Episode06-28 スーパーの穢界 ④第2階層


――六等穢界から複数の階層が登場する――


 という事前の情報通り、俺達は「スーパーバリューショップ・与野店」に出来た六等穢界の「2層目」に侵入。周囲の状況はというと――


「バックヤードみたいな感じ?」


 と彩音が感想を述べるように、スーパーの「売り場」というよりも、裏側の「倉庫」もしくは、「バックヤード」といった見た目をしている。足元や周囲の壁、天井は「打ちっぱなしコンクリート風」になっているし、通路の両脇にはスチール製の棚(ただし空っぽ)がびっしりと天井まで届く高さで聳え立っている。


「スーパーの裏側ってこんな感じなんだ」


 とつぶやく白絹嬢だが、俺も似た感想。対して彩音は、


「こんな感じだけど……こんなに物が無いってことは無いよ。もっとグチャグチャって色んな物が置いてあって、散らかっている訳じゃないけど、片付いてもいないって感じ? ……それに、ここまで暗くないよ、だって暗かったら何処に何があるか分からないでしょ――」


 とのこと。現在進行形でバイトをしている彩音らしい指摘だ。それにしても……


「ここ、暗いのか?」


 鬼眼スキルの習熟が進んで「暗視」という能力を得た結果、一般的に「暗い場所」でもそこそこ見えてしまう状態になっている俺。お陰で自分意外の人にとって「明るいのか暗いのか」が分かりにくくなってしまっているが、この辺は便利なスキルの弊害といった所だろう。


「え? そこそこ暗いですよ」


 事情を知らない白絹嬢は、俺の声に「何言ってるんですか?」的な反応になるが、彩音の方は


「うん、ちょっと暗いかな……」


 という返事。なので、


「じゃぁ、使鬼召喚、蛍火――」


 俺は照明代わりに「蛍火ほたるび」を召喚。一方で、彩音は白絹嬢に「迅さんって、そういう人なの」的な解説(?)をしている。


「行こうか」


 「蛍火」を呼び出し、俺以外の2人の視界を確保したうえで、俺達は2層を進みだした。


******************


 「サポートに回る」と宣言した白絹嬢は、率先して「使鬼召喚:神鳥」を召喚して、行く先の状況をナビゲートしている。


 まぁ、本来なら先頭に立っている俺が使った方が良いのかもしれないが、今は「役割分担だ」と思って彼女に任せている。そうすることで、彼女が自分から言い出した役回りに少しでも早く馴染んでくれればいいと思う。


 見た感じ、白絹嬢は余り「神鳥」の使い方に慣れていないようだし、習熟度を上げるという意味でもこれは良い機会になるだろう。


 それに何といっても、


(ま、「鬼眼」のお陰で視えているってのが一番大きい理由だけど)


 ということ。


 遮蔽物の向こう側に居る「怪異」の存在も、大体30メートルから50メートルくらいの範囲ならば存在を「視る」事が出来る。なので、白絹嬢の少し慣れない「道案内」でも、問題なく進む事が出来る。


 そして、


「前方、通路の角に固まっています……6匹、いえ8匹!」


 少し進んだところで、白絹嬢が警告を発する。その内容は、勿論俺にも視えていて、


(餓鬼が4匹、呪鬼が2匹……後は怨霊か)


 と、「怪異」の集団の構成までも推定できる。


 ちなみに、角を曲がった先に居る8匹の集団は、別に俺達を「待ち伏せ」しているようではない。何となく、その場に立ち尽くしている感じだ。そういう状況に「視える」ため、俺は手早く作戦を頭の中で組み立てる。


「内訳は、餓鬼が4、呪鬼が2、怨霊が2です」


 少し遅れて相手の構成を伝える白絹嬢。対して俺は、


「彩音、神楽を」

「オッケー」

「白絹さんは怨霊を破魔符で狙って――」

「え? は、はい」

「準備が出来たらおびき出す」


 そんな風に考えた作戦(という程のものでもない)を伝える。そして、彩音の神楽舞3点セットが終わったところで、


「鬼火符――」


 俺は「呪符術:鬼火符」を発動。霊力が籠った呪符を通路の先の曲がり角へ投げつける。


――ボフッ


 呪符は20メートルほど飛ぶと、曲がり角の地面に着弾して赤々とした炎を噴き上げる。おびき出すおとりとしては申し分のない派手さだ。


 当然のように怪異は炎に反応。結果として、


「先に餓鬼が来る」


 素早く反応してこちらへ突進してくるのは4匹の餓鬼。対して呪鬼や怨霊はその後を追うようにして通路の角に姿を現した。


修祓乃舞しゅばつのまい、いくよ!」


 怪異全部が通路に姿を現した絶好のタイミングで彩音が「弱体化」の効果を持つ神楽舞を舞う。その結果、猛然とこちらへ突進していた餓鬼の勢いが弱まる。一方、


「破魔符!」


 白絹嬢は俺の斜め後ろ(彩音とは反対側の右後ろ)から奥の怨霊を狙って「破魔符」を放つ。1層の前半では餓鬼相手に効果が微妙だった彼女の「破魔符」も、法術に対しては打たれ弱い・・・・・「怨霊」相手では効果が高く、おそらく「御垂水乃舞」や「修祓乃舞」の効果も相まって、1発で1匹の怨霊を撃ち落とす事が出来る。


