Episode07-10 「エミfeat.お仲間怪異軍団」の威力③ 頑張れ迅!


 実はこの少し前、俺はエミと「お仲間怪異軍団」に対して、「もうちょっと遠慮してくれ」というニュアンスの事を言っていた。そうでも言わないと、俺の所まで怪異が回ってこないからだ。


 別に「戦闘したい!」という戦闘狂ではない。ただ、自分の「足りなさ」を認識したばかりだったので、もっと積極的に剣を振るい、法術を駆使し、身体を使って自分を高めていきたい。そういう気分になった訳だ。


 少しの説得は必要だったが、結局エミは俺の「お気持ち」を尊重してくれて、ぬえ夜斗やと狒々ひひの面々に、


――なんか、迅がご機嫌ナナメだから――


 喋った内容はともかく、「サポートに徹する」という旨の指示をしてくれた。


 それで、俺は「よし、次から頑張るぞ!」となっていた訳だが、その直後に出くわした怪異が「野槌のづち」だったという状況。


(いきなり初見の怪異かよ、それも3匹)


 ハッキリ言うと初見の怪異は戦い難い。少し前のスーパーバリューショップ与野店の穢界で出くわした「傀儡くぐつ」なんかを例に挙げれば分かりやすいが、意外な耐性だったり攻撃方法だったりを持っている場合は、対処方法をみつけるまで苦労を強いられる。


(でも、ここで「やっぱり――」とは言い難いんだよな)


 「自分が前に出る」という大見得おおみえを切った手前、「あのぉ、やっぱり止めときます」は恰好が悪い。それに、初見の怪異であろうと、まずは自分の手の内から有効だと思われる戦術を選んで対処する事も大切だろう。


(まぁ、サポートはしてくれるだろうし)


 ここはイッチョ、頑張ってみようと思う。


 ということで、俺は目の前の3匹の「野槌」を観察。サイズは太さ4~50cm、長さ3~4mで目立った個体差は無い。今のところどちらが頭部でどちらが尾っぽ・・・なのか分からないが、他の特徴としては、全身に枯草のような剛毛を生やしていて……


(燃えやすそう)


 完全に「見た目」をヒントにした思い付きだが、直感的に「悪くない着想」だと思う。ということで、


「――鬼火符!」


 早速俺は、炎を纏う呪符術を発動。俺の手を離れた呪符は小さく赤い炎の線をらせん状に曳きながら短い距離を飛び、


――ボンッ


 3匹中、一番手前の1匹に着弾。着弾と同時に燃え上がる炎が、思った通り、野槌の体表を覆う剛毛に燃え移り、松明たいまつのように燃え上がる。


(やったか?)


 と思うが、まぁ、六等の怪異がこんなに簡単に斃せるはずもない。


――ノヅチ・ランク6〇黄緑――


 ARグラス内の視野には野槌の上にそんな表示が出ている。体力を示す表示が緑から黄緑に変化しているが、見た目の派手な燃え上がり方に比べるとダメージは低い。


 むしろ、


――ギュロロ!


 鬼火符の炎によって、文字通り「火が着いた」野槌は、次の瞬間には3,4メートルある身体の一端を持ち上げる。そして、持ち上がった身体の端が「クワッ」とこちらに向く。そこが頭部なのだろう。丸太の端面のような頭部には、円形の口があり、鋭い歯が環状にびっしりと生えているのが見えて、


(キッショ)


 思わず、ちょっとビビる俺。


 一方、野槌の方は俺がビビッていようがいまいがお構い無し(そりゃそうだ)で、次の瞬間には、凄まじい瞬発力を発揮して飛び掛かってきた。


「どわっ!」


 「鬼眼」で見えていなかったら、あの気色悪い口で頭を齧られている所だったが、まぁ、なんとか避ける俺。


「手伝う?」


 とは、後ろからのエミの声。それに対して俺は、


「まっ――だっ!」


 言いつつ、右手で「須波羽奔すわのはばしり・形代」の鞘を払い、抜きざま・・の斬撃で野槌を斬り付ける。剣身は野槌の胴を薙ぎ払うように奔ったが、手応えは


――グニュ


 という感じ。何か弾力の強い、ゴムチューブを斬り付けたような感覚で、刃が立っていない感触だった。


(斬れない、か?)


 実際は斬れてない訳ではないだろうが、傷としては浅く、ダメージもほとんど通っていない感じ。


 おそらく、これが「攻撃が効いていない感じ」の初見だったら、結構焦っただろう。ただ、俺は少し前にこの手の「攻撃が効きにくい相手」を散々経験している。そして、その場合の対処方法もそれなりに確立している。


(傀儡さまさまだな)


 ということで、俺は腹のあたりに集まっている体内の霊力に意識を集中。それを全身に通わせて、更に右手の先の剣身にも行き渡らせる。自力で編み出した、霊力を用いた身体能力と攻撃力の強化法。名付けて「霊交剣」だ。


「あれ? 出来るんだ……」


 と、背後からエミの声が聞こえてきたが、今はそっちに構っている場合じゃない。


――ギュロロ


 依然として身体を燃え上がらせている野槌が再度攻撃態勢に入ったから。気色悪い輪っか状の口を俺へ向け、歯をガチガチ鳴らしながら再び猛然と飛び掛かってくる野槌。


 先ほども「視えた」が、その突進速度は尋常じゃない。


 ただ、俺の方も霊交剣によって身体機能が強化されている。その強化具合は彩音をして「キレッキレ」と言わしめる程。今の状態ならば、鬼眼がもたらす「未来視」の幻影ビジョンに対応できる。


「――っ!」


 飛び掛かってくる野槌を、俺は左斜めに一歩踏み出して、最小限の動作で避ける。そして、弾丸のように飛び去って行く胴体に横薙ぎの一閃。


――ザンッ!


 小気味良く太い繊維を断ち斬る手応えと共に、長い胴体を両断された野槌が、地面をえぐりながら転がっていく。


 転がった先で野槌の両断された身体は、それぞれが身をくねらせるようにして暴れるが、直ぐに「スンッ」と大人しくなる。そして、ボロボロと端の方から灰になって崩れ出した。


「ふう……」


 霊交剣による強化が効いた事にホッと胸を撫で下ろす俺だが、


「迅、まだ2匹いるよ!」


 そんな俺に、エミが注意を促す声を掛ける。そして、


「野槌はね、雷撃が効くんだよ!」


 ヒントをくれるタイミングとしては「なんで今?」な気がするが、この後、俺はエミの助言に従い「武雷符」という(最近覚えたスキル)雷撃効果を持つ呪符術を使う事になる。


 結果は、「鬼火符」が野槌をいきり立たせた・・・・・・・のに対して、「武雷符」の電撃は、野槌を軽いショック状態にするようで、ほぼ動きが止まった野槌への対処はとても簡単だった。


(だったら、先に言えよ)


 と文句を言いたいところだが、この辺の試行錯誤も含めて、強くなるためには必要な事なのだろう。



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