準」から逸脱した俺や彩音の成長速度(イコール「穢れポイント」の累積量)を心配しているのだろう。確かに、「
俊也は親友としてその事を心配し、忠告してくれただろう。しかし、
「いや、流石に最近はゼロにするのは難しいけど、それでもなるべく一桁にしてから穢界に入っているぞ」
事実が
「……お前なぁ、そんな嘘をつくなよ」
ただ、常識的な視点から物を言う俊也には、なかなか信じられない話かもしれない。なので、
「じゃぁ、これを見ろって」
言いつつ、俺は自分のスマホを俊也に差し出す。表示されているのは「
ちなみに、
「見たか?」
「あ、ああ……でも、たまたま今日は入って無いんじゃないか?」
「あのなぁ、じゃぁなんで俺は今日逮捕されたんだよ」
「あっ……そ、そうか……」
「オンサイトログも見るか?」
俊也は「うんうん」と首を縦に振るので、一旦スマホを取り返して「オンサイトログ」のページを表示させる。そこには、今日一日の活動が時系列で並んでいる。見れば今日の午前に「七等」へ行き、それを浄化した後に「八等」も浄化しているのが分かるだろう。
それで、もう一度スマホを覗き込む俊也は……今度は露骨に驚いた顔をした。
ちなみに、学生時代の俊也は「いつも爽やか好青年」で且つ、常に正体不明の「余裕感」を漂わせていた男だった(なので女子にモテた)ので、ここまで露骨に驚いた表情をするのは珍しい。
そんな俊也がスマホから顔を上げると、
「迅……お前、一人で七等に入って、それも浄化しているのか?」
と問い掛けて来る。どうやら、俊也が驚いたのは「穢れポイント」が本当に減っている方ではなく、午前に入った「七等穢界」の方だった模様。
「そうだよ。最近は毎日1度は七等へ行って浄化している」
「彩音ちゃんも同じ感じか?」
「彩音の方は――」
「私は平日は学校があるから、夜だけって感じ?」
「という事だ」
「……どうなってるんだ、お前ら?」
俊也は変なモノを見るような視線で疑問を向けて来る。
「俺も良く分からないんだけど、多分、穢れポイントは俺に加護をくれている神様が食べている……みたいな?」
対して俺は、彩音から感染した「半疑問形」で答える。
「神様の加護って……しかも穢れを食う?」
対して俊也は絶句すると、しばらく考え込むような感じになる。そして、
「分かった……いや、分からんけど、もうこの件は良いわ。疑って悪かった」
言って軽く頭を下げてから、
「それで次のお願いなんだけど――」
と話題を2つあるうちの残りの1つの「お願い」に移す。そして、
「こっちも単刀直入に言うんだけど、迅、『協力者』になってくれないかな?」
なんとも、面倒臭そうな事を言い出したのだった。
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