Episode01-07 共闘関係
女性の身体は柔らかい。
そんな言葉を俺は伝説の
「うげぇ!」
という俺の声と、彼女の「きゃぁ」という悲鳴が重なる。そして、男性用トイレの隅で折り重なる俺と彼女だが、先に起き上ったのは彼女の方。
「なんで一発で仕留められないのよ……もっと霊力を上げなきゃ」
そんな事をブツブツと言っている。そして、
「……ところでアナタ、どなたですか?」
とのこと。
もっと先に言う事があるだろう? と思いつつも、俺は
「ゲホッ、げぼっ……ガードマンです」
正しく自己紹介をする。対して彼女は、
「いつからそこに?」
「げほっ、貴女が入って来るちょっと前からです」
「何をしていたんですか?」
「し、仕事です……けど?」
彼女の問いに答えつつ、俺も立ち上がる。
その間に俺は彼女の姿を確認。驚いた事に彼女は女子高校生の夏服制服を着た(これがコスプレでなければ)女子高生だった。今時はかえって珍しいセーラー服タイプの制服だが、俺の知る限り、この辺の高校ではなさそう。
ちなみに、彼女の体付きは線の細い感じ。ちらちらと彼女の肩の上を浮遊する謎の光源に照らされたお顔の方は、「アイドルグループの一員みたい」という形容詞が失礼なほど幻想的に美しい。動きやすさ重視の飾らない
一方この間、彼女の方も俺を凝視していた。ただ、「イケメンね」などとは思われなかっただろう。その証拠に、
「もしかして、何処かの式家の方ですか?」
そんな変な質問が飛んで来た。
「しきけ? いえ、俺は田村警――」
「じゃ、じゃぁ、もしかしてEFWのユーザー?」
とここで、彼女の口から気になる単語が飛び出す。それで、俺は反射的に、
「EFWってもしかして――」
言いつつ、胸ポケットのスマホを取り出そうとするが、
「あ、それが分かるならもう結構です」
彼女の方からいきなり「ピシャッ」と会話の扉を閉められた。まるで「言葉を知っているならもう話すことはない」といった感じ。少し面食らった。ただ、俺としては何かしらこの謎のアプリ「EFW」の事を知っているなら情報が欲しい。というのも、今のこの状況に「EFW」というアプリが何かしら関係していると感じているからだ。
しかし、悠長に会話を引き延ばす事は出来ない。この場には俺と彼女の二人だけではないからだ。
『無視スルンジャネェ!』
トイレの奥で自己主張するのは左手一本となった作業服の男。男は気短そうに
またも発生した衝撃波だが、流石に2度目は反応できる。
「うおっ!」
「くっ!」
俺と彼女は左右に散る形で衝撃波を回避。結果としてトイレの壁に大き目の亀裂が出来ただけだった。でも、
(……鉄筋コンクリの壁に亀裂……あれをさっき喰らったのか?)
改めて見せられると「よく無事だったな」と呆れるやら感心するやら……
と、そんな俺に彼女が声を掛ける。それは、
「あなた、何ができますか?」
という妙に事務的な言葉。対して俺は、
「何がって……殴るくらいしか」
正直に答える。すると、
「はぁ……物理特化ですか、居るんですよね……
ボソッと言う。そして、
「相手は七等相当の怨霊です、ただ殴っただけでは効きません」
サラッと重大な事実を告げて来る。
「対霊体攻撃が出来る武器やアイテムは?」
そんなの勿論持ってません。武器は
というか、そもそもこの
「あの……一応言っておくけど、そのEFWってアプリ、ついさっき初めて起動したばかりだから」
「え、えぇ!?」
思った以上の反響に逆に俺の方が驚いた。
ちなみに、この瞬間、トイレの奥の作業服が再度衝撃波を放ってきた。狙いは彼女の方。対して、今の俺の言葉に驚いた彼女は不意を突かれている。なので、
――グイッ
俺は彼女の腕を引っ張って自分の方へ引き寄せる事で回避を手伝う(う~ん、大胆……)。
「あ、すみません……ってそうじゃない! ここ八等
「どうやってって……途中までは警棒で殴って……その後はコソコソと移動して」
最初は強がって格好つけようかとも思ったけど、結局は「後半は結構逃げるのに必死だった」と伝えておく。すると彼女は変な表情で頭を振りつつ、
「分かりました、いや、分かっていませんが、分かりました。とにかくそれなりに実力があるということで――」
俺の目を見ると
「ここは共闘しましょう」
と提案したのだった。
*******************
――ブワッ!
迫る衝撃波を寸前のところで躱す。真横を通り抜けた衝撃波が背後の手洗い場を半壊させる。
「あたらないぞ! 何処狙ってるんだ!」
と、挑発までしているのは……まぁ、俺だ。
対して、挑発を受けた作業服の男はというと、
「チョロチョロ、動クンジャネェ!」
まともに挑発に乗ってくれた(単純)。
――ドバァッ!
再び迫る衝撃波を、俺は寸前のところで躱す。今度こそ衝撃波を受けた手洗い場が粉々に破壊される。
ちなみにこの間、黒髪美少女な彼女は一旦トイレの外へ退避している。なんでも「
なので、俺はその間の「
とここで、
「出来ました!」
時間にして3分ほどで彼女は戻って来た。そんな彼女は先ほどのお札よりも大判の半紙を片手に持っている。その半紙には何やら「読めそうで読めない」崩した漢字のような模様が朱書きで書き込まれていた。
「我、
高らかに呪文(?)を唱えた彼女はその勢いで半紙をトイレの床に叩きつける。すると、
――ヴンッ
明らかに「それ」と分かる力の波動が半紙から溢れ出てトイレを包み込んだ。
「いまなら、殴れます!」
息の上がり、かなり消耗した声で言う彼女。対して俺は、
「お、おう!」
と言いつつ、警棒を片手に駆け出した。心の隅で、
(俺って、こんなキャラだっけ?)
と思いながら……。
*******************
結果からいうと、物理攻撃(警棒)が効くようになった作業服の怨霊との戦いはアッサリと決着がついた。
至近距離から放たれる衝撃波は脅威だったが、一発撃つと次までに「溜め」が必要なのは少し前から気が付いていた事だ。なので、一発を躱した後、一気に懐へ飛び込み、
――バコッ
と頭を一発殴ったら、作業服の怨霊のオッサン(?)はその場に崩れ落ちた。
「チクショウ、チクショウ……」
最後まで恨み言を言いながら薄く消えていく姿はどこか「
そして、怨霊の姿がすっかり消えて、トイレの床に薄い灰の山が出来た頃、
「……? あれ?」
と思うような変化が起こった。
これまで、三階フロア全体を覆っていた重苦しく嫌な空気がスッと晴れたのだ。
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