Episode05-27 召喚事故?
俺と彩音は階段を駆け上がり2階を目指す。
(1階の人たちはちゃんと避難を始めたのか?)
と気がかりな点はあるものの、それを最後まで見届けることはできない。
なんといっても、階段の途中を過ぎた辺りから、大きな物音が上の方から聞こえてくるようになったから。それは悲鳴交じりの怒号……というよりも、殆ど悲鳴というべき人の声。後は「ドンドン、バシバシ」と何かを叩く音だったりする。
「迅さん――」
彩音の声には切迫感が籠っている。もちろんそれは俺も同じ。
いや、寧ろ「
今、神鳥は3階を確認し終えて4階へ向かっているが、2階も3階も状況は切迫している。どちらも、廊下には逃げ遅れた人の死体とそれに群がる「怪異」の姿。おそらく4階も同じような惨状だろう。
ただ、犠牲者の数は思ったほど多くないので、もしかしたら、残りの人たちは教室に立て籠もっているのかもしれない。現に、怪異の内の半分ほどは閉まった教室のドアを叩き破ろうとしていた。その音が「バシバシ、ドンドン」と響いて来ている状況だ。
いずれにしても、1階の状況は随分と「マシ」だったようで、2階より上は悲惨だ。そのため、
(いっそ、二手に――)
という誘惑に駆られる。
丁度、階段を登り切って2階へ到着したところだ。2階は旧校舎側にも繋がっているので、ここで「右か左か」の選択に迫られる。ちなみに、旧校舎側(理科室)の方が人は少ないようだが、状況は似たようなモノ。
そういう状況だから尚更「俺と彩音で二手に分かれる」という発想が思い付く訳だが、
(だめだ、彩音を1人にできない)
残念ながら、彩音1人では六等穢界の怪異に太刀打ちできないだろう。
そう思い至り、俺は「誤った判断」の一歩手前で踏み止まる。そして、理科室がある旧校舎側か、教室が多い新校舎側か、という2択問題を自分自身に問い掛ける。
いや、実際は2択ではなく、3階、4階も含めれば選択肢は更に増える。そして、どの選択肢を選んでも、必ず犠牲者は増える。
(サイアクだ……)
思わず頭を抱えそうになる。
「迅さん落ち着いて、一回踊るから――」
とここで、俺の様子を
そんな時だった。
「――私を呼んで」
不意にそんな声が耳元で聞こえた。
それで思わず「え?」となるが、目の前の彩音は「舞い」の真っ最中なので、声は彼女のものではない。
「小鬼を呼ぶようにして、私を――」
声はもう一度聞こえた。その声は、どうやら耳を通じてではなく、頭の中に直接響いている。そして、その声の持ち主は
「……エミ?」
返事の声は聞こえないが、この時、俺の脳裏にはパッツン前髪の黒髪少女がコクリと頷くイメージが鮮明に浮かび上がっていた。
「使鬼召喚――」
「舞い」を終えた彩音が見守る前で、俺はエミが言うように「使鬼召喚」で小鬼を呼び出す。
ちなみに、普段の俺は1人で穢界に入る時に「小鬼」を召喚しているが、通常は1体に止めている。理由は、まぁ、2体、3体と増やしてもコストの割に「あまり役に立たない」から。ただ、召喚すること自体は可能なので、一応「次郎」「三郎」と名前は付けている。
今は1体目の「小鬼太郎」を1階の学食スペースに配置しているので、普通ならば出てくるのは「小鬼次郎」となるはず。ちなみに、次郎は太郎と比べて「痩せている」のが特徴だ。
それで、今回はと言うと、
「……あれ?」
普通に「小鬼次郎」が出てきた。
呼び出された「小鬼次郎」は俺の方を見て「?」という顔をする。ただ、それも一瞬の事で、次の瞬間には、ギョロ目を大きく見開き、驚いた表情になると、
「ぅごぉ――」
妙な唸り声を上げて地面に屈みこむ。
「お、おい?」
「なに?」
全く意味不明の展開に俺と彩音の疑問が重なるが、そんな俺達の目の前で、屈みこんだ小鬼は突如として全身が真っ白になったような発光を始める。そして「あっ」と思った次の瞬間、強烈な閃光を放った。
「久しぶり、迅」
眩惑された視界が元に戻ると、そこには小学校の高学年程の身長に成長した「エミ」の姿があった。
******************
状況的に、色々と訊きたい事が山積みだ。
例えば「どうやって出てきた?」とか「なんで成長してるんだ?」とか。後は「次郎はどうなった?」なども気になる。
それに、
「え? エミちゃん? え、なんで?」
何故か彩音が妙な驚き方をしているのも気になる。
しかし、その辺の疑問にじっくりと向き合う時間は無い。
それは、エミの方も承知しているようで、
「迅は上へ、2階と3階は私が何とかする」
かなり手短にそう言うと、次いで片手を俺の前へ差し出して掌を上へ向ける。まるで「何か頂戴」と言っている感じだが、
「無地の呪符、ちょうだい」
とのこと。
「え? い、良いけど――」
なんとなく、素直に応じた方が良さそうな気がしたので、俺は「
ただ、
「
「みんなって誰?」という疑問を感じるが、とにかく1冊では足りなかったようなので、俺は20冊あったストックのうち18冊までをエミに差し出す(ちなみに1冊50宝珠=5,000円なので、18冊で90,000円)。それで、
「これだけ有れば、たぶん大丈夫」
ようやく納得したエミは、それらの符冊を順番に空中へ放り投げ始めた。すると、投げられた符冊は空中でほぐれるように「無地の呪符」をまき散らす。しかし、不思議な事に、呪符は1枚も地面に落ちてこない。すべてが空中に留まって、まるでドームのように俺達を覆っているようだ。
その状況に俺(と彩音)は頭の中を「?」でいっぱいにするが、当の本人(エミ)はそんな事など意に介さず
「行くよ……出ておいで、
聞き覚えのある
というのも、その次の瞬間、俺はまるで自分の腹に穴が開いて、内臓が全部地面に落ちたような不快な脱力感を覚え……意識を手放してしまったから。
「じ、迅さん!」
彩音の叫び声が、とても遠くから聞こえてくるようだった。
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