Episode06-27 レッツオープン・宝箱!


 六等穢界から、その存在が取り沙汰されていた「宝箱」。おそらく初出は「伝説の90」さんの書き込みだ。


 その中身については、EFWアプリ公式掲示板で度々話題に上っていた。やれ「強力な武器だった」「防具だった」だの「宝珠ショップで見た事のないアイテムだった」だの「金塊だった」だの……そんな感じの事実不詳な報告がスレを賑やかしているのは、現在進行形の話になる。


 ただ、現時点で六等穢界に入って宝箱を取って戻ってくることが出来るアプリユーザーはそれほど多くないようで、「これは本当っぽいなぁ」と思うような書き込みは少ない。寧ろ「それは流石にないだろ」というような荒唐無稽なモノや、書き込んだ人間の願望がたっぷり盛り込まれた「こんな中身だったらいいなぁ」的な書き込みが多いのが現状だ。


 宝箱の中身について、こんな感じで憶測が飛び交っているのは、ひとえに「伝説の90」パーティーという、なんとなく全員が認める実力者パーティーが発見報告の時点で中身を明記しなかったから。


 どういう思惑(もしくは配慮)で、中身を明記しなかったのかは分からないが、俺は


(たぶん、大したモノは入っていないんだろうな)


 と勝手に思い込んでいる。寧ろ「何が出るか分からない」というお楽しみ要素(でいいのか?)で、後進のアプリユーザーを焚き付けようとしたのだと考えているほど。


 とにかく、そういう中身があやふやな・・・・・存在が「宝箱」だ。だから、その「外観」については、尚の事、情報がなかったりする。


 しかし今、彩音は目の前の段ボール箱を指して「これって、宝箱じゃない?」と言う。


「……どうだろう?」


 直ぐには肯定も否定もできない。ただ、よくよく考えてみると、この箱はつい先ほどまで彩音と白絹嬢の2人分の体重を支える「椅子代わり」になっていた。


 2人の体重が合わせて何kgなのかは分からない。しかし、少なくとも彩音は若干着痩せして見えるタイプだといっても、十分にスリムな体形。白絹嬢も見る限りにおいてはスリムというよりも「痩せ気味」な感じに見える。だから、2人合わせても100kgを超えるか超えないかといったところだろう。


 その重量を支えてもなお、段ボール箱はつぶれる事も歪むこともなく「すん」と同じ場所に在る。


「……開けてみる?」


 と言う俺に、白絹嬢はあまり関心が無さそうな素振りで一瞥を返すと、後は袋小路の出口を気にしている。一方彩音は、


「私が開けたい!」


 ご丁寧に「挙手」して主張。


(まぁ危ない罠とかは……ああ、彩音が「罠検知」ってスキルを持っていたんだっけ)


 そう思い当たって確認すると、「全然、そんな感じしないよ、だから開けよう」と随分と前のめりな返事。ただ、そうは言っても、何があるか分からない。それに、目をキラキラさせて段ボール箱に視線を送っている彩音は……もしかしたら冷静な判断が出来ていないかもしれない。


(仕方ないな)


 そう考えて、俺は


「それでも危ないかもしれないから、俺が開ける」


 彩音の抗議の声を押し切って、俺は段ボール箱に手を掛けた。


――ペリペリ


 と、糊が剥がれる感触があって、上蓋が開く。果たして、箱の中身は……


「……何だこりゃ?」

「え、何々……惣菜パン?」


 段ボール箱一杯にぎっしりと詰まった総菜パン。しかもよく見れば「コロッケパン」の1種類のみ。たぶん、全部で40個程入っている。しかし、


「全部……期限切れじゃないか!」


 ざっと見た限りで4日から1か月ほど賞味期限が切れている。


「……」


 「スーパーバリューショップ・与野店」と「賞味期限切れのコロッケパン」で思い出すのは、数か月前の或る出来事。その日、このスーパーで買った賞味期限切れのコロッケパンを食べた俺は、急な腹痛に襲われてこのスーパーのトイレに駆け込んだ。そこで穢界が群発している事を発見し、以後なんだかんだ・・・・・・でこの店にはお世話になっているが……これって、ある種の「因縁返し」だろうか? 良く分からないが少なくとも――


「ハズレ……って感じだね。迅さん、ドンマイ!」


 彩音が変な顔で慰めようとしてくれるのは分かった。


******************


 「ハズレの宝箱」という、思わぬ出来事でちょっと時間を食ってしまったが、取り敢えず行動を再開。ちなみに、賞味期限切れのコロッケパンがぎっしり詰まった段ボール箱は、なんとなく試してみたところ「EFWアプリのアイテム欄に「収納」出来てしまった。なので、現在俺のスマホのアイテム欄には


消費期限切れの総菜パン(毒) 45個


 という珍妙なアイテムがリストされている。


 とまぁ、それはさて置き(ちょっと根に持っているが)、俺達3人は行動を開始。


 「サポートに回る」と宣言した白絹嬢の動きもあって、随分とスムーズに餓鬼や怨霊を斃しつつ、遂に1層の最終端と思われる場所に到着。


「階段……だな?」と俺。

「そうですね」同意するのは白絹嬢。

「でもなんか、変な感じ」と印象を口にするのは彩音だ。


 白絹嬢は馴染みが無いので仕方ないが、俺はこの「スーパーバリューショップ・与野店」の買い物客だし、彩音に至ってはバイトの従業員だ。1階平屋建てだと思っている場所に下へ降りる階段が出来ている事に強い違和感を覚える。


「でも……先に行かないと話にならないからな」


 結局、そういう風に言い聞かせて、俺達は穢界の第2層へ足を踏み入れるのだった。


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