 と、そういう状況を見届けたところで、先頭の餓鬼が俺の間合いに入る。


(ギャギャーと突っ込んできてガブリと噛み付く……ほんとこいつらワンパターンだな)


 相手の行動の未来予想は「鬼眼」スキルでお見通し(まぁ、スキルが無くてもワンパターンさに変化はないけど)。4匹で一斉に飛び掛かってくる様子は、確かに少し怖い見た目ではあるが、分かっていればどうという事もない。


「――っ」


 俺はサッと半歩下がって「飛び込み、噛み付き」攻撃の間合いから外れ、


「ギョッ?」


 中途半端な感じで着地した4匹の餓鬼目掛けて「須和羽奔・形代」を振るう。最初の一閃で2匹の胸元辺りをザックリ切り裂き、その剣先から飛び出た斬気が追加でもう1匹の首筋をバックリと割る。


 そして、残りの1匹に対しては、剣を振りぬいた勢いのまま、腰の回転を使った蹴りを叩き込む。結果、


――ドンッ


 という手応えと共に、蹴られた餓鬼は通路の奥へ吹き飛び


(そのまま、呪鬼に当たれ!)


 後方に居た2匹の呪鬼に衝突しそうになるが


(――っ!)


 衝突の一瞬前に、2匹の呪鬼の姿が溶けるように掻き消えた。


(影渡り?)


 咄嗟に後方を振り向くと、そこには彩音と白絹嬢の姿。そして、その背後に金棒を振り上げた状態でヌッと姿を現す呪鬼の幻影。どうやら呪鬼は「蛍火」が作った2人の影目掛けて「影渡り」を仕掛けてきた模様。


「彩音、白絹、影だ!」


 咄嗟に声を張り上げる俺(咄嗟過ぎて白絹嬢も敬称略だ)。対して2人は反射的にその場を離れる。果たして、


――ガツッ!


 影渡りを終えた直後の呪鬼2匹がそれぞれ振り下ろした金棒は、そろって誰もいない床を強打。結果は見事な空振りに終わったが、


(影渡りの溜めが少ない?)


 俺はそんな感想を持つ。七等穢界の呪鬼ソレと比較して六等穢界のコイツらは、溜めが短く、影渡りを終えた後も直ぐに行動に移ってくる。全体として隙が減ったと思う。


 そんな感想というか考察というか、そういうモノを頭に浮かべつつ、俺は2人に状況を確認。2人そろって初撃は躱したものの、その後の展開は少し違ってくる。


 まず彩音。飛び退いて初撃を躱した次のタイミングで、既に「祝福されたソード&スピア」をスピアの状態で構えると、猛然と反撃に移っている。前回、複数の呪鬼に囲まれて「ヤバい状況」に陥ってしまった事に対する反動だろうか? 「絶対斃す」という気迫めいた(ちょっと怖い)勢いを感じる。


 一方、白絹嬢は、その直前まで奥の怨霊を狙って「破魔符」を発動していた。そのため、近接戦闘に移行できていない。咄嗟に手に持っていた呪符を呪鬼へ投げつけるが、


――バンッ


 と破裂する「破魔符」でも、六等クラスの呪鬼には余り効果が無く見える。


(こりゃ、白絹さんを援護だな)


 俺としては何を置いても彩音を助けたいが、状況として彩音は気迫と手数で呪鬼を圧倒しつつある。なので、白絹嬢を援護する事に決めると、剣を片手に呪鬼へ接近。ちょうど、背後から忍び寄るような恰好となったので、そのまま剣を一閃


「グオォ?」


 訝しむような声を上げる呪鬼の片腕が、握った金棒と共に床へ落ちる。


「今だ、白絹さん!」


 俺の声が無くても、彼女は行動に移っただろう。ほとんど同時に短く気合を込めるような声が響き、そして、


――ドスッ


 と音が出るような勢いで、呪鬼の背中側に突き刺された「退魔刀」の切っ先が姿を現す。


「よっしゃ、斃した!」


 隣で、彩音が喝采にも似た声を挙げた。どうやら、彼女は1対1で六等穢界の呪鬼を斃したようだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る